悔恨の決着

言霊を唱えた瞬間、視界に映っていた縁がふわりと消え去った。

それも一瞬、すぐに数本の縁が現れる。

それは、私と四野見塚だけを繋ぐ縁。



「はあっ!」



逆手に持った刀が私に迫る。

後ろに飛び乗って次の斬撃を受け流すと、ふわりと赤い縁が私の右肩に繋がった。

私は咄嗟に肩をかばうように白い刀を構える。



「…ちっ!」



ガキン!と音を立てると私の右肩があった場所は刀同士が削り合いを始める。

赤い縁は消え去った。


次は脇腹、左腕、右足。

次々と赤い縁が私の体に繋がっては、彼の斬撃を避けることで消えていく。



「ふん!まあまあやるようだね!」



少し距離を取って四野見塚は息を整えた。




――――――――――――――――――――



「すごい…」



入場口の近くで菜子っちの試合を見ているあたしの隣で、カケルはポツリとつぶやいた。

どうせ、四野見塚の素早い斬撃を的確に受け、避け続けている姿に驚いだんだろ。


前まではあたしも驚いて見ていたけど、今回はそのが分かっていた。



「この前さ、『縁視』の新しい論文が出たんだ」

「論文、ですか?」



前に1係から帰ってきた菜子っちが、急用で執務室を出るときに置いて行った雑誌。

あたしはあの後その雑誌をなんとなーく読破した。



「…もしかして、研究誌のこと…?」



その様子を見ていたやっちゃんは気づいたように聞いてくる。

あたしは頷いて、菜子っちの『視えている世界』を想像した。



――『縁視』は、繋がる縁の色や形で『直近の未来』が見える。



端的に話せば、論文にはそう書かれていた。




「例えば『運命の赤い糸』ってのは、特別な愛情を持つ人同士の『強い縁』だろ?

 それは見方を変えれば、赤い糸で繋がった人間同士は愛し合う『未来』があるとも言えるんだってさ」

「…わたしも読んだわ…」

「はあ、それがこの試合とどういう関係なんですか?」



つまりなあ…ええっと、何て言えばいいんだ?

言葉に詰まったのがわかったのか、やっちゃんが説明してくれた。



「…自分に繋がる縁を視れば、この先自分と相手がどうなるのかが予測できる…。

 それが『赤い糸』なら『恋人』だけれど、『危険な色』なら…」

「?」

「つーまーり!

 菜子っちは『どこに相手の攻撃が来るか』視えるっつーことだ!」



ええ!?

カケルは驚いて菜子っちを見た。



「…言われてみれば、なんだか…わかっていて動いているような気も…」

「菜子っちの強さは『言霊』と『縁視』からきてるってことじゃねーの」

「…うん、そうだね…」



――――――――――――――――――――




ガキン!と刃がぶつかる音が響き渡る。

私と四野見塚の力は拮抗し、互角の争いが続いていた。


地面から赤い縁。

私が飛び退いた途端に地面から土の塊がせり上がった。


少し距離が開き、彼の様子を観察する。

息が上がっている、だいぶ消耗させられたみたいだ。


だけれどそれは私も同じ。

身体強化をし続ければ体力の減りも早く、早々に終わらせなければこちらが持たない状態だった。

目も疲れ始めている。視えても体が動けなければ意味がない。



「やっぱり、やるねえ」

「…それはどうも」

「でも、そろそろ君も限界でしょ?あはは!そろそろ決めちゃおっかな!」



その余裕は虚勢か本物か。

一気に距離を詰めてきた四野見塚に、私は身体を固くして迎え撃った。



小さな火球が私の顔の傍を通り抜けていく。

一瞬の熱い感覚に目を細めると、上から刃が降ってきた。

右へ受け流すように身体を傾けながら、空いた左手の鞘で彼の顔面へ向けて振り上げる。


しゃがんで避けられると思ったら―――素手で掴まれた。



「なっ」

「隙見っけ!!」



気づけば彼は刀を放っていた。

刀を持っている右手を動かそうとしたが、動かない。

開いた手で術を施していたんだろう、視界の端でいつの間にか土の塊が手ごと刀を覆いつくしていた。


私の両腕を封じた四野見塚は、そのまま柔軟な動きで足を振った。


赤黒い縁が私の頭右側面の衝撃を予知する。



――――しまった、間に合わない!!



私は思わず叫んだ。




「『障壁』っ!!」



バリィィッッ

ミシッ



割れ砕ける音と、骨の嫌な音が頭に響いた。


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