本当の想いとワケ
「…おいっ、吉川」
「…な、なに」
「どうすりゃいいんだよ、この状況…!」
相手を凍らせてしまいそうなほど冷たい瞳で見つめてくる倉之助。
ひたすら怯えて震えるゆうちゃん。
その向かいで私たちの心は盛大な悲鳴を上げていた。
「いい?悠馬くん。
絶対に、怒ったり、睨んだり、大声出すのはだめだからね」
「くどいんだよテメェ!」
「それがだめだからね!」
「…っわ、わかったよ…」
少し前。
座敷牢の拘束具を外しながら私は悠馬くんに全力で念を押していた。
「つかなんだよその刀、そんなもんで脅しても説得力ねーんだよ」
「…いや、これは…その」
「んだよ」
急に歯切れが悪くなった私に、再度向けてくる悠馬くんの目は胡乱だ。
仕方ないよね…うん、仕方ないか。
「私、符術が使えないの」
「…は?っていうか、今言うのかよ、っていうか…使えない?は?」
「この刀、空間の符術でしまってたんだけど…ちょっと事情があって顕現させたの」
「はあ、んで、それで?」
「……私は符術が使えないから、一度顕現させたら戻せない」
「はあ??」
拘束具が外され、悠馬くんは傷ついた自分の手首をさする。
私はとても気まずい顔をしていると思う。
恥ずかしいから、あんまり言いたくはなかった…。
「いつもは同僚に刀を仕舞ってもらっているの。術の発動はちょっとの力でできるように工夫していてくれるんだけど、戻すのはさすがに無理で…」
「…変な奴だな、お前。局員のくせに符術が使えねーってアリか?」
「と、ともかくね、悠馬くん!絶対に女の子をビビらせちゃだめだからね!」
「わーったわーった!」
めんどくさそうに悠馬くんは頭をかいた。
そして時は進み、4人で机を囲む今。
悠馬くんはぐしゃぐしゃと頭をかいて、口を開いた。
「あのー、だな…。俺の顔は覚えてるか?」
「……うん」
蚊の鳴く声とはまさにこのこと。
ゆうちゃんは風貌から恐ろしい上に話したこともない人種に、完全に心を閉ざしていた。
「そっか、じゃあ…俺が男を追いかけてたのは覚えてるか?」
「…わかんない」
「…そっかよ」
かれこれこのやり取りは5回目だ。
何も情報がつかめない。
悠馬くん曰く、ゆうちゃんは必ず何かを見ているらしい…のだが、
外の世界のいろんなものが新鮮なゆうちゃんには、『異常な景色』が分からない。
だから悠馬くんの知りたい相手が誰だかわからず、話がかみ合わないみたいだ。
どうしたものか…。
「くっそ…どうすりゃいいんだよ…」
「そもそも」
倉之助が痺れを切らしたように声を出した。
「どうして指輪などというもののために、そこまで躍起になって探すのです?
また購入すればよいでしょう?」
「ちげーよ!そんな簡単なモンじゃねえんだよ!!」
「ひっ」
「あっ」
やってしまった。
大声は出すなっていったのに…!
すーっと目を細める倉之助に私は再度の猛吹雪を覚悟した。
「…悪い」
嵐の前の静けさの中、ぽつり、とつぶやくように言ったのは悠馬くんだった。
「リーダーの奥さんがプレゼントしたモンなんだよ」
「プレゼント?」
倉之助が悠馬くんに続きを促した。
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