それこそがオルトーリズム
気配を微塵にも感じさせない身のこなしで、男は私たちに声をかけた。
派手な黄色と紫の柄のストールを首から下げ、布地のジャケットの間からは赤色の丸首シャツが覗く。
肩につくくらいの茶色いドレッドヘアーを揺らして、大きな笑い声をあげながら勝手に私の隣に座ってきた。
この図々しい態度の中年男こそ、オルトと呼ばれるその人だ。
「ひっさしぶりだなあ!菜子ちゃん」
「そうですね、おひさしぶりです、オルトさん」
距離が近い、肩がぶつかりそう。
でも、我慢我慢。
この特殊情報管理室に滞在できているんだから、まだまだ我慢できるはず。
頑張れ自分。
「こちらに顔を出すのも久々ではないですか?」
オルトの遥か背後で壁に隠れながら、こそこそと機械を起動させている研究員たちを視界に捉えつつ、私は普段通りに話を続けた。
「そうだね~前に来たときは1係の若いやつらが遊べ遊べとうるさくてなあ?相手してたら疲れて帰っちゃったんだ」
別に遊びたくて絡みにいってるわけではないと思うんだけど…。
まあ、いいか。
私は様子をただただみているカケルに顔を向けた。
「そういえばまだでしたよね?
7係で私の後輩のカケルくんです」
「は、はじめまして」
ちょっとだけ人見知りが出ているカケルくんを紹介すると、ふむ、とあごひげを撫でながらオルトがじっと彼を視た。
「ほー、一二三じーさんの孫忍者ってとこか、力はあるが若さゆえの経験の少なさで使いこなせていない…いや、教わっていないのか。
とすると結構前に破門でもされたってところだな!」
明るい口調で言い当てられて驚く顔のカケルくん。
気づいているのかいないのか、オルトはにかっと日に焼けた顔を笑わせた。
「よろしく坊主!俺のことはオルトって呼んでくれ!」
「は、はあ…よろしくお願いします…」
カケルくんの戸惑いもわからなくはないけれど、私は思わず笑ってしまった。
彼はむっとほほを膨らませて私を見る。かわいい。
「オルトさんは縁視の力を使いこなしているから、初対面でも視てわかっちゃうんですよね」
「そうそう!びっくりさせた?ごめんね~?嫌だった?
嫌がらせたかったんだ~」
悪趣味!
おそらく私もカケルくんも同じことを思っただろうな。
「相変わらずですね、悪い意味で」
はっきりいうと、なぜかオルトの嬉しそうな顔を見ることになってしまった。
「そういう君は、相変わらず美しいな」
右手は頬杖をつき、左手は私の手を取る。
そっと拒否すると、オルトは苦笑した。
「最近は何をしていたんですか?」
話題を別にすり替えた。
オルトはすぐに順応し、頬杖をやめて白い歯を覗かせる。
「ずっと刺激的なことはなかったんだけど~丁度1か月前に亀に乗って川下りをしたな!」
「へえ、亀って本当に人を乗せられるんですね」
川下りもね。
「そうなんだよ~地域の子供たちにいじめられていたようだったから助けてあげたらさあ、いい感じの縁が繋がっちゃってな。
川を下りたいって言ったら快く乗せてってくれたよ!
お陰で船代が浮いて助かった~」
ツッコミなど絶対にしない。
絶対に。
カケルくんがついてこれずヘルプコールの眼差しでアイコンタクトしてくる。
…頑張れ、耐えてくれ!
思いを込めて見つめ返すと、カケルくんは困った顔をした。
「ちなみに何処へ乗せてってくれたんですか?」
「多摩川の下流だよ」
竜宮城じゃないんかい、なんて絶対に言わない!
私の気力がみるみるうちに消耗されていくのを、自分自身で感じながら会話は続いた。
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