何もないことも問題

ひとしきりまじめに対策を話し合った後、6係の番となり日焼けで真っ黒なおじさまがはじめますか~とよく通る声で報告を始めた。



「離島担当の俺達6係は、事件はなんにも起きてないんだ。

 むしろ、起きなさ過ぎて経費削減ばっかりしているのが問題だねえ」



おかげで全員勤務時間マイナスとの闘いさ。と良い年の取り方をした顔でにかっと笑う。

そういえば、と仮名係長は思い出すように斜め上を見た。



「この前人員を東京に戻したわよね、また見直しかしら」

「だが6係はもう俺含めて4人しかいねえぞ、これ以上減らされると島を回り切れねえな」

「あらそう、ならムリね…」



何も起きてなくてもそこに符術の力を持つ者がいれば、駐在せざるを得ない。

離島も離島で問題を抱えてるんだなあ…。



「まあいいわ、じゃあ引き続き6係は頑張ってちょうだい。

 次、7係よろしくね」

「はい」



いよいよ今関係長の番、おそらく…。



「7係は引き続き他係の支援を中心に動いています。直近では3係の」

「ごほん!今関係長」



誰にも遮られることなく淡々と進んでいたミーティング。

初めてその流れをせき止めたのは、わざとらしく咳をした3係 長瀬係長だった。



「そちらは3係の案件です。わざわざ報告はいらないかと」



やっぱり邪魔してきたか。

『7係に振った』という事実を報告されたくないってことだろうな。



「…お言葉ですが、報告書はこちらから出させていただいたかと」



今関係長は背中でもわかるくらい無表情で言葉を返す。

長瀬係長は微動だにせず、冷静に言ってのけた。



「出していませんよ、その報告書は我々3係にて申請を取り戻させていただきました。

 あなたがた7係に渡していない情報もありましたのでね。もし7係の報告書をそのまま勝手に出していたら、『事実と異なる』内容で誤った報告をし、我々3係が恥をかくところだったのです」



危ない危ない、だから野蛮な人間どもは。

そんな言葉を裏に含ませ、長瀬係長はにたりと笑う。

…つまりは、7係に面倒ごとだけ押し付け、3係の実績として勝手に報告したってことだ。



「……あらあら、そうでしたか、長瀬係長。それはどうも」



7係メンバーには絶対にしない冷淡な声であっさり引く今関さん。

これ以上何か言っても面倒なだけだと、今まで繰り返してきた何回ものミーティングを通してよく知ってるんだろう。



「でしたら、7係の報告は以上です」

「ええ、そう」



仮名課長はそれだけ言って、さてと、と会の締めに入った。



―――――――――――――



定期報告ミーティングは終了した。

適当に今日の予定をその場で確認して時間稼ぎをした私たちは、全員の退出を待って部屋を出る。

先に出ると後ろから他係に聞こえる声で揶揄されるので、いつもこうして回避していた。


今回もまた比較的平和に終わったと安堵したそのとき。

会議室前の廊下で私たちを待っている人物に会ってしまった。



「鴨川係長」



今関さんが意外そうに名前を呼ぶ。

腕を組み、壁に背中を預けていた姿勢を正して彼はこちらを向いた。



「お疲れ様です。吉川さん」



鴨川係長は真っ先に私に話しかける。

一瞬目を合わせる今関さんと私。


今荒れてる今関さんの心を更に悪化させるのは忍びないな。



「お疲れ様です。鴨川係長。

 今関係長、少し話をしてから執務室に戻ります」

「ええ、わかったわ。じゃあまたね」



少しだけ不安そうな思いを私に見せて、今関さんは先に歩いていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る