奇妙で気まずい会話

「こん…にちは…」



赤に金の刺繍が施された豪奢な着物。

長い黒髪は着物と同じ色合いのかんざしでまとめられている。

七五三のような晴れ姿の女の子が、蚊の鳴く声であいさつしてくれた。



「こんにちは。ゆうちゃん」



目線を彼女に合わせて、私は笑顔であいさつをした。

そして背筋を伸ばしてから、両脇にいる2体の精霊に目線を合わせた。



「精霊の皆様も、こんにちは」

「ああ」

「どうも、ご丁寧に」



この2体は高位の精霊、故に人間と大差ない大きさ。

茶色の着物を纏っているのはガタイのいい男。

濃い茶色の短い髪をオールバックにし、背の低い私をギロリと睨んでくる。

もう1体の青い着物の精霊はどちらかというと華奢な男。

明るい水色の長髪は艶があり後ろ姿は女性そのもの。

ただ背が高いのでどのみち私を冷たい目で見降ろしてくる。


この保護者ズの過保護具合もまた、担当者がよく変わる原因になっている。



「また最近の出来事について話させていただきたく、お時間いただけますでしょうか」

「……うん…。倉之助」

「畏まりました。吉川さん、どうぞこちらへ」



水色の着物を纏った倉之助が奥へと私を案内してくれた。



「変わらず綺麗な庭ですね。整えているのは風や水の精霊の皆さんですか?」



歩きながら倉之助へ声をかけてみる。

そっけない態度をとられるだろうが、円滑なコミュニケーションは隙間の雑談で培われるとよく知っている。



「どの精霊も関わっています。火も土も、それぞれの役割をバランスよくこなすことで景観を保ちます」

「そうですか。精霊たちの見事な連携による成果なのですね」

「…」

「…」



何か言葉が返ってくるだけ、いいか。

通された部屋で座布団に正座する。

特に話もなく私は赤く輝く綺麗な庭を見つめていた。



「おまたせ…しました…」



少ししてから、ゆうちゃんが茶色の着物…乃乃介ののすけを伴って部屋に入ってきた。

乃乃介はガタイの良さからは想像できないほど丁寧に羊羹とお茶を置いていく。

2体の精霊たちが定位置―――ゆうちゃんの背後に着いたあと、私は口を開いた。



「政府 特殊治安局からは特に報告事項はございませんが…いよいよ暑くなってきましたね。最近体調に変わりはありませんか?」

「変わりありません。この屋敷一帯は季節にあわせているものの、適温を保っておりますので」



至極当然のように倉之助が答えた。

いつもこんな調子である。

ひどい時はゆうちゃんが一言も発せず終了したこともある。



「そうでしたか。最近は精霊たちとお出かけはされているのですか?」



この前は小川まで遠足に行ったとか、と言うと、乃乃介が低い声で答えた。



「特に出かけてはいない。本格的に夏が始まれば、また川へ水浴びでもするだろうが」

「へえ、それは楽しみですね」



ゆうちゃんは私から視線を逸らして小さく、それはそれは小さく頷いた。

会話が終わってしまい、沈黙が流れる。


私は前回の失敗を生かすため、持参したバックから紙を一枚取り出した。

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