窮鼠は猫も噛んじゃって

目線で行われた女?同士の意気投合が終わり、次の係の報告となった。

3係 東京中部担当の長瀬係長だ。

有栖科家の一件で7係の執務室に来ていた時と変わらず、小太りの身体からは汗が出ている。

もう暑さは感じない季節だけど…緊張汗かな?



「えー、3係はですね。武蔵野市を中心にみかん色の旧鼠きゅうそが大量発生しておりまして、ですね」

「みかん色の旧鼠ですって?」

「ええ、どうやら今年は豊作だったみかんを大量に供えたところ、旧鼠どもが食べつくしてしまったようでして」



特に今年は量だけでなく霊力の宿ったみかんが多く奉納されたらしい。

そんなみかんを食べ漁ったねずみたちが、強い霊力を得て暴れまわっているそうだ。



「駆除用の猫又ねこまたちゃんたちはどうなっているのかしら?」

「もちろん出動させていますが…その、鼠たちの力が勝っているようでして…」

「そう…」



仮名係長は頭を抱えた。

鼠は爆発的に繁殖し、集団戦闘を得意とする。

一度増えると駆除は大変な苦労が伴う、それを想像しているんだと思う。



「…にしても、ローカルニュースでも見ているのかしら、今日は…。

 全身にハーブ系の香水を塗りたくって闊歩させたりしたらどう?そういえばそれで4係は離散に成功しなかったかしら?」



長瀬係長の隣で座っていた長身の男性が勢いよく顔をあげる。

まさか振られるとは思わなかったんだろうな。



「…はい、確かにそんなこともしましたが」

「後で3係に詳細の共有をしてちょうだい」

「承知いたしました」



じゃ、ついでにそのまま報告してもらいましょうかね。という言葉に4係 真鍋係長がはい、と返事をした。



「4係は先月より追っていた下着泥棒事件の犯人が妖怪であることが判明し、正式に警察から案件を引き取り調査中です」

「下着泥棒…」



曰く、弱弱しいおじいちゃんという印象の風貌だったが、追いかけっこの際に突然俊敏な動きで2mフェンスを飛び越え逃亡したという。

2年前に確保を断念した妖怪と同じである可能性があるらしい。

その話を震えながら聞いていた仮名係長は再び大声をあげた。



「絶対に捕まえなさいよ…!!43人の若い女の子たちの犠牲を無駄にしちゃだめよ!!」



そういえば先月のミーティングでも吠えてたって、灯ちゃんが言ってたっけ。



「課の人員は好きなだけ使っていいわ、絶対に捕らえるのよ!!!」

「…はい、わかりました」



真鍋係長が一瞬こちらを見た気がした。

確か担当は多摩地域。対象は広い。

なかなか骨が折れそう。



―――――――――――


次は5係 多摩地域の山側を担当する池田係長は白髪をふわりとまとめたおばあちゃんだ。

係長職の中でも一番の古株で、偏見なく誰にでも平等なので、7係と最も良好な関係を築いている。


珍しく困った様子なのに、元の穏やかさが相まってあんまり危機感を感じない声で話し始めた。



「今ね、スズメバチの被害が拡大しているのよ、困っちゃうわね…」

「あらまあ、それじゃあ一般人の家庭にも影響が?」

「いいえ、そのスズメバチ、符術の力を持つ人間だけに襲い掛かって力を奪い取るのよお。ついでに毒も仕込んでね」

「何よそれ!ものすごく危険じゃない…というより、何があってそうなったのかしら?」

「研究中の強化スズメバチが逃げちゃったらしいの」



虫の強化といえば、研究している人間は1人しか思い浮かばないなあ。

同じ人面を想像しただろう係長は、今日一番のながいため息をついた。



「…あの害虫オタクね。そろそろ情報研究室を通して鉄槌をくださないといけなさそうね、まったく。

 池田さん、状況は細かく共有するようにしてちょうだい。私から研究室に苦情出しておくわ」



まだまだ、ミーティングは続く。

私は痛くなってきたおしりをなんとかするべく、座りなおした。

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