第126話 道連れ

 私達は部屋の真ん中にある絵に吸い込まれそうになっている。

 慌てて足を踏ん張るけど、少しずつ絵に引き寄せられている。


「えっ…どうなってるの!?これ本当に吸い込まれるの!?」


 私がそんな悲鳴を上げたとき、木に何か刺さる音がした。

 次にゆー君の叫び声が飛んでくる。


「武器を生成して床に刺せ!」


 そっか!

 私達、星鎧を生成しなくても武器は生成できる。

 だから星鎧を生成できなくても武器だけなら!


 私は両手を身体の前に出して、杖を生成する。

 そして木製の床に突き…。


「刺さらない!?」


 私の武器は杖。

 ゆー君の剣やすずちゃんの槍と違って、相手を刺したり切ったりしない。

 だからそこまで鋭利じゃない。


 慌ててさらに力を入れて踏ん張る。


 でも私の身体は少しずつ絵に近づいていく。


「吸い込まれる~!?」

「由衣!!手!!」


 隣を見ると床に突き刺した槍に片手で掴まってるすずちゃんが私に手を伸ばしてくれている。

 私は左手を伸ばしてすずちゃんの手を掴む。


 なんとかすずちゃんの手を掴めた私は右手の杖を消滅させてから、少しずつ移動する。

 そしてすずちゃんの槍を掴ませてもらった。


「た…助かった……。

 すずちゃんありがと!」

「全く状況解決してないけどね!」


 確かに何も解決してない。

 私達は引き続き絵に吸い込まれそうになっている。


「これどうやったら止まるの~!?」

「原因はあのお姉さんだと思うけど…本当に堕ち星なの?」

「でもとりあえずギアを喚ばないと!」

「それは…そう!」


 私達2人はお腹に手をかざして、とりあえずギアを喚び出す。

 ギアはこんな状況だけど無事にお腹に巻かれた。


 でも星鎧を生成しようとしたら、絵に吸い込まれる気しかしない!

 というかゆー君さっきから無言だけど大丈夫なの?


 そう思ったとき、お姉さんが口を開いた。


「しぶといですね…早く絵に吸い込まれてください」


 その言葉と同時にさらに吸い込もうとする力が強くなった。

 もう足浮いてない!?これ!?


「どうしようこれ~~!?」

「マズいのは分かってるんだけど、どうしたらいいのか…!」


 その瞬間「メキメキメキ」という音が聞こえ始めた。

 その音は私達の足元から聞こえてくる。


 「「え」」と私とすずちゃんの声が重なった。


 足元を見ると、槍を刺してる床の木が剝がれ始めていた。


「ちょっ!!足!!踏んで押さえないと!!」

「足浮いてる~~!!」


 私とすずちゃんはパニック。

 事態の収束どころか自分の安全すら危ない。


 2人そろって足が宙に浮き、傾いている槍に掴まっている。

 そんな中、私は顔を上げて前を見る。


 だってさっきからゆー君無言なんだもん。

 自分自身が大ピンチだけど心配だった。


 ゆー君も私達と同じように、足が宙に浮いて両手は自分が刺した剣に掴まっている。

 背中に深い青のギアの帯が見える。

 ギアはもう喚んでるみたい。


 でも私達よりも絵から遠いゆー君も駄目そう。

 このままだと全員吸い込まれる。


 そう思ったとき、ゆー君は両腕を引き始めた。

 身体と剣の距離が少しずつ近づいていく。


「ゆー君すっごい!!」

「感動してる暇あるなら、私達も!」


 すずちゃんがそう言った。

 私はゆー君の方を見ながら頑張って両腕を引く。


 数秒後、大きな音がした。


 ゆー君の方を見ると、床に足がついていた。


 一方、私は腕が…引けない!

 でもすずちゃんが何とか槍が刺さってる床に足を下ろせた。


 次の瞬間ゆー君は鍔の部分に足をかけて、剣から手を離した。


 そして前に跳んだ。


 誰か1人でもこの吸い込む範囲から逃げれれば体勢を立て直せるはず。

 私達は頑張ってこのまま耐えて、ゆー君が反撃の隙を作ってくれるのを待とう。


 …だいぶ疲れてきたけど。



 でも、上手くいかなかった。


「本当に、しつこいですね。早く吸い込まれてっ!!」


 お姉さんがそう言うとさらに吸い込む力が強くなった。


 すずちゃんの足は再び地面を離れて宙に浮く。


 そして、槍が床から抜けた。


 私達の身体は掴まるものがなく、絵に吸い込まれていく。



 当然ゆー君も同じ。

 あと少しでお姉さんに手が届きそうだったのに。




「吸い込まれるならお前も道連れだ!!」


 ゆー君の怖い声が部屋に響いた。


 その声で私は部屋の入り口に目を向ける。



 すると、扉に刺さっていたカードが爆発した。


 その衝撃でお姉さんは私達の方へ吹き飛ばされる。



 そして、私達3人と受付のお姉さんは部屋の真ん中にある奇妙な絵に吸い込まれた。

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