作戦会議は紅茶と共に
一般社会、つまりは日本の顔である国王陛下に対し、
符術者や特殊能力者が生きる裏側の日本を束ねている
「どうして私たちなのでしょうか?いつも1係の鴨川さんや総務課が指名されていると聞いていますが」
そんなやんごとなき身分の方のパーティなんて、『家』のない私たち、というか『縁視』の私が出席する?
たまったものではない。
陰口を叩かれに行くなんて御免だ。
「そうなんだけどね、鴨川係長も他の方も、家の代表として参加するみたいなの。
まああとは…本人に聞いて見るのが一番ね」
1時間後に局長室へ行くわよ。
今関さんは気持ちを切り替えるべく両手でぱしぱしと頬を叩いた。
隣で一言も発さずにいる埜々子さんの表情はないけれど、口がいつもより強いへの字になっているから、心配しているんだと思う。
金曜日か…えっと、確か今日って…。
「今関さん、金曜日ってまさか」
明日ね。
私の言葉によって気分の切り替えに失敗したのか、上司は遠い目をして言った。
―――――――――――――――
「よく来た!座れ座れ!」
特殊治安局の局長室は、本棟の最上階から1つ下にある。
といってももともと高い建物なので、病棟の『花園』や特殊警察局の建物だってよく見える。
特に冬の清々しい空が広がる、今日の景色は格別だった。
ふかふかのソファに座らされ、大きなガラス張りの一面からその景色を眺めていると、ことりと音がして室内に顔を向ける。
良い匂いの紅茶が前に置かれていた。
花王院局長は紅茶派か。
「急に呼び出してすまんな、今関、吉川」
「「はっ」」
「かしこまらんで良い。今日はな、明日のパーティの件で任務の詳細を伝えるために呼んだ」
地面につかない足を揺らして、花王院局長はソファの上から可愛らしい顔で微笑んだ。
見た目は完全に女の子だけど、年功による圧とのギャップが激しい。
誰もが口を揃えて、彼女と話すときは緊張する、というのも納得だった。
本人はこの口ぶり通り、気さくなんだけどね。
「伝えたとおり、悠江様の誕生日パーティが開催される。
可愛らしいパーティ名だが、中流から上流のそうそうたる家の者が参加し、総勢1,000名近くの大きな催しものとなる」
「そのような大きな行事であれば、局長の付き人に我々家のない者が担当してよろしいのでしょうか」
「うむ、付き人に身分の決まりはない。
それに、今回はな…縁視の力が必要になる」
縁視の力?
私と今関さんは目を合わせた。
もう一度花王院局長を見ると、はあ、とため息をつく。
「吉川、
「はい…確か1係が中心に護衛をしている方と伺っております」
佑様、この方もやんごとなき身分のお方。
悠江様の孫の1人で、次代の影王と噂されている。
だけど…。
「佑様は次代の跡継ぎ争いの真っ只中にいらっしゃるのは知っているな。
今回のパーティはさまざまな家が一同に揃う。あの方にとっての敵も、味方もだ」
「………」
「今回わたしは花王院としてではなく、特殊治安局の代表として参加する。
吉川にはパーティ中わたしと今関とともに佑様の視界に入るところで待機、何かあれば護衛を務める」
縁を視て、誰より早く異常事態の発生を報告、対処せよ。
それが私の役目らしい。
異常事態なんてこんな公の舞台に起こるものなのだろうか。
あまりピンときていないことが分かったのか、局長は経緯を詳しく説明しよう、と微笑んだ。
「先月、数百人規模の大きなパーティがあった。
その時に、影王の候補者の1人が毒を盛られるという事件があったのだ」
「毒ですか!?」
どこのテレビドラマの話だ。毒を盛るって。
「別の派閥の奴らが渡した飲み物に仕込まれたらしくてな。毒と言っても多少気分が悪くなる程度で、公には酒の飲みすぎで体調不良、ということにしている」
「はあ」
「だが特殊情報管理室の人間、まあ、たまたまそのパーティに参加していた雪園室長が不審に思って詳しく調べたところ、毒だったことがわかったのだ」
「……」
うわ。またあの人か。
「軽い症状だけで見抜くとは、さすが医者、顔だけではないということだな。うんうん」
花王院局長は頷いた。
しれっととんでもなく失礼なことを言ったような気がする。
思わず噴き出しかけた。
「毒を盛った人間への処罰は行われたのでしょうか」
「いいや、被害者の症状が軽度だった上に盛った人間は名のある家の者だったからな。警察局も追及しきれないと判断した」
「…そうですか」
今関さんの眉間に皺が寄る。
半面、局長は楽しそうな表情を崩さず口を開いた。
「室長も『雪園家』から王家にチクってやろうかと考えたようだが、残念な話、この手の事件は少なくないのが現実だ。特に後継者争いの時期はな」
「そのようなことが…」
「まあ良い。妬まれるのも嫌われるのも広く考えれば『家』の義務でもある。
だが、だからといって盛られた毒を正々堂々飲め、というのは違う話だ」
明日はよろしく頼むぞ。
花王院局長は大きな瞳を光らせて、私たちを見つめた。
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