警察の矜持
彼の黒い髪は緩く結ばれ左肩から流されていて、紺の軍服に差し込まれた金色の多さから、何となく過去の実績が見え隠れする。
先ほどの男ほどではないけれどすらりと背が高く、背筋の良さもあいまってただ者じゃない雰囲気を感じさせた。
はっきりした強い縁が左右の2人と繋がっている。
実際に目の前にするのは初めてだったけれど、この人こそ「刑事一課 白石課長」であることはすぐにわかった。
「わざわざ来てもらってすまない」
「いえ、お忙しいところお時間をいただき、誠にありがとうございます」
「先に2人を紹介しよう」
白い手袋をしたまま手をあげ、左の人間を指した。
オールバックの黒髪と細い目は、軍人らしい強さを感じる。
役職を持つ人間としては若く見える彼は一歩前に進んで、美しい所作で敬礼をした。
「私は刑事一課 1係 係長 堀江だ。よろしく頼む」
「よろしくお願いいたします」
次に右の女性が一歩前に出る。
豊満な姿は今関さんを超え、高くひとまとめにした赤い髪の先はくるりと巻かれている。
赤みがかった瞳をまっすぐ私に向けて、同じく敬礼をした。
「刑事二課 課長
「よろしくお願いいたします」
…刑事二課?課長??
「最後に改めて、刑事一課 課長の白石だ。よろしく」
「はい、よろしくお願いいたします」
特殊警察局は軍隊の風習が強い。
倣って慣れない敬礼を返すものの、私の頭は混乱していた。
ただでさえ同じ役職同士で話し合うべきところを、課長もおらず、係長もいない一般局員の私に、相手は係長が1人、課長が2人。
…分が悪すぎないかな?
「どうぞ掛けてください」
「はい、ありがとうございます」
課長席の前に置かれたソファに誘導された私は、おとなしく腰掛ける。
相手は白石課長を中央に向かいへ座ってきた。
圧が、圧がすごい!
カチャリと音を立てたと思えば、白石課長の前にいつのまにかコップとポットが並んでいた。
「特殊警察局に来たことはあるかい?」
「ありますが、刑事一課は初めてです」
「そうか、なら雰囲気が違うから驚いただろう」
「…はい、行くとすればいつも四課なので」
トポポポポ、と静かな空間に水の音。
ああ、と白石課長は気づいたように声を出した。
両脇2人は一切表情を変えない。
怖いんですが…。
「四課、なるほど。君の『縁視』の力か」
「はい、前に依頼を受け捜査に協力したことがあります」
違う課なのに、よく知ってたな。
私の表情が伝わったのか、白石課長は2つ目のカップに注ぎながら口を開いた。
「『縁視』の局員は珍しいからね。私たちも君の存在は知っている」
「そう、でしたか」
やがて3つ目のカップにも注ぎきると、1つをこちらへ差し出した。
「どうぞ。アールグレイだ」
「ありがとうございます、いただきます」
両脇の2人にもカップを配ると、彼はさっそく一口飲んで息を吐いた。
「私は紅茶が好きでね、来客には直接もてなしをさせてもらっているんだ」
「そうでしたか」
カップを近づけると鼻腔をくすぐる良い匂い。
それは淹れる上手さと、茶葉の良さと、そして育ちの良さを感じた。
白石家
もちろんこの家も有名だ。
なにせ前代の特殊警察局 局長は白石課長の祖父だし、父親は確か局長直下の役職持ちだったはず。
特殊警察局のサラブレッドとは彼らのこと。
古くからある家に多い、分家がたくさんあることも特徴的で、現代では珍しい『血筋』にこだわることでも有名だった。
「美味しいですね」
今とても貴重な経験をしてるなあ、なんて少しだけ現実逃避した。
向かいで白石課長が笑顔を浮かべると、カップを置いた。
「…さて、本題にいこうか」
ぴりり、と空気が張り詰める。
私は味を感じないそれを、ソーサーの上に戻した。
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