第123話 余計なお世話
駅前に近くは既に警察による交通規制が始まっていた。
私は事情を説明して警察のバリケードの内側に入る。
そこから少し移動した駅前のバスターミナルで戦闘は行われていた。
私は現状を把握するために歩道橋を上る。
澱みが大量に湧いている。
戦っている星座騎士の鎧の色は黒、赤、黄、青。
志郎を除いた4人が既にいるみたい。
4人は地上で澱みと戦っている。
でも、肝心の堕ち星が見つからない。
私は辺りを見回す。
確か…前に戦ったときは上から落ちてきた。
そう思った私は視線を上にあげる。
するとビルの壁面に夕闇に紛れながら動くものが見えた。
堕ち星だ。
私から見て、頭が右下の方を向いている。
私は視線の先をそっちに変える。
目に入ったのは、ビルの陰から真聡達と澱みの戦いを見ている私の両親だった。
…いやなんで2人ともいるの!?
そして、きっと堕ち星には気づいていない。
とかげ座の堕ち星は既に、壁面から飛び降りる予備動作に入っている。
このままだと、お父さんとお母さんが危ない。
でも歩道橋を下りて走っていくと、きっと間に合わない。
途中で星鎧を生成したとしても。
それに私が庇うだけでも駄目。
だったら、一か八かの賭けだけどやるしかない。
私は星力を足に集中させる。
これで多少の衝撃は耐えられるはず。
息を吸って。
吐いて。
そして覚悟を決めて、手すりを飛び越えて歩道橋から飛び降りる。
まずはほぼ真下で放置されている、路線バスの屋根上に着地する。
屋根の上を走って、もう一度飛び降りる。
そして今度は地面の上に着地する。
流石に足がジンジンと痛む。
やっぱり星鎧を纏わず、星力だけだったのは無茶だったかも。
でも今はそんなこと言ってられない。
私は止まらずに走り出す。
同時に次は右手に星力を集中させる。
私はまだ生身でちゃんと武器を生成できたことがない。
でも今は、成功するのにかけるしかなかった。
車道と横断歩道を突っ切って、両親と堕ち星の間に何とか滑り込む。
槍はまだ生成しきれていない。
それでも私は、お父さんとお母さんを助けたい一心で槍を持っているつもりで構える。
そして、落ちてくるとかげ座に突き刺す。
とかげ座が目の前まで来たそのとき、槍が一瞬にして生成された。
とかげ座は穂先に接触する。
私はそのまま槍を押し飛ばす。
とかげ座は槍と共に押し飛ばされて、山なりに飛んで背中から地面に落ちる。
槍は途中で消滅した。
とりあえず何とかなった。
後ろで両親が私の名前を呼んでるのが聞こえる。
でも安堵したのも束の間。
とかげ座が立ち上がって、もう一度突っ込んでくる。
しまった。
助けるのに必死で2撃目以降は何も考えてなかった。
私は慌ててギアを喚び出そうとする。
でもこの距離だと星鎧が生成されるまで間に合わない。
そう思ったとき。
雄叫びと共に橙の何かが私を追い抜いて、とかげ座を吹き飛ばした。
「遅くなって悪りぃ。大丈夫か?」
橙色の星座騎士、平原 志郎が振り向きながらそう言った。
…何かみんなに助けられてばっかり。
でも助かったのは事実。
私は「大丈夫、ありがと」と言いながら志郎の横に並ぶ。
そして、今度こそギアを喚び出そうとする。
だけど、志郎の行動の方が早かった。
「あいつは俺が相手しておくから、鈴保は先に両親と話せよ」
そう言い残して走り去ってしまった。
余計なお世話なんだけど…。
というか、何で志郎がそのこと知ってるの?
私、言ってないんだけど?
でも、今話さないとまた逃げてしまうかもしれない。
私は振り返って、両親の顔を見る。
心配そうな顔をして私の名前を呟いてる。
そして、私は自分の想いを口にする。
「…別に、私はお父さんとお母さんが本当に嫌いなわけじゃない。ちょっと行き過ぎた心配や愛情表現が嫌ではあるけど。
あと、2人が私のことがとても大切で、心配してくれてるのは分かってるつもり。
…でも私は、この力に選ばれたからには戦いたい。
それに、他の皆に戦いを任せて、自分だけ逃げるなんてしたくない」
「でも、ママはすずほちゃんが傷つくのは見たくないわ…」
「ママの言う通りだ。実際、陸上で怪我をして…」
…そっか。
2人は私が怪我をして大会に出れなくて、全部投げ出したくなったことを今も気にしてくれてるんだ。
…今思うと、最初に陸上を止められたのもそういう挫折があるかもと思ってくれてたのかな。
いや、過保護が過ぎるでしょ
それに、そうやって逃げてても何も始まらない。
「…大丈夫。今はちゃんと大事な友達や、頼れる仲間がいるから。
それに戦いから逃げて、肝心な時に目の前の誰かを助けれない方が嫌」
私はそう言い切って、まっすぐに両親の顔を見る。
…こうやってまっすぐ見るの、いつぶりかな。
すると、お母さんが駆け寄ってきて私を抱きしめた。
外だからやめて欲しい。
…でも、今だけは仕方ないかな。
私がそう思ってると、お母さんが言葉をかけてくる。
「…止めても無駄よね。
でもすずほちゃん、1つだけ約束して?」
「なに?」
「絶対、無事で帰ってきてね」
「そうだな。親を残して先に逝くなんて親不孝は絶対に、パパ許さないからな」
お父さんも近づいてきてそう言った。
私は2人の言葉に「わかってる」と返事をする。
ちょっと大げさな気がする。
でも、それだけ私のことを愛してくれてるってことの表れだと思った。
私はお母さんの腕の中から出て「行ってきます。2人は警察官がいるところまで逃げてね」と伝える。
「行っておいで」
「気を付けてね」
お父さんとお母さんはそう言ってくれた。
私は体の向きを180度反対に向けて、戦いの場へ視線を戻す。
志郎を始め、仲間たちがとかげ座の堕ち星と戦っている。
私は左手をお腹の上に翳して、レプリギアを喚び出す。
そして、次に左手を時計の7時の場所に掲げてプレートを生成する。それをレプリギアの上から入れて、左手を7時場所から時計回りで一周する。
最後に左手を引き、右手を前斜め上に突き出す。
もう気になることも、迷うこともない。
私は、戦う。
「星鎧、生装!」
その言葉と同時に右手でレプリギア上部のボタンを押す。
するとレプリギアから蠍座が飛び出し、私の身体は光りに包まれる。
光の中で私は紺色のアンダースーツと紺色と深紅色の鎧に包まれる。
そして、光は晴れる。
私は一直線にとかげ座へ走り出す。
ビル前の歩道から車道に出て、ロータリーへと戻る。
戦う仲間たちの間をすり抜けて、とかげ座との間合いに入る。
そして、渾身の一発の右ストレートを叩き込む。
とかげ座は不意の一撃を受け吹き飛ぶ。
一方、私の参戦に気づいたメンバーが口々に私の名前を口にする。
「すずちゃん…話は出来た?」
「…うん。迷惑かけてごめん。あとは私がやるから。今まで休んでたようなもんだし」
由衣の言葉にそう返して、私はとかげ座と向き合う。
ちょうど、とかげ座も構えなおしたところだった。
「幸セ……壊ス!!!!」
そう叫びながら距離を詰めてくる。
私は槍を生成して、向かってくるとかげ座を突く。
しかし、私から見て左に避けられた。
そのまま左から飛びかかってくる。
私は後ろに飛び下がって反撃の体制に入る。
だけど、攻撃が空ぶったとかげ座に半透明の羊、水、斬撃が直撃する。
さらに最後には爆発した。
「鈴保まで突っ走ってどうするんだよ!」
「そうそう!みんながいるんだからみんなで助け合お?」
志郎と由衣がそう言って私の横に並んできた。
それに続いて真聡、佑希、日和も。
やっぱりあの怒涛の攻撃はみんなの援護だったらしい。
…あの量は軽く虐めでしょ。
そう思いながら私はお礼の言葉を口にする。
「…それよりさ、堕ち星。どこいったの?」
「「あ」」
「「「え」」」
日和のその指摘に真聡と佑希、そして私と由衣と志郎の声が重なる。
どうやらあの援護の後、少し話している間に姿を見失ったらしい。
全員、すぐにお互いに距離を取って警戒態勢に入る。
真聡が「上も警戒しろ。ビルの壁とかよく見ろ」と言っている。
そう。この流れは何度やってきた。
そしてお父さんとお母さんを逃がした今、恐らくとかげ座の狙いは私だけ。
つまり。
私は周りを見るのをやめて、真上を見上げる。
気が付いたのは良かった。
ただ、少し遅かった。
見上げたときには既に、とかげ座が上から迫っていた。
避けようとするけれど、間に合わなかった。
みんなも私を助けようとするけれど間に合わなかった。
私の後ろに着地したとかげ座は、私を蹴り飛ばした。
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