彼らが捕らえた人物

「おっせーですわ」

「おっせーーですよ~」

「…お待たせし申し訳ございません」



私は生身の人間なんだから、精霊みたいに飛んでこれないってば!

なんて出迎えの精霊たちに言うとややこしくなりそうだから、私はぐっとこらえる。



電話をかけてきた精霊――倉之助と連絡をとり、私はゆうちゃんの家へ到着した。



「失礼いたします」

「吉川さん」



玄関に入ると小走りで倉之助が出迎える。

いつもの冷静な顔に少しだけ汗をかいている、珍しい。

それだけのことが起きたのだろう、一体誰を捕らえたのかな。



「怪しい人を捕まえたと伺いましたが」

「ええ、ええ、こちらへ」



靴を脱ぐとすぐに小さな精霊たちが受け取って持っていく。

整えている時間が惜しいくらい急げ、ってことだろう。

私は精霊たちに甘えてそのまま倉之助の後を追った。



いくつかの部屋の前を過ぎた後、

角を曲がるとガタイのいい男が突然目の前に現れ、急ブレーキをかけた。



「えっ」



思わず声が出た。

そのガタイのいい男は私を見ておお、と声をあげた。



「吉川さんか、待ってたぜ…」

「どうしたんですか…真っ黒こげではないですか!」



ぷすぷす…なんて音が聞こえてきそうなほど、髪も茶色の着物も焦げていた。

本人は黒い煤を頬につけてげっそりとしている。

この高位精霊を疲れさせるとは…いったい誰が…。



「おう…捕まえたやつが暴れてなあ」

「あなたは先に湯あみをしてきなさい。そんな姿をゆう様に晒しては」

「乃乃介!」



倉之助が言った途端、女の子の声が響いた。

私たちの反対側から来た綺麗な着物の女の子―――――ゆうちゃんだ。

必至な顔をして走ってきた彼女は、そのままの勢いで乃乃介の腰にしがみついた。



「ゆうっ、やめろっ、お前の着物が汚れんだよ!」

「乃乃介、真っ黒、怪我してる?いやだ!」

「ゆう様、落ち着きなさい」



わかりやすくうろたえる高位精霊たち。

私はかがめて動揺するゆうちゃんの目線を合わせた。



「ゆうちゃん、こんにちは。吉川です」

「あ!…こんにちは…」



急に人見知りモードを発動したため、ゆうちゃんは一瞬にして落ち着く。

私は頭をぽんぽんと叩いてみた。



「乃乃介さんは大丈夫ですよ、ちょっと汚れちゃっただけです。

 これからお風呂に行ってくるそうなので、離してあげてください」

「…う、うん…」



ぱっと乃乃介から離れたゆうちゃんは、たたた…と倉之助の傍まで走ると、彼の袖を握る。

ありがとな、ゆう様。と乃乃介は言うと、私に頷いてからこの場を去っていった。




「もしかして、捕まえた人の仕業ですか?」

「ええ…随分と強い符術が使えるようです」



倉之助は忌々し気だ。

ゆうちゃんは怯えた顔をして私と倉之助の顔を見比べている。



「ちなみに、ゆうちゃんにお怪我はありませんか?」

「ええ、捕らえた時はすぐに距離を取りましたので怪我はございません」

「それはよかったです…」




さて、と倉之助は私を見つめた。



「捕らえた人間はこの先の座敷牢にいます。あなたと知り合いのようですが何かあれば声をあげてください。

 私はこちらで待っています」

「ありがとうございます。わかりました」



私は振り返って乃乃介が出てきた場所を見る。

地下へと続く石の階段があり、奥は火の揺らめく暗い空間が広がっている。

時折響く金属音に危険な怪しい雰囲気を感じて、汗が流れた。


私は意を決して1人地下へと進んだ。







「っっなんだよ!!テメェ吉川ぁ!遅ぇじゃねーかよ!!」



ガンッガン


その人物を見た私はちょっとの間、絶句した。



「助けやがれ!!早くしろよ!!」




「…悠馬くん!?」

「っおい!慣れ慣れしーんだよこの野郎!」



以前、同じ能力を持つ『縁視』へ会いに行ったときに出会った金髪の少年。

『雷鳴』の『荒道 悠馬』くんだった。

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