第006話 また、一緒に
4月最後の金曜日。明日からは連休。天気は気持ちの良い晴れ。
そんな日に私はバスに乗ってる。
というのも今日は待ちに待った遠足。
学年全体が楽しい感じがしてて、私もワクワクしていた。
そんな空気の中、私の隣りに座っているまー君は…これ寝てるのかな?
少なくとも楽しそうではなかった。
そもそも、無理やり同じ班になって連れてきた感じなので機嫌が良くないことは…間違いない。
でも私なりに今の私にできることを考えた。
その結果がまー君を普通の高校生活から離れてしまわないように、こうやって誘うことぐらいしか思いつかなかった。
今はそっとしておこうと思い、私は前の座席の隙間に近づく。
そして座ってる同じ班の
「晴れて良かったね!」
「…でもちょっと眩しい。もう少し曇ってても良かったんだけど」
「でも、晴れてたほうが気分いいでしょ?それに途中でダム見学するみたいだし、私は今日の天気は最高だと思うんだけどなぁ〜」
今日の予定は私達の学校がある星雲市の上にあるダムを見学してから、近くのバーベキュー場でバーベキューをするらしい。
「なんかさ、ダム見学が行程にあるの小中学校の遠足みたいじゃない?」
「それは私も思った。なんか社会科見学みたい」
「でも景色が良くて観光地としても人気らしいよ?天気もいいから綺麗な写真撮れそうと思って私は楽しみにしてるんだよね」
「あ、そうだ!みんなで写真撮ろうよ!せっかくの遠足なんだし!」
「いいね!」
「智陽ちゃんは?」
「私は別にいいけど、それよりあなたの隣の人がなんて言うかの方が問題だと思う」
「「あっ…」」
私達3人はさっきから静かなまー君を見る。
喋らないと思ったら、どうやら寝ているみたいだった。
☆☆☆
屋外バーベキュー場には笑い声と話し声と食材が焼ける音が混じって響いてる。
グループごとに場所が決められてて、グループで好きなようにやっていいって感じらしい。
それにしても、みんな楽しそう。
やっぱり楽しいのが1番だよね!
遠足ってこうでなくっちゃ。
「そういや、この班のメッセージグループ作ったけど
「入らない」
「さっき撮った写真いらないの?」
「いらん。」
「そっか。まぁ、入りたくなかったら言ってよ」
その一方でうちの班の空気は…微妙です。
麻優ちゃんと私は楽しんでるんだけど、まー君はいつものように機嫌が悪そう。
やっぱりさっきダムで無理やり4人で写真撮ったからかな…
それともさらに追加でひーちゃんと3人でも撮らせたからかな…。
3人で撮るって言ったとき、まー君凄い嫌そうな顔してたな…。
「4人で撮ろ!」って言ってた時から嫌そうだったけど。
私はあの頃の続きみたいで嬉しかったんだけどな…
ちなみに、智陽ちゃんはさっきから無口です。
「私はインドア派だから、こういう陽キャイベントは嫌い」だそうです。
こういうイベントが嫌いな人も…いるんだね。
でもやっぱりこういうのは楽しむのが1番!と私は張り切って話を振り続ける。
中学校の話とか、休日の話とか、何が好きかとか、その他色々。
主に相手になってくれるのは麻優ちゃんだけだけど…。
でもたまに智陽ちゃんも参加はしてくれる。まー君はほとんど喋らないけど。
そして、ついに深刻な問題が発生した。
「えっと…話題…尽きちゃった…」
「別に無理して話し続けなくていいよ。私はこういうの好きじゃないから」
「まぁまぁ、クラスメイトと交流を深めるってのがこの遠足の目的らしいから…ね?」
「そうそう!それに無言は嫌だよ〜!」
「2人からはなんか話したい事とかないの?」
「「ない」」
麻優ちゃんがフォローしてくれたけど、2人にあっさり断られる。
というか、声揃えて言わなくてよくない?
ほんのちょっと落ち込んでいると、智陽ちゃんが口を開いた。
「1つだけある」
「待ってました!」
「最近怪物騒ぎをよく聞けど、3人はどう思ってる?」
思ってたのより凄い話題が来た。
麻優ちゃんは「どうって言われても…聞いたことしかないから…」と困ってる。
私はどうしよう。何度も見てる。
それどころか、誰が怪物を倒しているかすら知ってる。
でも多分その正体は言っちゃダメだと思う。
…なんて言おう。
困りながらまー君の方を見ると、彼が口を開いた。
「見たら逃げろ」
「「「え?」」」
2人は戸惑う。
私は彼がこのことについて話したことに驚いた。
そんな私達を気にせず、彼は言葉を続ける。
「驚くようなことじゃないだろ。人を襲う怪物。なら見たら逃げるのが当たり前だろ」
言い終えるとまー君は黙ってしまった。
でもその言葉はいつになく、真剣だった。戦ってる彼からすれば当たり前の発言なのかもしれない。
私はまー君がそう言った以上、何も言えなかった。
私達はこれ以上、この話題を続ける気にはならなかった。
☆☆☆
楽しい時間は終わり、私達は帰るためにバスが止まってる駐車場に向ってる。
大型バスで来たから少し遠いのがちょっと残念だけど。
すると、麻優ちゃんが話しかけてきた。
「今日は楽しかったね〜!ちょっと帰りたくないよね」
「わかる!楽しいときって本当に一瞬だよね〜!」
「ねぇ、
「え、いいの!?行く行く〜!ねぇ、智陽ちゃんは?」
「私はいい」
「え〜?」
「私は2人と趣味が違う。きっと楽しめないと思う」
残念。
確かにさっき話してたときも智陽ちゃんと私の好きなものはかなり違っていた。
3人のうち1人だけ趣味が違うのは…嫌だよね…
「じゃあ、また今度2人で行かない?」
「気が向いたらね。」
「言ったよ〜!?また誘うからね!」
楽しい遠足は終わってしまう。
でもこうやって友達とまた次の楽しみが出来た。まずは近い予定から決めないとね。
私は麻優ちゃんと連休に遊びに行く予定の相談をする。
そのとき、列の後ろから悲鳴が聞こえる。
私達が振り返るとそこには、泥人形が数え切れないくらい沢山いた。
「これってさっき言ってた怪物よね!?」
「実物を見たいわけじゃなかったんだけど…」
慌てていると更に多くの悲鳴。
どうやら私達、学年ごと囲まれてしまっているらしい。
「そういえば…まー君は!?」
「「え?」」
あたりを見回すと彼は私達の後ろにいた。
私は2人を置いて駆け寄る。
「まー君!!」
「何だ。邪魔するな」
「えっと…行くの?」
「当たり前だろ。囲まれてるんだぞ。このままだと全員ここで死ぬんだぞ」
それは駄目。
でも彼に行ってほしくない。
なぜかそう思った。
でも彼が戦わないと、ここで全員死んでしまうかもしれない。
私は、彼のために何ができるだろう。
私は悩み、下を向く。
そして言葉を捻り出す。
「あのさ、今日楽しかったんだ、私。だからまー君もまた…一緒に…」
しかし、彼は何も言わない。
というか、彼がそこにいるって感じがなくなった。
おかしいと思い、私は顔を上げる。
彼は私が言葉を言い切る前に姿を消していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます