第124話 仲直り
とかげ座に蹴り飛された。
私は吹き飛んで地面を転がる。
「幸セ…壊ス…まずハ…娘かラ!!!」
とかげ座は地面を蹴って、叫びながら距離を詰めてくる。
みんなが止めようと攻撃している。
それでもとかげ座は止まらない。
私は急いで起き上がる。
しかし、その場を離れる前にとかげ座の右の足が私に迫る。
私はその蹴りを両手で止める。
ぶっちゃけ見え見えだし、両手はフリーだから普通に止めれた。
ただし姿勢としては、膝立ちの状態だから止めれなかったら顔が蹴られるところだった。
「…悪いけど、今の私は簡単にやられないから」
そう言い切って深呼吸をする。
私を蹴ろうと迫る右足を抑えながら。
全身に巡る星力を改めて認識する。
そして、その星力が毒と成って両手から溢れるのをイメージする。
今まで、毒を飛ばすのも纏わせるのも少ししかできなかった。
でも、今なら。
そのとき、とかげ座が突然目に見えて苦しみだした。
私の毒がまわったらしい。
とかげ座は左足と尻尾の2点で身体を支えていたが、バランスが崩れる。
私はそのタイミングでとかげ座を突き飛ばす。
完全にバランスを崩したとかげ座は後ろに倒れる。
私はそのまま言葉を投げかける。
「そもそも、何で私や私の両親を狙う訳?」
「さやマ…俺と同ジ…なのニ…あいつだケ…!!!」
「…私の父親と何があったか知らないけど、相手の幸せが羨ましいから壊すだなんてふざけてるわよ」
「うるさイうるサイうルサイウルサイ!!!!!コワス!!!」
そう叫びながらとかげ座が突っ込んでくる。
私は武器を生成して構える。
そのとき、私の前に2つの影が飛び出した。
「完全に狂ったな」
「だな。早く動き止めねぇとな」
佑希と志郎がとかげ座の前に出て、斬りつけて拳を叩き込む。
いつの間に私の近くに……と言うかそれならもっと早く援護に入ってくれたていいじゃん。
そう考えていると、2人に名前を呼ばれる。
…もしかして私抜きでどう連携するか決められてた?
とりあえず私は距離を詰める。
そして、槍で思いっきり突く。
とかげ座はぎりぎりで穂先を掴んで直撃を避けられた。
そしてまた押し合いが始まる。
「コワス…コワス!!!」
「うっさい!!!」
私は槍を上に向け、とかげ座も一緒に持ち上げる。
そして穂先から毒が噴き出すのをイメージする。
するとそのイメージ通りに毒が噴き出してとかげ座は空に撃ちあがる。
「すっげぇ…」
「感心してる場合じゃないぞ」
「そ、そうだな!」
そんな志郎と佑希の会話が聞こえた後に、斬撃と爆発がとかげ座に命中する。
そして別の方向から水弾が飛んでくる。
これはきっと日和の攻撃。
「落ちてくる前に離れるぞ」
「だな。鈴保!」
そう言いながら移動する佑希と志郎に続いて私も後ろに下がって、この場を離れる。
とかげ座は私の毒で痺れているらしく、そのまま落ちてきて地面に激突して土埃を上げる。
私たちは改めて、とかげ座の方を向く。
土煙が晴れる。
とかげ座は仰向けに横たわっている。
そして、その身体の一部は地面ごと凍り付いている。
その奥に視線を向けると真聡、由衣、日和の3人が武器を構えていた。
たぶん日和と真聡の連携攻撃でとかげ座を凍らせたんだと思う。
身体の前で両手で杖を持っている由衣が両手を広げた。
そして右手に持ち替えていた杖をとかげ座に向ける。
すると由衣の周りから5体ほどの半透明の羊が現れ、とかげ座に向かっていく。
とかげ座はあっという間に羊に埋め尽くされて見えなくなった。
数十秒経って、羊達が消滅した。
とかげ座がいた場所に倒れているのは眼鏡をかけたスーツ姿の男だった。
「終わったな!」
「そうだな」
隣にいる志郎がそう言った。
佑希は同意しながらも周囲を警戒している。
反対側の真聡達が男に近づいていく。
それを見た志郎と佑希も男の方へ歩いていく。
私も後を追って歩き出す。
前へ1歩、踏み出したとき、視界がまわった。
星鎧が消えた。
私の身体は前へと傾く。
力を入れて踏ん張ろうとするも、地面が近くなってくる。
ヤバい。
そう思った次の瞬間、私の身体が止まった。
右側から体の前を通って左肩を掴んでいる腕に支えられて。
「鈴保!?大丈夫か!?」
その手と声の主は志郎だった。
顔を見なくても声でわかる。
私は「大丈夫、ありがと」と言って立とうとする。
でも、上手く立てない。
私はしゃがみ込む。
「あぁ~もう無理すんなって!ほら、肩貸すぞ?」
そう言って志郎は私の目の前に手を出してくる。
…流石にそこまで手を借りたくない。
でも、1人で立てる自信はない。
「そこまでしなくていい。でもちょっと、立つのに手を貸して」
「…遠慮しなくていいんだぞ?」
「してない」
「それならいいんだけど…」
そう呟いてる志郎の手を取る。
すると志郎は私を引っ張ってスッと立たせてくれた。
私はお礼を言いながら手を放して、もう一度みんなの方へ歩き出す。
みんなはちょうど、星鎧を消滅させて高校生の姿に戻ったところだった。
私は隣の志郎にさっきから気になってることを聞いてみる。
「何であんたはもう戻ってるわけ?」
「いや、鈴保が普通に戻っちまったから、俺も支えるなら星鎧ない方が良いかなって。
ほら、あると痛かったら嫌じゃね?」
何それ。
志郎ってデリカシーないときあるのに、気が利くところがあるよね。本当。
でも助けてもらった。私はお礼を口にする。
そしてもう1つ気になってることがあったのを思い出した。
「というかさ、何であんたが私が両親と揉めてるの知ってるの?私言ってないよね?」
「あ…いや、それは…」
「それは私が教えちゃったの…本当にごめん!」
志郎が言い淀んでいると、由衣が会話に入ってきた。
気が付くとみんなのすぐ近くまで来ていたみたい。
由衣の言葉に私が口を開こうとする。
しかし、それよりも早く志郎が口を開いた。
「いやいや!俺が由衣に聞いたんだよ!悪い鈴保!勝手に聞いちまって!」
…何でこの2人はお互いをかばいあってるの?
そんなことを思いながらも口を開く。
「…で、どっちが先に言ったの?怒らないから」
「「それ怒るやつ!」」
由衣と志郎が声を重ねて返してきた。
私はそれを気にせず「怒らないから早く」と急かす。
「…俺が先に聞いた。鈴保…なんか様子がおかしい気がしたから…」
そう答えたのは志郎だった。
やっぱり。
何となくだけど由衣は許可がないとこういうことは他の人に言わない気がした。
だから志郎から聞いた気はしてた。
「…でもまぁ。ありがと、心配してくれて。
志郎がさっき時間をくれたから、両親ともちゃんと話せたし」
「話せたの!?よかった~~!」
私の言葉に由衣が安堵の声を上げた。
何であんたが喜んでるのよ…。
そう思っていると、志郎が口を開いた。
「鈴保…変わったな」
「は?何言ってるの?」
「いや、前はもっと…こう…ツンツンしてただろ?何考えてるかわからなかったし。
でも今は、全然そんなことねぇじゃん」
「前っていつの話してるのよ。というか何、あんた私のことそんなに見てたの」
そこまで長い付き合いじゃないはずの志郎にそう言われた。
その驚きから私は辛辣な返事をしてしまった。
志郎は慌てて言葉を続ける。
「…いやほら!体育委員一緒だっただろ!?そんときの話だよ!あのときの鈴保、何考えてる変わらなくて怖かったんだよな…」
「あぁ…そういえばそうだったわね…」
「私も最初にあったときのすずちゃん、ちょっと怖かったなぁ…」
よく考えれば今は11月。
由衣達とはもうすぐ知り合って4ヶ月、志郎に至っては7カ月になる。
短いようで長い。
そう思っていると「鈴保ちゃん」と私の名前を大声で呼ぶのが聞こえた。
この声と呼び方は間違いない。
確信を持ちながら声がした方へ身体を向ける。
その瞬間、私は抱きしめられた。
「すずほちゃん大丈夫!?怪我はして…あぁ!ここも!こっちにも擦り傷が!」
そう言いながら、お母さんは少し離れて私の全身を確かめるように触る。
私は我慢にできずに後ろに下がってお母さんから離れて文句を言う。
「だから!そういうところが嫌なの!それにこのくらいの傷は普通だし!」
「まぁ!でもやっぱりママは可愛いすずほちゃんが怪我するのは嫌だわ…」
「だからこのくらいは…お父さんは?」
いつもなら絶対2人一緒に心配してくる。
なのに今はお母さんだけ。
私は嫌な予感がして辺りを見回す。
するとお父さんはすぐに見つかった。
真聡と何か話してる。
私はさらに嫌な予感がして思わず走り出す。
色々話している間に星力も体力も少しは回復したらしい。
普通に走れる。
「これからもどうか、うちの可愛い娘を頼む」
「…はい。必ず守ります」
「ところで…何かお礼がしたいんだけど…何がいい?」
「ちょっと!?何してるの!?」
私はそう叫びながら真聡を引っ張って私が前に出る。
「鈴保!!大丈夫か…ってあぁ…あっちもこっちも怪我して…」
「それはいいから!というか真聡を困らせないでくれる!?」
「いやでも鈴保。大事な娘をお願いするんだ。その相手が年下としてもパパは父親としてね」
「だから!!そういうのが嫌なんだって!!」
「そ…そうか…」
私のツッコミでお父さんはしゅんとする。
確かに私が悪いところもあるかもだけどさ。本当にお願いだからもうちょっと反省して欲しい。
私はまた一気に疲れた気がして思わずため息をつく。
そんな私に真聡が声をかけてきた。
「でもまぁ、良かったな。仲直りが出来て」
「できたように見える!?」
「見えるよ!だってすずちゃんの顔、この前よりも明るいもん!」
気が付くと置いてきた由衣が真聡のすぐ横まで来ていた。
その由衣は真聡に「ね~!」と言っている。
でも、確かに。
高校入学前の私はきっと想像できない。
梨奈と颯馬、そして両親ともまたちゃんと話せることに。
そして、新しい友達もできたことに。
人って本当に短い期間で変わる。
良い方向にも、悪い方向にも。
少し感傷にふけっていると、真聡が口を開いた。
「とりあえずここから移動するぞ。現場検証が始まるし俺達も捜査協力しないといけないからな」
「ほらすずちゃん!行こ!」
由衣に手を引かれて私は歩き出す。
チラッとお父さんを見ると、お母さんも隣にいて警察から事情を聞かれていた。
また後でもうちょっと話そう。
そう思って私は先に歩いている仲間たちの背中を追いかけた。
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