第063話 あと2人

 正直に言おう。今、俺は凄く混乱している。

 由衣達が何故家に来ているのかはこの際どうでもいい。

 それよりも協会本部にいるはずのレヴィ カールソンが何故ここにいるのかの方が問題だ。

 何も聞いてないぞ。というか何で鍵持ってるんだ。


「いや…何でいるんですか。というかどうやって入ったんですか。」

「焔さんから鍵を預かったんだ。会う人がいるから先に行っててくれって」

「じゃあ何で連絡くれなかったんです。」

「…焔さんと会ってないのか?」


 そこで大きなため息が出る。

 焔さんは本当にどこに行ったんだ。

 しかし、混乱しているのは俺だけではなかった。


「まー君…この人…誰?」


 当然、初対面の由衣、志郎、智陽の方が混乱していた。


☆☆☆


「つまり、この人が私達のギアを作ってくれたって人?」

「じゃあ君達が真聡の新しい仲間か!」

「えぇ…まぁ…」


 レヴィ カールソン。

 俺の協力者の1人で協会所属の魔道具職人。つまりレプリギアを作ってくれたのはこの人だ。

 そして、智陽が作った設計図を渡した相手もこの人だ。

 レヴィさんは3人を見てから俺に質問をしてくる。


「もしかして…今日1人欠席か?」

「鈴保は。」

「部活だって〜」

「だそうです。…というかお前らは何しに来た。」

「いやぁ…それは…」

「せっかくもう1人の幼馴染と再会できたのに、みんな用事があるって帰ったから寂しいんだって。だから真聡はどうせ何か調べ物だろうから。張り込んどけば…」

「ちーちゃん何で全部言うの!?というかそこまで言ってない!!」


 智陽に全部暴露された由衣が怒っている。志郎はそれを見て笑っている。

 智陽の性格も変わったな…いや、言い合いしてる場合ではない。

 俺は「自己紹介をしろ」と言って、言い合い2人組を止める。


「で、誰からする。」

「はい!牡羊座に選ばれた白上 由衣です!よろしくお願いします!」

「平原 志郎、選ばれたのは獅子座っす!」

「華山 智陽です。色々あって、情報収集担当しています」

「よろしくな!…で君は、星座騎士じゃないのか」

「はい」

「…真聡、あと2人は?」

「2人?」


 待て、どういうことだ。

 来てないのは蠍座の砂山 鈴保だけだ。そもそもレプリギアは3つしか受け取ってない。今から受け取るのでやっと4つ目だ。

 そして今居るのは2人。レヴィさんの話だとレプリギアの使用者が4人存在することになる。レプリギアの数が合わない。

 俺は疑問をそのまま口にする。


「今、星座騎士として活動しているのは俺を入れて4人です。それに俺はレプリギアを合計3つしか受け取ってません。」

「あれ?焔さんに最初に3つ渡したんだが…」

「はい?」


 最初の頃…確か素材は連休前半に送った。そして届いたのは中間考査が終わってから。あのときは2つしか受け取っていない。

 そしてその2つは今、由衣と志郎が使っている。

 しかし、レヴィさんは最初に3つ渡したと言っていた。


 確かに送ってからレプリギアが来るのが遅いと思っていたが…3つ作っていたとなると納得はいく。

 あのときレプリギアを持ってきたのは…焔さんだ。


 そして最近、堕ち星ではない何者かが動いている。飛ばしてきたのは矢。

 つまりは恐らく射手座に選ばれた星座騎士がこの街にいる可能性がある。

 その瞬間、2つの疑問が繋がった。


「焔さん…何か隠してるな…」

「真聡、受け取ってなかったのか」

「…はい。最近全く来ないと思ったら…あの人は何をやってるんだ…」

「焔さんって…誰?」

「あぁ焔さんってのはね…」


 焔さんに合ったことのない志郎と智陽に対して、由衣が説明を始める。

 俺は説明を由衣に任せて、レヴィさんと話をする。


「前に話したスタンガンなんですが…」

「そうそう!それも受け取りに来たんだよ!」

「お願いします。」


 俺はスタンガンが入ったケースを取りに行き、元のレヴィさんの隣の椅子に戻る。

 彼はスタンガンのケースを開けて中身を確認する。


「3つか…真聡、1個持っておいてくれないか?」

「いや、使いませんけど…」

「もしも、ということがあるかもしれないだろ?それにお前はいらなくても他のやつには必要なことがある」

「はぁ…」

「まぁ、僕としては2つあれば十分だからそれは好きに改造しちゃってくれ!」


 雑すぎるだろ。

 知ってはいたが改めてそう思う。しかし腕は確かだ。 文句を言っても仕方ない。

 返された1つのスタンガンは…手が空いたときに考えよう。

 そこに焔さんについての話が終わった3人が合流してきた。


「さっきから思ってたんですけど…レヴィさんって日本語上手なんですね!」

「あぁ、違う違う」


 そう言いながら彼は首からかけているペンダントを触る。


「ボクハ、コレデ、ニホンゴハナシテル」

「えぇ!?」


 するとレヴィさんが話す日本語がいきなりカタコトになった。

 初めて見る3人は驚きの声をあげる。

 まぁ、初めて見たらこんな反応するな。

 レヴィさんはもう1度ペンダントを触る。


「僕自身、日本語はカタコトでしか話せない。だからこのペンダントを使って君たちの耳に流暢な日本語に聞こえるようにしているんだ」

「そんな事出来るんですか!?」

「どうなってるんすか!?」

「どういう原理なんですか?」

「これはね、このペンダントに俺の…」


 ペンダントの説明をしようとするレヴィさんを俺は「ちょっと」と引き止め2人で後ろを向く。

 そして俺は小声で文句を言う。


「魔術や魔法の話はしないでください」

「…もしかして、協会の話してないのか?」

「…はい。」

「じゃあ、ホルダーの話も?」

「してません。」

「…何でしてないんだ?」

「…あいつらは魔術師じゃない。たまたま星座に選ばれ、ホルダーになったんです。…あいつらは生きてる世界が違うんです。」

「…そんな固く考える必要はないと思うぞ?」


 確かにそうかもしれない。

 だが俺はどうしてもこいつらを魔術師の世界に関わらせたくない。

 正式にホルダーとなれば協会で働き詰めになる可能性が高い。それはあんまりだ。

 それにこいつらにもしものことがあれば、俺は責任を取れない。


 だから俺は、早く強くならなければ。

 独りで戦えるように。


 しかし、由衣達はそんな俺の考えは知る由もない。

何を話してるのと俺達の背中に問いかけてくる。

 レヴィさんが向きを戻す。

 俺も続いて向きを戻す。


「ペンダントの話の続きだね。これは僕が喋った言葉を聞き取って自動で日本語に翻訳してくれているんだ」

「凄い…!」


 いや実際の仕組みは少し違うが。

 このペンダントは本人からの魔力提供で動いている魔術装備だ。

 そのため、相手が喋っている元の言語が聞こえないようにもなっている。

 だから聞いている側は相手と同じ言語で会話していると認識する。


 由衣と志郎はレヴィさんの説明を聞いて感動している。この2人は単純で助かる。

 しかし、智陽は違和感を感じているようで俺を真っ直ぐみている。

 視線が痛い。


「ところでレヴィさんは何をしに来たんですか?」

「このスタンガンを受け取りに来たのと、あの設計図を作った人に会いに来たんだ。作ったのは…」


 その問いに智陽が名乗り出る。


「華山 智陽さん…だっけ」

「はい」

「…………華山………もしかして…華山 知和の親戚?」

「父を知ってるんですか!?」


 智陽は勢いよく立ち上がる。

 まぁ、無理もない。

 隣に座っている由衣が驚いている。


「とりあえず座れ」

「…ごめん。…あの、父は?」

「もしかして行方不明…なのかい?」

「はい。3年前の3月頃にいきなり帰ってこなくなって…」

「あの時期かぁ…先に言うと、かずさんの行方は僕も知らない」

「そうですか…。あの、父とはどういう関係で?」

「一時期、色々と教えてもらっていたことがあってね。その時の話ならできるけど…」

「聞かせてください!」


 智陽は食い気味に答える。

 そんな智陽にレヴィさんは交換条件を出す。


「代わりに…智陽さんはヒーロー物、好きだったりする?」

「まぁ…それなりに…」

「やっぱりそうか!あの設計図を見たときに日本のヒーローのアイテムに似てると思ったんだ!」


 突然、レヴィさんの声のボリュームが上がる。

 3人は呆然とする。気持ちはわかる。俺も最初は驚いた。

 レヴィ カールソン。彼は、重度のヒーローオタクだった。中でも日本のヒーロー物が好きだとかなんとか。

 さてはこの人、智陽がわかる相手か確かめるために来たな?

 俺は内心呆れて口からは出さなかったが、ため息をつく。


「でもまぁとりあえず、かずさんの話からだね。何から話そうか…」

「ぜひお願いします。どんなことでも聞かせてください」


 そうしてレヴィさんと智陽は智陽の父親についての話を始める。

 一方、由衣は何やらビニール袋を出している。


「あの…よければこれ、入りますか…?」


 袋の中から出てきたのは、いつぞやと同じく1リットルペットボトル数本とお菓子がたくさん。

 こいつは八つ当たりお菓子パーティーでもするつもりだったな?

 今度のため息は口から漏れる。


 しかし、レヴィさんは喜んでいる。日本のお菓子も好きらしい。

 本当にこの人は日本が好きだな…


 一方、暇そうな由衣と志郎が俺に話しかけてくる。


「この後…どうする?」

「…パトロールにでも行くか?」

「行きたいなら好きにしろ。俺にはすることがある。」

「すること?…さっき言ってた用事と関係ある?というかどこ行ってたの?」


 そう俺に聞く由衣の目は真っ直ぐ俺を見ている。

 これは言い逃れはできなさそうだ。

 諦めた俺は智陽とレヴィさんの邪魔にならないようにテーブルから離れて、さっき聞いてきた話を始める。


☆☆☆


「堕ち星が物を盗んだり人を襲ったりしてるの?」

「駄目だろそれ!早く見つけ出さねぇと!」

「だが、防犯カメラなどに姿は映っていなかった。そのため相手は不明だ。無闇に探しても体力の無駄だ。」

「それは…」

「そうだな…」

「だから俺は末松刑事に現場に案内して貰う。お前達は…自由だ。ただ澱みが現れたら初期対応を頼む。」

「私もついていくよ?」

「俺もついていくぜ?」

「来なくていい。その間に何かあったらどうするんだ。」


 そう言うと2人は残念そうな顔をする。

 しかし、この2人がついてくると面倒なことになりそうなので来ないで欲しい。


「…その間、私たちどこにいたらいい?」

「好きにしてろ。」

「でも散らばってたらやりづらくねぇか?それにあまり外でこういう話をしないほうがいいだろ?」

「…ここを使いたいのか」

「うん」「あぁ」


 由衣と志郎の返事は示し合わせたかのように同時に飛んでくる。

 しかし鍵が…いや、問題はないか。


「…わかった。鍵は由衣に預けておく。ただ、勝手にあちこち触るなよ。」

「何で私の方見て言うの!?私そんな子供じゃないです〜!!」


 思わず由衣を見ていたのがバレて反論される。

 だがこいつなら触りかねないと思うのは俺だけだろうか。


「…預けてしまっていいのか?」

「…確かに。私達帰ったらまー君入れないよ?」

「お前の家近いだろ。取りに行くから預かっておいてくれ。」

「それもそっか」

「それに多分そこまで遅くもならないと思う。」


 由衣の家はここからそう遠くない。

 だったら預かっておいてもらったほうが早い。

 ここで俺はもう1つ言うことを思い出した。


「それと、澱みや堕ち星が出たら遠慮なく連絡してくれ。特に堕ち星が出たときは絶対1人で戦うな。俺を待て。」

「本気で言ってる!?」

「お前を待ってて被害出たらどうするんだよ」

「…やっぱりそう言うよな。…俺は待たなくていいが、必ず2人以上で戦え。無茶は絶対にするな。」

「はぁ〜い」「…おう」


 2人は少し不満そうな返事をする。

 堕ち星は澱みとは違う。俺ですら1人だとギリギリの相手だ。こいつらだと言うまでもない。

 だが、そう言って聞く2人ではないこともわかっている。


 しかし、由衣はそんな俺の考えを気にもしていないようだ。


「…私の分のお菓子なくなる!?」

「あ、俺も自分用に買ったやつ入れてた!」


 そう言い残し2人はテーブルに戻る。

 まったく、気楽なもんだ。



 だが俺はこいつらにこのままでいて欲しい。

 何でもないことで笑っていて欲しい。

 だから魔術師や協会のことは伝えない。




 改めてそう決意した。

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