埜々子、動きます。
早速私は家や敷地の縁を視て歩いた。
共通の色がないならば、どこにも繋がっていない縁を探せばいい!
別にやけくそになったわけではない、決して。
とはいえ、外に出てしまえば松島家の人間にも建物にも繋がりのない縁は多いわけで、案の定私はかなり苦戦することになってしまった。
「…どうかな…菜子ちゃん」
「うーん…」
「「…………」」
このやり取りはいったい何回目だろうか。
どんどん元気を無くしていく埜々子さんに何もできないのは、なんとも悔しい。
気持ちだけが急いて、結局すべての部屋や庭を含む、文字通り家中を回ってしまった。
「ど、どうしよう…」
「…手がかりは…なかったみたいね…」
埜々子さんがどんな目で私を見ているのかはわからないけれど、声はとても不安そうだ。
「すみません、縁の少ないものを探すのは難しく…」
カアー、と、タイミングよくカラスが鳴いた。
その声に顔をあげてみれば、空はすっかり赤く染まっている。
夜になっても問題はないけど、このまま有力な情報は見つかるだろうか…。
私も不安になってしまった。
「私も…探してみるわ…」
「え、埜々子さん、どちらへ?」
「家の中をもう一回探してみる…菜子ちゃんは庭を…お願い…」
「はい」
2周目は別れて探すことにした。
指示されるまま、私は庭に出るべく靴を履く。
振り替えると、埜々子さんが足早に角を曲がって消えていくところだった。
―――――――――――
「(なんとか、しなきゃ。菜子ちゃんにばっかり頼るわけにはいかないわ)」
この家は、嫌い。
いろいろな記憶や想いが重くのしかかってくる、この家は嫌い。
ここの空気を吸うだけで、家族の顔を見るだけで、
責められているような苦しみが、辛くて、辛くて、息ができなくなりそうになる。
でも、それでもやっぱり。
「(私には純粋な家族がいるんだもの、大切にしたい)」
過去の過ちを許されず、家族から縁を切られたカケルくん。
家族を守るため、自ら別離を選んだ灯ちゃん。
愛する人の幸せのため、未来の家族を捨てた今関ちゃん。
異端の特殊能力によって終わりのない苦痛を与えられている菜子ちゃん。
だけれど、今みんなは毎日笑って、楽しそうに過ごしているんだもの。
家族に恵まれた私が、みんなに、家族にできることは何か。
少なくとも今は――――髪留めをなんとしても見つけることだ!
白くて邪魔な軍服を脱いで、私は腕捲りをした。
目の前には草木の群れが生い茂っている。
菜子ちゃんが「見えないもの」を視て探すなら、私は「見えるもの」を見て探そう。
1つ気合いをいれて、わたしは土の上に一歩踏み出した。
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