第047話 選ばれた
最悪の事態だ。
お陰で
今すぐ助けに行きたい。
しかし俺はからす座と、
…というか途中で澱みが増えたよな?どうなってる?
戦いながら現状と打開策を考える。
俺は炎を纏った右手をからす座に向けて振るう。
からす座はその拳を避けて俺から距離を取る。
するとからす座が口を開いた。
「あ〜あ。あの女の子、刺されちゃったね。あれは蠍座だから…このままだと毒で死ぬかもね?」
煽られている。腹が立つな。
だが感情的になっても仕方ない。冷静に突破口を探さなければ。
数秒ほど、どちらも距離を詰めず睨み合う。
そのとき、俺は校舎の屋上に人影が見えた。
その人影は上空に向けて何かを構える。
あれだ。
次の瞬間、人影が空に向けて何かを飛ばした。
俺は杖を生成して、急いで短く言葉を紡ぐ。
「草木よ!澱みに塗れ、堕ちた星と成りしからすの座を縛れ!」
そして杖先を地面つける。
すると地面から蔦が生え、からす座に絡みついて動きを封じる。
次に俺は由衣と志郎に「上から攻撃が来る!自分の身を守れ!」と叫びながら、砂山 鈴保と好井 梨奈の方へ走る。
今気づいたが、蠍座概念体がどこにも見当たらない。
どこへ行った?そもそも何が狙いなんだ?
しかし、その疑問について考えるのは今じゃない。
俺は2人のそばにつくと杖を空に向けて掲げ、言葉を紡ぐ。
「風よ。世界に循環をもたらす風よ。今、その大いなる力を我に分け与え給え。今、渦巻いて吹き荒れ、我らを脅威から守る壁となり給え!」
杖先を中心に風が渦を巻き始める。
次の瞬間、空から大量の矢が雨の如く戦場に降り注ぐ。
矢の雨は間一髪間に合った風の渦による壁にかき消されていく。
矢の雨は数秒ほどで収まった。
俺は風魔術による防壁を解く。
そして状況を確認する。
由衣と志郎は2人でいる。星鎧も維持されている。
どうやら2人でカバーし合ったようだ。
澱みは見当たらない。
こっちはあの矢の雨で残さず消滅したようだ。
一方からす座は外見に変化はないが、膝をついている。
俺の草木魔術によって動きを封じられて矢の雨を防げなかったようだ。
狙い通りだ。
からす座はよろよろと立ち上がりながらこちらに問いかける。
「山羊座君は今の攻撃がわかってた訳か…」
「まぁな」
「全く…恐ろしい事をしてくれるね…お陰で全身が痛いよ……蠍座も消えちゃったし、今日は帰ることにするよ」
そう言い残して、からす座はよろよろ飛び去っていった。
後を追って、無力化しておきたい。
だが、今はそれどころじゃない。
俺はギアからプレートを抜き取り、元の姿に戻る。
そして、好井 梨奈に膝枕のような形で抱えられている砂山 鈴保の隣にしゃがむ。
砂山 鈴保は俺の腕を掴み「私…どうなるの…」と問いかけてくる。
見た感じ、異常はない。
だが蠍座に刺された。毒が注入されてるかもしれない。
残念ながら俺は人を癒すような魔術は使えない。
もし本当に毒が注入されていたら…と最悪の事態が頭をよぎる。
いやしかし、今は俺にできる事をしなければ。
「刺された場所は」
「多分…左手」
俺の質問には好井 梨奈が答えた。
俺は左手を確認する。掌には異常はない。
次に左手の甲を確認する。
そこには明らかに普通の人にはないものが刻まれていた。
しかし、それを見た俺は一安心した。
そしてようやく俺は、周りに教師陣と由衣達がいることに気づいた。
俺は現状を簡潔に説明する。
「砂山 鈴保は死にませんよ。大丈夫です」
その一言で張り詰めた空気が少しほぐれるのを感じた。
俺が砂山 鈴保が死なないと確信した理由。
それは左手の甲に蠍座の星座紋章が刻まれていたからだ。
☆☆☆
「ごめんね…私を庇ったから…」
「別に。それに、私が自分の意志でしたんだから。梨奈と一緒」
とりあえず俺達はタムセンの指示で保健室に移動することになった。「砂山が1人で歩けるようになるまではいるように」と言われた。
終業式の放課後のため保健室には俺達以外の生徒はいない。
そのため俺、由衣、志郎、
蠍座に刺されてから10分ほど経っただろうか。
砂山の体調はようやく落ち着き、喋れるまで回復した。
その間に
由衣の話だと砂山の怪我から小坂 颯馬は砂山を嫌ってると言っていた。
…しかし、実際は違うのではないだろうか。
「…鈴保はこれからどうするの?」
「…わからない。でもとりあえず、もう1回やり投げやってみようかなって。だいぶ期間空いちゃったけど」
「…戻って来るのかよ」
「悪い?でも私が決めることだから。颯馬には関係ないでしょ」
「…そうだな。…梨奈、俺は先に戻るから」
そう言い残して小坂 颯馬は部活に戻っていた。
好井 梨奈はため息をつく。
2人の険悪な関係が改善しないのが嫌なんだろう。
だがそこに固執してても仕方ないと思ったのか、好井 梨奈は次の話題に移る。
「鈴保はこの後どうするの?顧問の先生のところに行くなら私もついて行くよ?」
「…流石に今日はやめとこうかな」
「それは賛成だ。今日は無理しない方が良い」
毒が入れられてないから良かったが、砂山は蠍座に刺されている。
万が一のことを考えて今日は無理をして欲しくはない。
俺が会話に入ったことが驚いたのか2人はこちらを見る。
そして砂山はそのまま俺に質問を投げてきた。
「…というかさ。これ…何?」
そう言いながら左手の甲をこちらに見せる。
そこにはさっきも確認した蠍座の星座紋章が刻まれている。
やはり、砂山 鈴保は蠍座に選ばれたようだ。
…理由も基準もわからないが。
だが説明しないといけない事は山ほどある。しかし…
「…話せば長くなる。だがここは避けたい」
「あまり人に聞かれたくない…ってこと」
「じゃあ、まー君の家に移動すればいいんじゃない?広いし!」
「お!俺も同じ意見だぜ!広いもんな!」
「私も同意見」
確かに俺の家ぐらいしか場所はないが……この3人は俺の家を何だと思ってるんだ。
呆れた俺の口からはため息が漏れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます