カエルが繋げる新たな縁

「す…すいません…」



とりあえず謝って、カエルを掴もうとするも謎の動きで躱される。

この子、こんなに暴れん坊だったっけ?



「なんです?このみょうちきりんなものは?」



倉之助が冷たい目でカエルと私の顔を行き来する。



「昼過ぎに伺った特殊能力者の方からいただいたぬいぐるみです。

 人形遣いの方でして、作った人形が動き出すんです…。

 といっても、じきに力がなくなってただのぬいぐるみになりますが」



「動かなくなっちゃうの?」



突然聞こえた女の子の声。

あまりにはっきりした声だったので、一瞬ゆうちゃんから放たれたものだと気づかなかった。

乃乃介、倉之助も驚いた顔をしている。

わあ、初めて見た、精霊だけど意外と人間っぽい表情の崩れ方だ。



「え、ええ、そうなんです。あと30分くらいでしょうか…」

「そんな…」



いつもの怯えた顔が少し寂しそうな顔になる。

それを見て、私は1つ小さなアイデアが浮かんだ。



「よければそのぬいぐるみが動かなくなるまで、遊んであげてもらえないでしょうか?」

「え?」



初めてしっかりと目が合うゆうちゃんと私。

笑って頷いてみせた。



「私よりもゆうちゃんに遊んでもらった方が、カエルさんも喜びます」

「…!」



キラリ、と輝くその瞳は10歳そのもの。

やっぱり人間の子供なんだなあ、と改めて思い知らされた。




―――――――――――――――――――




それから30分。

カエルのぬいぐるみが動かなくなるまで、私と精霊たちは一緒にゆうちゃんが遊ぶ姿を見守った。

途中から小さな精霊たちも加わって、謎の踊り大会が開催されている様を見ながら、私たちはぽつりぽつりと会話をする。


声のトーンや話し方はこの部屋に来た時と変わりないが、私たちのやりとりに温かみが宿ってくのを感じた。



「ゆうちゃん、いつもこうやって楽しそうに遊んでいるんですか?」

「ええ、下位精霊たちと楽しくしていますよ」

「勉強と食事以外は朝から晩まで一緒だな」



こんなに毎日楽しそうであれば、無理に人間の世界へ連れていく必要はまだないか。

過去に引き離そうとして大ごとになったという報告書を思い出し、頷く。



「…といっても」



倉之助が低い声で言葉を切ったので、私は思わず彼の端正な横顔を見た。



「…ゆう様は人間です。いつかは人間の社会とかかわりを持たねばならないとわかっているのです。

 人間は1人では生きていけない、よくわかっています」

「とはいっても、ゆう様は体も気も弱い。どんなものがいつあいつに悪影響を及ぼすかわからない…だから、自由にさせてやれない」



なんだ、この高位精霊たちはわかっていたんだ。

自分たちがやっていることは、ゆうちゃんに良いことであり悪いことだということを。

それであれば、私から何かできることはないのかな。



「人は、あっというまに大きくなり死んでいきます。

 あなた方にとって一瞬にも近い時間しか、ゆうちゃんにも私にも残されてないでしょう」

「…」

「…」



「もし、ゆうちゃんに人間と関わらせる勇気を持ったなら、ゆうちゃん自身が望んだなら。

 お手伝いさせていただけませんか?」



ゆうちゃんを見ながら私は言った。

双方からじっと視線を感じる。



「私は縁視の特殊能力者です。それは特殊能力を受け入れる現代の社会でさえ疎まれる存在です。

 人との付き合いの難しさ、社会の厳しさをわかるからこそ、できることがあると思うんです」

「…考えておきましょう」



それは今までで最も色よい返事だった。




報告書◆

彼女の心を開く糸口を発見、次回は遊具を通して親密になることができるかもしれない。

精霊とは彼女の将来を見据え引き続き情報交換をしていくことで同意。

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