11節 とある秋の1日
第125話 芸術鑑賞
午前中の気持ちのいい秋晴れの空の下。
私は星雲市の邸宅街を幼馴染のゆー君と歩いてる。
「ここは?」
「右!そして次に左に曲がったらすぐだよ!」
私はゆー君の質問にそう答えながら右に曲がる。
そして、次の曲がり角はもう見えている。
同時に私達の待ち合わせ相手がいた。
私はびっくりして思わず声を上げる。
「すずちゃん!?…何で?家まで行くって…」
「待ってたら2人ともいろいろ言ってきてうるさかったから出てきたの」
本当はすずちゃんの家の前で待ち合わせの予定だった。
でもどうやらお父さんとお母さんに色々言われるのが嫌で、外で待っていたみたい。
すずちゃんの言葉に私とゆー君は同情交じりの何とも言えない声が出る。
「だから悪いけどちょっと回り道していくよ。こっち」
すずちゃんはそう言って来た道を反対方向に歩き出す。
そんなすずちゃんを私とゆー君は追いかける。
そして追いついた私達は世間話を始める。
学校の休みの今日。私達は星雲市邸宅街にある小さな美術館見学に行く。
その美術館は星雲市で活動していた「
つまり芸術の秋らしく芸術鑑賞に行くってこと。
どうして行くことになったか。
それはすずちゃんのお父さんがまー君にすずちゃんと仲良くしてくれているお礼と言って入館券をプレゼントしてくれたから。
…すずちゃんは嫌そうだったけど。
じゃあなぜ、私とゆー君とすずちゃんの3人なのか。
それは入館券が3枚しかなくて、じゃんけんで決めたから。
結果として私達3人が勝った。
…まー君とちーちゃんはなんか負けたのに安心したような顔をしてた気がするけど。
それともう1つ…。
「というかさ、何で私なの?私何回か来てるんだけど…
せっかくなんだから初めての人が行くべきじゃない?」
話題がひと段落したところですずちゃんがそう言った。
決まった時も同じことを言ってた。
何回か行ったことあるから、そこまで乗り気じゃないみたい。
「でも知ってる人がいると安心するよ?」
「それに行ったことあるならある程度、彩光 風色について知ってるだろ?いろいろと教えてもらえると絵の見方とかもわかるだろうし」
私とゆー君がそう返すとすずちゃんはため息をついた。
「…わかった」
「それにそのあとは駅前に戻ってポップアップストア行くって話じゃん!」
私がそう言うとすずちゃんは「そうだったね」と呟いた。
せっかく遊び行くなら1日遊び行きたいってことで、そっちも行くことにした。
「…佑希はそれでいいの?」
「あぁ。付き合うから気にしなくていい」
「そうだ!さっちゃんにお土産に…あ!私からのプレゼントにしたいんだけど…良いかな?」
私にしてはいいこと思いついたと思った。
だってさっちゃんは進学校で連絡もできないくらい忙しいって聞いてる。
そんなさっちゃんに可愛いストラップとか送ったら喜んでくれると思った。
「…あぁ。きっと喜ぶだろうな」
でも、ゆー君の返事はなぜか暗かった。
同じタイミングですずちゃんが口を開いた。
「着いたけど…大丈夫?」
「あぁ。気にしないでくれ」
すずちゃんとゆー君がそんな会話をしている。
私はそれよりも美術館の外観に驚いていた。
後ろの山も建物の一部じゃないのかと思うぐらいの自然との一体感。
でも周りの家に負けないくらいの存在感と高級感。
…なんかこういう場所、慣れてないからそわそわしてきた。
「じゃあ入るよ」
そう言ってすずちゃんが建物の中に入っていく。
私は置いて行かれないように、続いていったゆー君の背中を追いかける。
中に入ってから気が付いたけど、木造建築なのかな?
床も柱も壁も木が使われている。
そんなことを考えながら、受付のお姉さんに入館券を見せる。
そして受付を抜けると正面に中庭が見える。
感動した私は思わず「中庭すっごい!」と声を上げる。
「日本庭園だな」
「彩光 風色は日本庭園も好きらしいから」
私の言葉にゆー君とすずちゃんがそう返してくれた。
あ、彩光さんは御存命らしいです。
近代画家って言うんだっけ?
なんか小学校の地域学習で名前を聞いた気がしてきた。
そんなことを考えていると、すずちゃんが「絵画はこっち。行くよ」と言って左に歩いていく。
2階がメインで絵を飾ってるみたい。
私達は木製の階段を上がって移動する。
階段を上がった先の大きな部屋にはあちこちに絵が飾られている。
私は気になった作品に近づいていく。
描かれているのは色々なものがある。
でも、星雲市とその周りの地域の風景が結構多いのかな?
私はそんなことを考えながら見てまわる。
紅葉の中の星鎖神社、再開発前の星雲市駅前、遠足で行ったダムの建設中の風景、星雲市の夜景と星空。
他にもたくさん絵が飾られている。
見たことある風景もまだある。
どの絵も色が綺麗でなんというか…引き込まれる?感じがする。
そう思いながら見て回っていると「ちょっと由衣」と声と共に肩を掴まれた。
後ろを向くと、すずちゃんがちょっと機嫌悪い顔をしていた。
「まったく私の話聞いてないじゃん」
「あっ…ごめん…」
絵に夢中で忘れていたけど、すずちゃんが彩光さんの話をしてくれるって話だった。
すずちゃんは「やれやれ」って雰囲気。
「まぁまぁ。静かに楽しそうに見てるからさ。
それこそ小学校の頃に行った美術館では…」
「待って!?それ以上は言わないで!?絶対私の恥ずかしい話だよね!?」
後ろから来たゆー君にとんでもないことを言われそうだったので、焦って止める。
少し言われたから思い出したけど、小学校の遠足で行った美術館。
遠足ってことでいつもよりテンション高かった私は美術館で走るし、大声でまー君達を呼ぶから先生に5人で怒られた記憶が……。
駄目!思い出しただけで恥ずかしい!!
そんな私を見て気になったのか、すずちゃんはゆー君に質問している。
「…何があったの?」
「本人から禁止が出たからこれ以上は俺からは言えない。
まぁ…由衣はだいぶ大人しくなったってことかな」
「なんかその言い方嫌なんだけど…」
そんな話をしていると女性の声が話しかけてきた。
「お客様、彩光 風色の作品はいかがですか?」
声の主は受付のお姉さんだった。
私は咄嗟に謝る。
「すみません!騒いでしまって!」
「いえいえ、今日の入館者は皆さんだけですから。
ところで…皆さんは学生ですか?」
「はい!私達3人とも高校生です!」
「そうですか。彩光 風色の作品はどうですか?」
「どの絵もとても色が綺麗で…あとこの街が好きってのがとても伝わってきます!」
「そう言って貰えると彩光 風色も喜ぶと思います。…せっかくですので、特別な体験をしていきませんか?」
「…特別な体験?」
後ろでずっと口を開いてなったゆー君がそう聞いた。
というかずっと私が1人で話してた…。
「はい。彩光 風色の作品のような色合いの絵を描くワークショップをおこなっております」
お姉さんのその言葉にゆー君とすずちゃんは言葉を発さない。
…考えてるのかな?
でも私はそんな楽しそうな体験、できるならしないと後悔すると思う!
私はそう思って「やりたいです!」と返事をした。
「わかりました。では、着いてきてください」
そう言ってお姉さんは奥へ歩いていく。
私はその背中を追いかける。
大きな部屋を出て廊下を歩き、階段の横を通る。
お姉さんはその先の木製の扉で止まった。
そして扉を開けて「お入りください」と言ってくれた。
私達はその部屋の中に入る。
そこそこ広い部屋の中はカーテンが閉め切られていて薄暗い。
テーブルも椅子も道具も何もない。
あるのは、部屋の真ん中にある画架に置かれた色鮮やかな絵画だけ。
でもその絵は色鮮やかなんだけどさっきまでの絵とは全然違う。
色遣いは好きなんだけど…何て言うか、希望とか明るさが感じられない。
それになんか空気も悪い。
あまりにも不審に思った私は疑問を口にする。
「あの…本当にここでやるんですか?」
「道具も何もないですけど。せめてカーテン開けませんか?」
私に続いてすずちゃんがそう言った。
「それもある。それよりも気になるのは、この部屋は澱みが濃い。
お前…堕ち星か?」
ゆー君のその言葉で私達は振り向く。
扉の前に立ってるお姉さんは下を向いている。
そして、呟くような声で語り始める。
「そう。あなた達が話に聞いた邪魔者なのね。
…でも、この部屋に入ってしまったからには、私の絵の贄と成ってもらいます」
その言葉と同時に、急に身体が後ろに引っ張られる。
私は驚いて後ろを向く。
私達は部屋の真ん中の絵に吸い込まれそうになっていた。
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