思わぬ言葉と裏腹
「珍しいですね、鴨川係長から声をかけてもらえるとは思いませんでした」
今関さんが去った後、私たちはその場で微妙な雰囲気を醸し出していた。
鴨川係長は態勢も眉間の皺もそのままにじっと私を見ている。
「姿を見るのは久々だと思ってな」
「そういえば、最後に会ったのは1年前でしたか」
「ああ、そのくらいになるな」
会話が終わる。
沈黙が耐えられなかった私は、すぐに本題に入った。
「それで、何か私に用事があるんですか?」
「…いや…」
ないのか。
じゃあなんでわざわざ退出を待ってまで声をかけたのか。
「…7係の扱いは変わらずだと思ってな」
「そうですね。外れものの溜まり場ですからそういうものなのでしょう」
「外れもの…か」
目線を落として呟くように言う姿に、違和感を覚えたがすぐに納得した。
彼はまじめで正義感もある。
以前7係の扱いについて苦言を呈していたいう噂を思い出した。
「…現実になるかはわからない、時間もかかるかもしれないが」
「? なんでしょうか?」
どこか決心した顔を向けてくる鴨川係長。
どんな言葉が出てくるのか、不思議な縁の色が視えた私は身を固くした。
「1係に異動するつもりはないか」
飛び出した言葉は、私の予想を超えるものだった。
「異動?1係に…ですか?」
一体何を言っているんだ…この人…。
口から失礼な言葉が喉まで来たけれど、彼の真剣な目のおかげで飛び出すことはなかった。
「先ほどの3係の件も、以前の件もそうだ。丸投げされた案件を君が中心になって解決してきた。その能力は評価されるべきものだと思っている」
「ありがとうございます」
「1係は対人関係が重要となる仕事が多い。君ほどの人材なら十分に活躍できると見ている」
「お褒めいただき光栄ですが…私はできません」
「…」
いかに難しいか、鴨川さんは知っているはずだ。
でもやっぱり、誰かに正当な評価をしてくれることはうれしかった。
だからこそかな、余計に私はむなしい気持ちになってしまう。
「私は『縁視』である限り、人並みの自由はありませんから。
それでも、評価いただいたこととてもうれしく思います」
「……『縁視』、か」
鴨川さんは静かにつぶやいて、短くため息をついた。
「今後、何かあれば7係に協力を要請しよう。君とは一度一緒に仕事がしてみたいと思っている」
「私もそう思います。…それでは」
次の予定も迫っている。
早々に切り上げた私はさっさとその場を後にした。
―――鴨川 賢人
代々氷や水の符術を得意とする大きな家の次男坊。
ちょっとだけ気をつけておこうかな。
――――――――――
「菜子ちゃん、鴨川くんとの話、何だった?」
「はい、1係に誘われました」
「さそっ、え!?誘われた!?」
執務室に戻ると、今関さんが気になって仕方ないように声をかけてきた。
机の上にお菓子の袋が散らばっている。やけ食いしたな。
「なになにそれ、OKしたの?」
「もちろんNOですよ。OKしたところで異動できませんし」
「…まあ、どうしてもっていうなら?がんばっちゃうこともできなくないけどさ…」
いいんですよ、本当に。
タブレットを机に置いて、私は心からの言葉を伝えた。
「7係がいいんです。ここが好きなんです」
いい意味でも、悪い意味でもね。
今関さんがよかったー!と抱き着いてくる。
私は笑ってそれを受け入れ、私たちはカケルくんに剥がされるまで抱き合っていた。
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