なぜそこに

「…探してたんだよ、女のガキを」



一体何をしたの、と頭を抱えて私が言うと、悠馬くんは金属音を鳴らすのをやめて、ぺたりと座り込んだ。

どうやら金属音は両手につけられた拘束具から発せられていたらしい。

畳の上に正座し、私たちは木の格子越しで向き合っていた。



「女の子を?それがこの屋敷の女の子?」

「そーだよ、違いねぇ、あのガキだ」



悠馬くんが…雷鳴がゆうちゃんを探す?

点と点がつながらない。



「どうしてあの子を探していたの?」

「っそれは…その…」



もごもご、と口を動かす悠馬くん。

言いたくなさそうだったので、私は先にこちらの用件を済ませることにした。



「ここは精霊が住む特殊な家でね、

 瀬くんと同じように、私はあの女の子を担当しているの」

「あっそ」

「ほかの人間は一切寄せ付けない環境だから、あなたが周りを嗅ぎまわったのを嫌がって、無理矢理捕まえたみたい」

「…あっそ」

「人間のこと、あんまり好きじゃない精霊がほとんどだから、そう簡単にはここから出られないよ。

 …でも、もしあなたの目的が分かるなら…」



協力、できるかもよ?

私が笑顔を見せると悠馬くんは胡乱な目を返してきた。



「ここから出たいでしょ?目的が分かれば私が交渉して何とかなるかも。

 ずっとここに居たら、雷鳴の仲間たちが心配するんじゃない?」

「………」



私たちの間に沈黙の時間が漂う。

少しして、悠馬くんは乱れた髪を振って、あきらめたようにため息をついた。



「わーったよ、話す。

 その代わり、聞いたからには協力しろよ」

「うん、わかった」



火の灯だけが怪しく漂う座敷牢。

悠馬くんはぽつりぽつりと話し始めた。



――――――――――――――――――




「つまり、『金の装飾の指輪』を盗んだ犯人を捜したい、ってこと?」

「そーだよ」



それは数日前のこと。

雷鳴のリーダーと共に街を歩いていた悠馬くんたちは、敵対するグループと鉢合わせした。

いろいろあって大乱闘に発展、その際にリーダーが首から下げていた指輪が敵の攻撃に当たって飛んでいき、そのまま盗まれてしまったという。



悠馬くんは盗んだと思われる黒い服の者を追ったが、逃してしまった。

諦めようとしたその時、一部始終を偶然見ていた女の子と目が合った。

その子に手がかりを聞くべく探し回ったところ――――ゆうちゃんにたどり着いた、ということらしい。




「ああ、確かにその日はゆう様と街へお出かけしました」



地上に戻って2人に悠馬くんの目的を伝えると、倉之助が思い当たることを教えてくれた。



「危険なあやかしが近づいていたので、私と乃乃介はほんの少しの間、ゆう様をおひとりにしておりました。

 その時に何か見たのですか?ゆう様」

「…わかんない」



え、外出するようになったんだ。

タイミングが良くないので今は言わないけれど、あとでいっぱいゆうちゃんを褒めよう。



「…外はいろんなものがいっぱい、どれのことかわかんない…」

「それであれば…直接彼からゆうちゃんに聞いてもらった方が良いかもしれませんね」

「…あの男にゆう様を会わせると?」



倉之助の声色が変わった。

ひゅおおおお…と畳の間に響く吹雪の音。

どこからともなく現れた雪により、一瞬にして辺りは雪国となった。

私はあわてて首を横に振る。



「ちょっと、待ってください!

 彼は粗暴ですが私が同席すれば問題ありません!」

「本当にですか?ゆう様に何もしないと??」

「…そ、そうです…ぶべっ、雪が口に…っ。

 もし何かあれば私が止めますから!」



猛吹雪は畳や障子を白く覆いつくしていく。

全身が凍り付いていく感覚に命の危機を感じて、私は腰に貼っていた符に力を込めた。

光を纏って顕現した白い刀を前に突き出す。

見慣れない武器に、ゆうちゃんが倉之助に掴まった。



「…それは?」

「見ての通り、刀です。私の武器です。

 強硬手段をとってでも彼を止めますから、何卒お願いいたします」



最終的には頭を下げ続け、ようやく倉之助とゆうちゃんから面会の許可をもらった私は。

はあ、と一息ついて肩の雪を払った。

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