第026話 鋭い爪

 俺、平原 志郎は住宅地を走ってる。

 なぜ走っているのか。それは数分前の出来事が原因だ。


 まぁ、簡単に言えば…俺の家の空手道場が墜ち星って怪物に襲われた。

 だがちょうど今日は墜ち星と戦える白上 由衣が来ていたので、俺達は逃げることが出来た。

 しかし、どうやら狙いは俺らしく俺を追いかけてくる。

 だから全力で走って逃げているって訳だ。


 しかし、体力には自信はあるがずっと走ってるのは無理だ。

 そもそも相手が人間じゃない怪物なので、残念ながら追いつかれてしまった。


「逃げやがっテ…!」

「なんで俺を狙うんだよ!」

「お前が憎いからダ!」


 そう言いながら怪物は殴りかかってくる。というか引っかいてくる。

 鋭い爪だ。やられると確実に病院送りになりそうなので、なんとかして避ける。

 というか…白上はどうしたんだ!?

 もう一度襲い来る爪を避けて俺は反撃の拳を叩き込む。

 しかし、怪物の皮膚は硬い。打った拳が逆に痛い。


「ハハハ…お前はもウ…弱イ!」


 怪物は笑いながら、俺を蹴り飛ばす。

 俺は地面を転がる。

 いやマズいなこれ。

 この怪物は地面から湧いてくる黒い怪物よりも遥かに強い。


 怪物は近付いてくる。

 この状況からはどうにもできない。俺はここで死ぬのか?

 そう思ったそのとき、風が吹いた。


 怪物は吹き飛ばされる。

 そして俺の前には入れ替わるように、鎧を着たやつがそこにいた。

 しかしその鎧はさっき見た紺色と赤色ではなく、紺色と黒色の鎧だった。


「ギリギリ間に合ったな」

「その声…陰星か!?」

「俺以外に誰がいる」


 道場を飛び出す前に由衣からスマホを渡され、陰星に連絡してくれと頼まれていた。

 前に「2度と顔を見せるな」と言われたから、来てくれるか不安だったが本当に来てくれたんだな。

 俺は助かったと安心する。

 確かに、怪物は人が戦うには強すぎる。


 怪物の方を見ると立ち上がり体制を立て直し「また邪魔カ…」と呟いている。

 そんな怪物に陰星は杖を構えていた。

 人を襲うとはいえ問答無用かよ!?

 その杖の先から火が出て、怪物を襲う。

 流石に燃やされたら怪物もただじゃすまない…よな?


 しかし、それ以前に怪物はそれを避けていた。

 そして陰星は既に横を取られていた。

 爪が振り下ろされ、金属がぶつかるような音が鳴り響く。


 陰星は怪物の攻撃を受け止めていた。

 そして、怪物を投げ飛ばす。

 怪物は飛ばされながらも体制を立て直す。

 陰星は既に距離を詰めている。追撃の炎を纏った拳が怪物に命中する。

 それを受けて怪物は少し後ろに下がる。


 陰星は追撃の手を止めない。

 しかし、次の拳は受け止められた。


「お前…我流だナ?」

「だったらなんだ」

「なら敵ではないナ!」


 怪物が受け止めた拳を払い、反撃する。

 怒涛の攻撃で凄い勢いだ。

 鎧が打たれる音が響く。

 その動き方には見覚えがあった。

 だが、今の俺にはどうもできない。


 そう考えていると怪物の後から羊が走ってきて、怪物にぶつかった。

 その瞬間、連撃が鈍った。


 陰星はその瞬間を見逃さなかった。

 反撃の拳が怪物に入り、また吹き飛んでいく。

 陰星は地面を蹴り、怪物に迫る。


 そして、またどこからか取り出した杖を構える。

 杖先からは今度は大量の水が噴き出し怪物を飲み込む。

 俺は着地した陰星に駆け寄る。


「倒した…のか?」

「いや、まだだ」


 陰星は怪物の方を見つめている。

 俺も怪物の方を見る。

 するとずぶ濡れになった怪物が立ち上がった。


「我流のくせニ…この強さは何ダ…?」

「これが俺の戦い方だ」

「…まぁいイ。目的は達成しタ!」


 そう言い残すと怪物は走り去ってしまった。

 代わりに今度はもう1人の鎧を着たやつが現れた。


「逃げられ…ちゃったね」

「由衣、お前何してたんだ」


 そう言いながら彼らは元の姿に戻る。


「あの堕ち星に吹き飛ばされたあと、周りにいた澱みの対処をしてました…」

「…そうか。怪我は?」

「それは大丈夫!してないよ!」

「平原 志郎。お前は」

「お、おう。俺は大丈夫だ」


 蹴飛ばされたときにかすり傷ぐらいは出来ただろうが、こんなのまぁ…よくあることだ。

 陰星は俺達を見たあと、ため息を付いた。

 そして口を開く。


 その声はさっきとは違い確実にキレてる声だった。


「で、由衣。他にも俺に言うことがあるんじゃないのか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る