『雷鳴』の轟く噂とライトス
水道橋。
ビジネス街もあり、家族で楽しめるスポットもあるにぎやかな場所。
その明るさや活気と裏腹に、私の心は少し沈んでいた。
『
若い男たちを中心に集まる、『反特殊治安局』グループ。
政府による管理を拒否した様々な能力者が集まるグループの1つで、東京では有名な一大勢力となっている。
都心を担当とする1係や2係とは、度々怪我人が出るほどの抗争を起こすという危険極まりない人の集まりと言われている。
私は噂に聞くだけだったけれど…はあ、関わることになるとはなあ。
つい1か月前に抗争が起きたときは、2係の何人かが大けがしたとか。
軍服、着ていきたくないなあ…。
歩いて15分ほど。
普通の恰好で人通りが少ない道まで来た私は、重い気持ちで白い軍服に袖を通した。
そこの角を曲がれば、とある喫茶店が見える。
『ライトス』と呼ばれるその店は、彼らメンバーが運営しており拠点の1つと言われていた。
―――――――――――
アンティークな扉を開けると、カラン、と上品な音がした。
『ライトス』は10席ほどの小さな喫茶店だった。
椅子も机も濃い茶色で統一されていて、机にはそれぞれ違う小さなガラスの瓶と一凛の花が刺さっている。
それは木漏れ日を浴びて空間に良い差し色となっていた。
人形使いの
誰に会うかを考えなければ、好みな雰囲気のお店だ。
「…いらっしゃいませ」
低音の男性の声が部屋に響き、私は現実に戻された。
振り返ると、怪訝そうな顔をした白シャツの男性がこちらを見つめている。
確か…『
この店の店主でグループの幹部を務めていた、と聞いたことがある。
なんとか穏便に済ませられないかな…。
「こんにちは」
「…特殊治安局の方は、あまり歓迎はできませんが…まあどうぞ、こちらへ」
私は促されるまま、カウンターに腰かけた。
――――――――――
後ろで束ねているグレーの髪が私の前で左右に揺れている。
コーヒーを頼んだ私は、何も話さず彼が作る様子をじっと見つめていた。
高い背を少し丸めて、骨ばった手でコーヒーを淹れている。
30代半ばくらいかな、自分よりも年上であることはわかるが、店内のように落ち着いた雰囲気を纏う姿はまさに大人の男、という感じだ。
「…あなたは初めて見る顔ですね」
「申し遅れました、支援一課 7係の吉川と申します。あなたは沖永さんでしょうか?」
「ええ、そうです。
…なるほど、7係とは珍しいですね。支援一課でも嫌われ、訳アリばかりが集う異色の係でしょう?」
穏やかな声色でさらっと毒を吐いてきた。
本来の姿は別にあるんだろう。
「……間違いありませんね。なにせ私自身がここに寄越されたことに驚いていますし」
「ふふ、正直ですね」
こと、と置かれたのは良い香りが漂うブラックコーヒー。
その匂いにじっとカップを見つめていると、沖永さんはふふ、とまた笑った。
「毒など入っていませんよ。一応ここは喫茶店なので、お客様へのおもてなしは平等にします」
「あ、いや、良い香りだなと思っていまして…失礼しました」
一口飲む。
おお、苦みと酸味がちょうどいい。
普通のお店なら通うのになあ…。
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