第064話 もう1人

 私は今、放課後に駅周辺をパトロールで歩き回ってます。

 教科書とか入った鞄はまー君の家に置いて来て、小さい鞄だけなので身軽です。


 始業式の日から堕ち星が出たという情報もありません。

 でもまー君は警察と協力して動いているみたいで忙しそうです。

 だから私もできることをしないと。


 そんな事を思いながら歩いていると、私の目に1つの看板が目に入る。


「お洒落………可愛い……美味しそう…」


 カフェの看板にはとてもお洒落なケーキの写真があった。

 財布は小さいカバンに入ってる。

 少しお腹すいたし、休憩していこうかな…

 と思う自分を私は全力で止める。

 違う違う。今はそんな事をしている場合じゃない。

 ここは今度来よう。できるなら誰か誘って。

 そう決心して私は再び歩き出す。


 みんなが動いてるのに私だけ休憩するなんて私が自分を許せない。

 それにまー君に文句を言われそう。いや言われないと思うけど呆れられそう。


 4月の頃と比べるとだいぶ戻ったと思うけど、やっぱり昔のまー君とは違うと思う。

 戻らなくてもいいからもう少しこう…柔らかくなって…欲しいな…

 というかやっぱりまだ何か隠してるよね。この前のレヴィさんと話してたときも後ろ向いて話してたし。

 流石に私も何かおかしいとは思う。


 でも4月に保健室で話してくれるまで待つって言っちゃったし…無理に聞くわけにもいかないよね…


 そんな私の目に次に止まったのはお気に入りのアクセサリーショップだった。

 近くに来ると予定になくてもついつい寄ってしまうぐらいお気に入り。

 そんな今も吸い寄せられ…


 るその瞬間、遠くから悲鳴が聞こえたのを聞き逃さなかった。

 今日は寄ってる場合じゃない!

 私は多分聞こえた方に向かって走り出した。


☆☆☆


 少し迷ったけど何とか辿り着けた。

 場所はいろんなお店が2つの階に沢山入ってるところ。アウトレットモールって言うんだっけ?

 私は今2階にいて、吹き抜けの下に見える1階の広場で耳と尻尾がある黒いもふもふの何かが暴れてる。

 多分堕ち星だと思う。

 もちろんみんなに連絡入れたけどまだ誰も来ない。


 私はもう1回下を覗いてみる。

 もふもふは制服を着た男の子を襲っている。

 まー君には堕ち星相手なら1人で戦うなって言われた。

 でもこの状況では待ってられない!


 私は立ち上がっていつもの手順でギアを喚び出して、プレートを入れて構える。


「星鎧 生装!!」


 そう叫びながら私は手すりを飛び越えて、1階の広場に飛び降りる。

 怖いけど、きっとこうしないと間に合わない。

 星鎧は着地前に私の身体を包み込む。

 だから着地は問題なく成功した。


 私は右手に杖を生成しながら、もふもふと男子学生の間に滑り込む。

 そしてもふもふの攻撃を杖で受ける。


 堕ち星だから当然攻撃が重たいけど、勝二さんと比べると全然軽い。

 私はそのまま押し返して突き飛ばす。

 そして男子学生に「逃げて!」と呼びかける。

 男子学生はちゃんと逃げていく。


 とりあえず怪我人は出てないと思う。

 でも飛び出したのは良いけどこれからどうやって戦おう…

 そう思ったとき、もふもふが私に語りかけてきた。


「お前…もしかして女?」

「だったら…何?」

「別に?ただ面白いなぁって思っただけ!」


 もふもふが突撃してくる。爪での攻撃かな。

 私はそれを避けて、距離を取る。

 そしてエネルギーの塊の羊を突撃させる。

 確実に当たった。

 でも堕ち星だからどれだけ効果があるのかわからない。

 私は油断せずにもふもふの次の動きを待つ。

 するともふもふはこちらを向いた。


「何今の。何ともないけど」

「…私の攻撃は一撃では決まらないの」

「ふぅん。じゃあ、俺の勝ちは決まったようなもんだね!」


 その言葉と同時に周りに気配を感じる。

 見渡すともふもふが増えている。

 …どうなってるの!?というかどれが本物!?

 悩んでる間にも、もふもふ軍団は一斉に襲いかかってくる。

 私は全力で避けながら急いで言葉を紡ぐ。


「羊が1匹、羊が2匹。眠れよ眠れ。回れよ回れ。羊の群れ!大回転!」


 羊があちこちから現れ、私を中心に回り出す。

 もふもふに突撃するけど返り討ちに合って消滅していく。

 これは…ヤバい?


 そう思った瞬間もふもふは「残念だったね!」と叫びながら突撃してくる。

 私は間に合わなくて爪の攻撃をお腹にもらって吹き飛ばされ、地面に転がる。


 結構痛い。

 でも痛がってる場合じゃない。早く立たないと。


 しかし、もふもふは既に攻撃の体制に入ってる。

 本当にヤバい。


 その瞬間、私の前に鎧人間が現れてもふもふの攻撃を弾き返す。

 助かった…


 その鎧人間は「大丈夫?」と言いながら手を差し出してくれる。

 私はその手を取り「ありがと」と言いながら立ち上がる。

 これは…誰だろ。星鎧は顔も体も見えないから誰かわからないのが困る。

 声的に男の人の声だからまー君かしろ君…だと思うんだけど何か変な感じがする。

 2人はこんな声だっけ?


 星鎧の色は星座によって一部が違うから、私は色を見る。

 深い青と…左側が黄色で右側の色は…鈍い。黄色…?


「黄色!?え、誰ですか!?」

「あれ聞いてない?」

「何にも聞いてないんですけど!?」


 いや本当に何も聞いていない。

 そういえばこの前のレヴィさんと話したときにまー君が「もう1人いる」的な話をしてたよね。

 つまり…この人がそのもう1人ってこと?

 この人は…誰?何座に選ばれたの?

 疑問はたくさんあるけど、そんな事を考えてる暇はない。

 もふもふは立ち上がってもう戦う体勢になっている。

 増えたもふもふは消えている。

 どうなってるの?


「他にもいるんだ…お前みたいなやつ」

「いるよ。…話は後だね。とりあえず、味方だから安心して」

「…わかった」


 もふもふがまた突撃してくる。

 それを黄色の鎧人間が迎え撃つ。爪と剣がぶつかる音が響く。

 私はその横からもふもふを思いっきり殴る。


 もふもふは横に吹き飛ぶけど、体勢を崩さず着地した。


「君、遠距離でしょ?俺の武器は剣だから接近戦は俺に任せて」

「お願いします!」


 今度は黄色の鎧人間が先に動いた。距離を詰めて、剣で斬りかかる。

 もふもふはその攻撃を何度か避けてから爪で受ける。


 私はというとその攻防の間に杖をもう1回生成して、後ろに回り込んでいた。

 そして言葉を紡ぐ。


「羊が1匹、羊が2匹。眠れよ眠れ。羊の群れ!」


 黄色の鎧人間と向かい合うように、羊が現れる。

 その羊達はもふもふに突撃する。


 もふもふは羊達に気づいて、3匹ほどに突撃されながらもそこから逃げ出す。

 私は黄色の鎧人間隣に行ってもふもふと向かい合う。


「2対1はやりづらい…な!!」


 そしてまたもふもふがたくさん現れる。

 分身…なのかな?


 もふもふ軍団はまた襲ってくる。

 私達はその攻撃を避けながら反撃するけど、1体1体が堕ち星のように強い。

 …これどうしよう。


 そのとき、2体のもふもふが吹き飛んで消滅した。


「悪い!遅くなった!」

「これどういう状況?」


 紺色をベースにそれぞれ橙色と深紅の鎧人間が現れた。

 しろ君とすずちゃんが来てくれた。

 これで4人。何とか…なるかな?


「…1人増えてる?」

「もう1人います!」

「聞いてないんだけど…」

「というか誰?」


 どうやら黄色の鎧人間も聞いていないことがあるみたい。

 こっちもどういうこと…?

 とりあえず私はすずちゃんとしろ君に味方と伝える。


「また増えた…だったら!」


 その言葉で地面から澱みが湧き出る。

 澱みの軍団にもふもふ堕ち星軍団。

 …ヤバい?

 私達4人は背中合わせに集まる。


「とりあえず、各個撃破で。堕ち星の分身には気をつけて」

「うん」「おう」「了解」


 私達はそれぞれ返事をして武器を手に飛び出す。

 …ところで、何で黄色の鎧人間の人が指示出してるの?

 でも堕ち星と澱みが襲ってくるし考えている暇はない。


 私は澱みともふもふの攻撃を避けながら反撃する。

 でもやっぱり堕ち星は強い。

 もう1度、堕ち星の爪による攻撃を杖で受ける。

 これは本物なのかな?それとも偽物?

 …まさか全部本物?

 悩みながらも何とか押し返して、蹴りを入れる。

 私が相手しているもふもふが後ろに下がる。

 そのとき、上から声が響いた。


「全員端に移動しろ!」


 その声を聞いて私そのまま後ろに下がって屋根の下に移動する。

 …どうでもいいけどこれ屋根というか2階の地面だよね。


 次の瞬間、広場の中央に誰かが落下してきた。

 同時に水柱が立って、広場中央から水が流れてくる。


 そこには紺色と黒色の鎧が。

 我らがまー君こと陰星 真聡が立っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る