『縁視』の行方とガミガミイヌ

「それで、珍しい7係のあなたが何の用でしょうか?」



沖永さんは私の正面ではっきりと言った。

その瞳は温かみの中に鋭さがある。

私はもう一口コーヒーを飲んでから、口を開いた。



「『瀬 明人』さんに会いに来ました」

「瀬ですか、とすると…特殊能力者の調査、というところでしょうか」

「そうなりますね」



沖永さんの目に猜疑心が宿る。

私の言動を見てどう対応するか考えている、というところかな。

縁の色を見るに、完全に敵と思っているわけではなさそう。


どちらかというと、危険なのは沖永さんの縁より…。


ばたん!と店の奥から大きな音が聞こえてきた。

扉の音?

私と沖永さんが同時に音の方向を見る。

黒い影が見えたその瞬間、



「………!」



バチバチと電気の線が私の目をちかちかさせる。


その光を纏ったこぶしを私に突き立てるのは、沖永さんではない別の人間のモノだった。




「…てめえ、何の用だ!」



ぐるるる…と威嚇の声が上がりそうなほど低い声。

私はコーヒーを持って振り返った体制のまま、片手をあげて降参のポーズをとった。



「あなた方に危害を加えるために来たわけではありません。それを下ろしていただけますか?

―――荒道あらみち 悠馬さん」



雷鳴の中でも抜きん出た力と気性の粗さで有名な青年、『荒道 悠馬』

私にこぶしを突きつけ脅してくるその人だった。



「…悠馬」



体感数十秒が経過して、沖永さんが冷静な声で荒道さんを制した。

舌打ちの後、彼はこぶしを下ろす。

私を睨む目は何も変わらなかったが、殴られる心配がなくなったので私は安心してコーヒーに口をつけた。


まったく、1係や2係はどうやったらここまで関係をこじらせられるのか…。

とりあえずぱっと浮かんだ1係 係長の鴨川さんを恨んでみた。



「瀬 明人さんにお会いしたいんです。特に何かを求めるわけでも、何かするわけでもありません。

 会わせていただけませんか?」

「…会ってどうするつもりだよ」

「お話ししたいだけです。私は様子を見に来ただけです」

「それだけじゃねえだろ!?」



ちょっとだけ、違和感を感じた。

どうして彼はこんなに気が立っているのだろう。

沖永さんをちらりと見ると、無表情で何も読み取れなかった。



「…逆に伺ってもよろしいですか?」

「なんだよ」

「どうして瀬さんと会うことをそこまで嫌がるのですか?」

「……てめえ、いつもやりあってるやつらの仲間じゃねえのか?」



質問を質問で返されてしまった。

私は椅子を降り、改めて荒道さんと向き合った。



「名乗りが遅れました。私は支援一課 7係の吉川と申します。

 命を受け瀬さんの状況を確認するため参りました」

「7係?」

「ええ、なので、1係や2係があなた方と何をいがみ合っているのかはよく知りませんし関係ありません。

 私は本当に『様子を見る』ためだけにここへ来たんです」

「…………」



沖永さんを超える猜疑心の塊みたいな顔だ。

今この場でそれを崩すのは難しそうだ。

うーん、仕方ない、あれを言ってみようか。



「瀬さんは『縁視』なのでしょう?」

「そうだ」

「彼は特殊能力者になって日が浅いです。

 特に『縁視』であれば心の負担も大きいはず。

 だからこそ彼にはできる限りのサポートが必要と私たちは判断しました。

 彼に会わせてください」

「信じられるかよ!!」



荒道さんは大声を出して私をさらにきつく睨む。



「…じゃあ、あんたは知らないんだな」

「何をでしょう?」

「前に2係のやつらを明人に合わせた時だ…!」



手を強く握りしめ、食いしばるように顔をゆがめる。

何も聞いていない私は黙って続きを促した。




「瀬くんを強引に連行しようとしたんですよ」



後ろから沖永さんの声が聞こえた。



「『縁視』は危険な存在、隔離施設へ連行する、と言ってね」



………『縁視』の隔離施設、か。

残念ながらその存在は本当だ。

困ったな…そんなやりとりをしてたなら先に言ってほしかった。

恨む対象が仮名課長に変わる。



「…そんなことが…」



これはもう、一度出直した方がいいかも。

そりゃそんなことさせてたら、私にも会わせてくれないよね。



「…わかりました。今日は帰ります。

 私もいろいろと調べてから伺った方がよさそうですから」



カウンターに代金を置く。

帰ると決めたらさっさと帰ろう。


なぜか茫然としている荒道くんの横を通り過ぎると―――




「待ってください!!」



頭上から別の少年の声がした。

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