3人目 精霊のいとし子
本日最後の訪問先は、阿佐ヶ谷。
真上から降り注いでいた日差しはすっかり傾き、街並みを赤く染めていた。
最後の訪問先は閑静な住宅街を抜けた、さらに人通りの少ない場所にある。
最近別の係から引き受け、担当になった女の子。
両親はすでにおらず、親戚とも疎遠になっている。
それは彼女の特殊能力…というより体質、『精霊のいとし子』が原因。
歩きに歩いて汗ばんできたころ、竹やぶの前で一度足を止めた。
一呼吸おいて足を踏み出すと、途端に濃い霧が辺りを立ち込める。
構わず歩き続けると、突如視界が晴れ――― 大きな一軒家が見えた。
森の中にぽつんとたたずむ平屋建て
そこにゆうちゃんは1人で住んでいた。
「きたーきたぞー」
「!」
枝や小石を踏みながら玄関を目指すと、突然目の前に小さな光が現れる。
びっくりして一歩下がると、にししひひ、と小さいそれは悪い顔をして笑った。
「政府の地味女だーー」
「わーほんとだー」
光が2つに増え、私を見て同じ顔をする。
彼らは『精霊』と呼ばれる存在。
最初の1匹は黄色だから『光』もう1匹は緑だから『風』かな?
くりくりした目に、それぞれの色の髪と着物を纏っている小さな小人の姿。
それは屋敷や本人の趣向に合わせているのだと最近気づいた。
実は、このゆうちゃんは前任の担当者と相容れず私に交代となった。
ゆうちゃん自身というより…この口の悪い精霊たちが原因である。
精霊に好かれ四六時中ともにいるゆうちゃんと関わるのならば、精霊たちと仲良くせざるを得ない。
嫌われてしまったが最後、得意の口撃で精神をギリギリまで削ってくるのである。
私もまだ仲良くなったわけではないから、油断ならない。
「こんにちは、精霊のお二方。ゆうちゃんに会いに来たのだけれどいらっしゃいますか?」
「急に来ていきなりゆーちゃんに会おうとかしつれー。
アポ取りましたかあ~?お客様あ~?」
「違うよ、今日ゆーちゃんがみんなに地味女が来るって言ってたよー」
「えーそうなのー、じゃあこっちだよー」
出会い頭から飛ばすなあ。
納得して、人の歩く速さに全く考慮しない速さで妖精たちが飛んでいく。
私は小走りで追いかけた。
これで本人たちに悪意がないというのも逆にすごい。
誰かの口ぶりを覚えてしまったんだと思うけど、前任を含めてそれが誰かはわからなかった。
「ついたー」
「ゆうちゃん呼んでくる―」
「ありがとうございます。お願いします」
広い玄関に入った途端、精霊たちはいなくなってしまった。
私は座って白いブーツを脱いで待つ。
相変わらずこの屋敷は広くて綺麗だが、静かだ。
ゴミ1つないよう精霊たちが掃除しているので、生活感がなさ過ぎて異様な空間に感じる。
やがて、人の歩く音が聞こえたので立ち上がって主の到着を待った。
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