第065話 正体

 落下しながら水魔術を発動させる。

 俺の星力と空気中にある魔力、そして空気中の水分が水となり俺と共に落ちていく。

 そして着地と共に水柱が立つ。それはまるで着地したのが地面ではなく水面であったかのように。

 その水は宙を舞い、やがて地面に落ちる。

 そして広場全体へと広がっていく。


 状況は恐らく怪事件の犯人である堕ち星が1体。そして澱みが多数。

 2階から飛び降りたときには複数の澱みがいたはずだが、今は1体だけになっている。

 恐らく分身か何かだろうか。


 正体は見た目や他の事件現場の爪痕から考えるに…こぎつね座か?

 狐は分身できない気がするが…そこは戦いながら考えるしかない。


 そして星座騎士は4人いる。

 鎧の色は赤、橙、深紅、左側だけが黄色…1人多い。

 恐らく行方不明のレプリギアの持ち主だろう。

 雰囲気的にはとりあえず味方のようだ。

 こちらを考えるのはあとにしよう。


 「澱みは任せるぞ」と言い俺は杖を片手に堕ち星との距離を詰める。

 堕ち星は真っ向から向かい撃つ構えを取る。

 それを見た俺は進路を斜めに変え、堕ち星の側面から火を放つ。

 そしてそのまま後退し、距離を空ける。


 火を受けた堕ち星は正面から突っ込んできて、爪を突き刺してくる。

 俺はそれを杖で受ける。

 堕ち星は押し合いをしながら問いかけてくる。


「どんだけいるんだよ…何で邪魔するんだよ!」

「お前が人に危害を加えるからだ。」

「チッ…正義のヒーロー気取りかよ!」

「俺は正義のヒーロなんかじゃない。逆にそういうお前は正義のヒーローのつもりか?」

「うるせぇな!!!邪魔すんなよ!!」


 その叫びと同時にまた分身が現れ、横から襲い来る。

 俺は本体の攻撃を押し返して後ろに下がる。

 しかし、他の個体が追撃を仕掛けてくる。


 俺はそれを避けながら杖先を地面につき、蔦を伸ばす。

 蔦によって堕ち星を弾き飛ばせたが、消滅はしなかった。

 分身であろうとも堕ち星。やはり無詠唱ではダメらしい。


 そう考えているうちにまた他の個体が襲いかかってくる。

 俺はそれを避けて、近距離戦に邪魔な杖を消滅させる。

 そして反撃の拳を叩き込む。


 もし分身を無限に出せるとなるとキリがない。

 一撃で分身を消滅させて、本体を倒す必要がある。

 それだけの威力を出すには詠唱が必要なのは確実だ。

 しかし、隙がない。何とかできないか。


 そう考えていたその時、何かが飛んできて堕ち星の前で爆ぜる。

 すると堕ち星の分身が消滅し、少し離れたところに1体だけが残った。

 本体はあいつか。

 俺は地面を蹴り、堕ち星に拳を叩き込むべく距離を詰める。

 

 しかし、再び何かが飛んでくる。

 今回は明らかに俺を狙っている軌道だ。

 俺は足を止め、後ろに飛び下がる。

 地面に刺さっているのは黒い羽。

 つまり…


「邪魔するよ」

「からす座…!」


 からす座の堕ち星が上の階の手すりに立っていた。


「悪いね。この子はヘビが気に入ってるから簡単に倒されちゃ困るし、もう少し頑張ってもらわないと」

「知らん。お前もここで倒す。」

「いいからそういうの。俺は今日戦うつもりはないから。俺も俺で忙しいんだよ」


 そう言い残してからす座はこぎつね座を連れて飛び去ってしまった。

 堕ち星が去り、澱みは残っていない。

 戦闘は終了した。

 俺のところに由衣達が集まってくる。


 しかし、まだ1つわかってないことがある。

 俺は右手に杖を再度生成し、黄色の星座騎士に向けて構える。


「ちょ、ちょっと何してるの!?味方だよ!?」

「正体がわかっていないやつを信じれるか?」

「だって私と一緒に戦ってくれたもん!」

「それは堕ち星との戦闘で消耗するのを待っているだけかもしれないだろ。」

「いや…俺…味方なんだけど…それにさっきも援護したんだけどな…」

「ならば星鎧を解き、両手をあげろ。そして名前と選ばれた星座を言え。」


 黄色の星座騎士は「わかったよ」と言いながらレプリギアからプレートを抜き取る。

 その正体が露わになると同時に自分の目を疑った。

 そして黄色の星座騎士が乗る前に由衣が驚きの声をあげる。


「え…………ゆー君!!!???」


 紺色と黄色の星鎧が消滅して現れた人物。

 それは数日前にいきなりこの街に帰ってきた幼馴染の児島 佑希だった。

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