お探し物は厄介なアレ
少しして、玄関でひと悶着していた2人が部屋に入ってきた。
急にすみませんでした、とさわやかな笑顔で言ってくるのは松島家の嫡男、慎介様というらしい。
その笑顔にはまったく反省の色が見えなかったけれど、
埜々子さんが彼のわき腹に肘鉄を食らわせてくれたので、よしとしよう。
「今日はのう…『髪留め』探しをお願いしたいのじゃ」
2人が座ってから玄竜様は早々に本題に入った。
目配せされた慎介様は、スマートフォンで画像を映して私たちに見せる。
それは青い石のキラキラした花が印象的の髪留めだった。
「こちらですか…」
「何これ…おばあ様かお母様の?」
失礼して、画像をよく見させてもらった。
透明な青い花の根本は木でできているみたいだ。
木と樹脂を組み合わせて作られた花だとすれば、技術力が必要な良い代物だと思う。
でもなんだか、年代物って感じではないような…。
「いや、これはね、3日前に買ってきたものなんだ」
「3日前、ですか…」
うーん、これはまずいかも。
私は経緯を聞くべく口を開いた。
「先日購入されたばかりのもの、ということでございますね」
「そうじゃ、プレゼントにと準備していたのだがなあ…昨日から家じゅうひっくり返しても見つからなんだ」
「ちなみに購入した店はどちらでしょうか」
「月島駅から少し歩いたところにあるお店じゃ」
「そのお店で他に購入したことのある品はございますか?」
「いや、ないが?」
「そうですか。ありがとうございます…」
『縁』は長くひとところあればあるほど、はっきりした色で現れる。
また、長く一緒にいた品があればあるほど、探し物が持つ縁を見つけられる。
つまり、この家のものを使って前のように『髪留め』の縁は見つけられないってことだ。
とすると、『髪留め』と同じくお店にあった品を使えば…と思ったけれど、その品がないのではこの方法も取れない。
今回は骨が折れそうだ。
「今関さんに聞いたんだがなあ、吉川さんは『縁視』なのじゃろう?どうか見つけてはくれんかのう」
「…正直、新品のモノの縁を視るのは難易度が高いですが…やってみます」
「どうしても今日見つけたいんだ、申し訳ないが頼りにしてるよ」
慎介様が困った顔をしている。
せっかくもらった仕事だ、手がかりの1つでも掴まなければ。
私は意気込んで彼らに向かって頷いた。
「埜々子は吉川さんが探している間、一緒にお話ししようね」
「嫌よ、菜子ちゃんと探す。仕事中だから話しかけないで」
わあ、いつもの消え入りそうな声とはうってかわって、はっきりとした口調だ。
「そっか…」
しゅんとする慎介様。
早めに解決して、埜々子さんには家族の時間をゆっくり取ってもらおう。
「でもお仕事モードの埜々子…かっこかわいいなあ…」
「…………」
うーん、埜々子さんのためにも早く解決しよう。
頑張る理由を頭の中で書き換えた私は、すぐに調査に入った。
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