逆襲の2戦目

私は歓声の下、黒いジャケットの袖を少しだけ短く折った。

そして同じような黒い手袋をはめて、手を開閉して感触を確かめる。


歓声が直接身体に響いてくる。

でも、先ほどまで聞いていたとは思えないくらい、その声は遠く遠く聞こえていた。


緊張、している。

だけれどそれ以上に、私の中には強い想いが渦巻いていた。



大会などに勝ち進むつもりはない。

でも――――あの青年には、一泡吹かせないと気が済まない。



『さあ!7係最後のメンバーは 吉川 菜子 だあ!!』



わあわあと歓声が大きく広がる。

少し強張った顔のまま、私はまっすぐに彼を見据えた。


中央には、にやりと笑う四野見塚がいる。

多少土で忍者服は汚れているが、体力気力共に大した消費はしていなさそうだ。



『2係 四野見塚はこのまま3連勝となるのか?はたまた7係が一矢報いるのか!!』

『吉川さんは約2年ぶりの出場ですね~どのくらいの実力をつけてきたのか、楽しみねえ』



司会と解説の声すらもどこか遠いところから聞こえる様な気がする。

それだけ私は目の前に集中をしていた。



『お前のような甘ちゃんは、地面に這いつくばってるのがお似合いだな!』



カケルくんにかけたあの言葉を頭の中で何度も繰り返す。

彼は、カケルくんがどれほどの無念と苦しみを背負っているか知りもしないんだろう。



するり、と既に顕現させていた刀を抜いた。

柄も鞘もすべて白いこの支給品の刀は、反りに沿って緑色の線が描かれる。

日に当たって眩しく輝くそれを構えると、四野見塚は楽しそうに自分の武器を逆手に取って構えた。



『さあ!両者とも準備は万端のようです!

 —―――――それでは、はじめ!!』



さあ、戦いの時間だ。


先に動いたのは四野見塚の方だった。



「木遁!!」



地面がわずかに振動したのを感じて、私は後ろに飛びのいた。

その瞬間、地面から蔦が3本飛び出してうねうねと私の足を掴もうと迫ってくる。


避けながらそれらを1本ずつ切り捨てると、蔦はあっさりと役目を終えて土に還った。



「さっすが7係のエースと呼ばれるだけあるね!」



四野見塚の表情は嬉しそうだ。



「その『エース』がどれだけクソ弱いか晒してやれる!!ああ、楽しめそうだ!」

「…」



5mほど彼と距離を取った私は、両手に刀を乗せて集中する。

何が来るのかと四野見塚は攻撃を止め、こちらの様子を見ているようだ。

私は小さな声で呟いた。



「【筋力強化 対象:全身 刀身硬化・魔防強化 対象:全属性 効果:小】」



『言霊』によって、力がみなぎるのを感じた。

腰を落として刀を構えなおす。

四野見塚が手を前に出し、詠唱が始まった。



「火遁!火球の舞!」



火の玉が迫る光景が見える。

私は強く地面を蹴った。



「丸焦げにしてやっ……」



続きの言葉は、私の刀を受け止めたことによってかき消された。

火球たちはろうそくの火のように消え失せて、彼が立っていた場所には私が武器を下ろして立っている。


私の視線の向こうには、飛ばされて膝をついた四野見塚がいた。



「て、てめえ…!

 ……いや、なるほどな。それが『言霊』による身体強化ってわけだ」



体勢を立て直して彼は余裕だと言わんばかりに声を出す。



「あはは!お目にかかれて光栄だよ!!

 符術の使えない出来損ない女の処世術!実際に見ても噂通りの小汚さだ!!」

「その小汚いのに不意を突かれた気分はどうかな?」

「…てめええ…!!」



刀をくるりと回して見せれば、彼は簡単に煽られてくれた。

私は目を細めて彼の姿に再度集中する。



「【縁視 感知範囲:小】」



縁っていうのは、ただ物の繋がりが視えるだけじゃない。

彼には負けるわけにはいかないからね、大人げなく本気を出すことにしよう。

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