第7話 縁視オルトーリズム
縁視オルトの噂
最近、縁視の話題が多いなあ。
私は灯ちゃんとカケルくんと共に来客エリアのソファに腰を掛けて、時間を持て余しにきたのかと思うほど入り浸っている仮名係長の話を聞いていた。
「でね~、『オルト』がふらっと現れたわけ!」
それは昨日の話だった。
有名な『縁視』の1人である『オルト』と呼ばれる男が、久々に目撃されたらしい。
彼は典型的な根無し草で、行方不明になってはそこら辺の公園や、観光名所や、はたまた特殊治安局内で発見されるという。
『縁視』といったら?という質問に大多数は答えるだろうと言われているほど有名な中年男だ。
私も数度しか会ったことがないけれど、何しろ胡散臭いからあんまり関わろうと思ったことはなかった。
オルトが現れると、支援一課 1係と特殊情報管理室はざわつく。
それはそれぞれとある理由があった。
「1係は捕まえるのに大忙し、今回もいたちごっこ中よ」
ここまでやって捕まらないなんてどうかしてるわ。と仮名さんは笑う。
課長としてその表情はどうかと思うのだけれど、
あまりにいたちごっこを繰り返しすぎて、ああまた始まった、なんて季節行事みたいな扱いになっているのは周知の事実では、ある。
「…あら、噂をすれば」
突然7係の執務室の扉が開く。
そこにいたのは、1係の鴨川係長だった。
いつもの決まった髪形が少し崩れているところをみると、今回もなかなか苦労しているみたい。
1係は特殊能力者の管理業務として、オルトを担当しているから仕方なかった。
「失礼する。…相変わらず7係は暇そうだな」
開口一番に失礼である。
まあ、こんな時間から寛いで駄弁っているんだから、そうかもしれないけど。
「お疲れさま~カモちゃ~ん♪」
「…その呼び方やめていただけますか」
上機嫌な仮名さんにぴしゃりと言い放つ。
相変わらずの切れ味だ。
カケルくんが鴨川さんのスペースを確保すべく、私側に寄せて座りなおす。
けれど鴨川さんは座らず私に目を向けた。
なんだろう。
そのまま視線を返してみた。
「吉川さんに依頼がありここへ来ました。
仮名課長、彼女を借りてもよろしいですか?」
「ここの主にOKもらえたら、異論はないわ」
鴨川さんが周りを見渡すが、今関さんはいない。
「今関係長はどこへ?」
「今日は午前中お休みだけどぉ?」
灯ちゃんが座ったまま来客を睨む。
本人に意図はないのがもったいない。
沈黙の空間を破るように、私は上半身をぐるりと後ろを向けた。
「
今関係長の机から見て斜め前の席。
限りなく影を薄くしてポチポチとキーボードを叩くのは、長く多い髪をだらりと垂らした女性、埜々子さんだ。
彼女は7係の古株で、いろいろな局員たちと仕事をしてきた年長者。
今関さんと同い年で、時折呑みにいっているとか。
埜々子さんは前髪を伸ばしすぎて見えない目をこちらに向けて、消え入りそうな声を出した。
「菜子ちゃん、今呼んだ…?」
「はい。呼びました。
1係の鴨川係長から支援の依頼をいただきました。今関さんがお休みなので代わりに許可いただきたいのですが、対応してよろしいでしょうか?」
「え…わたし…?」
ええ…と埜々子さんはぶつぶつ呟き始めた。
「なんでわたしなんかが…もし今関ちゃん帰ってきて怒られたらどうしよ…わたしにそんな権限あるわけないじゃん…みんなそうやって人に責任押し付けてさあ…ほんとやんなっちゃうよね…」
「…彼女は何をいっているんだ?」
思わず声をあげた鴨川さん。
一番近くにいるカケルくんが、しっ、とジェスチャーした。
「そもそもさあ…なんで1係なのよ…エリート集団が7係なんかに支援を求めるとか…汚れ仕事でもさせる気…?どうせ代わりがきくなんて思ってるんでしょ…やだやだ…これだからお高く止まってる家の連中は…」
「依頼したいのは『縁視』オルトの足止めだ」
鴨川さんは耐えきれないとばかりに声をあげた。
埜々子さんの言葉が止まる。
以外と堪え性のない人だったとはなあ。
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