6節 偽りか裏切りか
第052話 違和感
8月上旬の昼過ぎ。日差しが凄く痛いです。
今は星鎧に守られてるから大丈夫だけど。
駅近くのビルがそこそこ立つ場所で、私達は今日も今日とて澱みと戦っていた。
私は澱みの集団から距離を取って、言葉を紡ぐ。
「羊が1匹、羊が2匹。眠れよ眠れ。羊の群れ!」
言い終わると同時に杖を掲げる。
すると私の周りから半透明の羊が数匹現れ、澱みに突撃していく。
私は羊に続いて澱みとの距離を詰めて、杖で澱みを思いっきり殴る。
殴って、殴って、叩く。
殴られた澱みは次々と消滅していった。
羊で澱みの動きを止めて、私が杖で殴って止めを刺す。
私ながらいい作戦だと思う。
上手くいった嬉しさから1人で頷いてると、そのいい作戦に文句をつけられた。
「由衣。杖は殴るもんじゃないぞ」
「良いじゃん別に!」
その声の主のまー君がいつの間にか隣にいた。
…というかまー君の後ろの地面、おかしくない?
地面から黒い靄が湧きだし、人の形となった。
いやこれまた澱み湧いてるじゃん!?
「まー君後ろ!」
「わかってる」
まー君は振り向きながら澱みを杖で殴って消滅させる。
「…どう?」
「…悪くはない」
「でしょ?」
まー君も気に入ってくれたようで良かった。
まぁ…星鎧を纏ってて表情が見えないから、本当はどうかわからないけど。
まー君の本心を考えていると「…囲まれたぞ」とまー君に言われる。
私も周りを見る。
どうやら私達が杖の使い方で話してる間にまた澱みが湧いて囲まれたみたい。
一通り倒したはずなんだけど…
まー君はため息をつきながら「さっさと片付けるぞ」私に言う。
でも見た感じ20体ほどいる澱みを倒すのは絶対大変。
「大変そう…」と思っていると私はいい方法を思いついた。
「まー君!合体技やろうよ!」
「そんなの無いぞ」
「今作ればいいの!合わせて!」
そう言って私は杖を両手で持って言葉を紡ぎ始める。
それを見たまー君は私がやりたいことがわかったみたいで、同じように杖を両手で持って言葉を紡ぎ始めた。
「羊が1匹、羊が2匹。眠れよ眠れ。回れよ回れ。羊の群れ!大回転!」
「土よ。生命に安寧を与える土よ。今、その大いなる力を我に分け与え給え。今、この世に蔓延る澱みを押し上げ、吹き飛ばし給え」
私が杖を掲げると羊達が現れて、私達を中心に澱みを巻き込んで回り始める。
そして私がまー君に呼びかけると、まー君は「わかってる」と言いながら杖の先を地面につける。
すると、羊の群れに巻き込まれ動けなくなっている澱み達の足元が盛り上がる。
そして澱み達は宙を舞いながら、消滅していく。
私達を囲んでいた澱みは1体も残らず消滅した。
「何だ今の!?凄かったな!」
「でしょ!私が考えたんだ〜!」
「1番長く真聡と戦ってるだけはあるね」
星鎧を纏って、武器を持っているしろ君とすずちゃんが合流してきた。
「ところで…鈴保、気になってたんだけどさ」
「何?」
「お前、やり投げだろ?なのに槍を武器にして良いのか?」
「1番手に馴染むのがこれなの。それにこれは星力で生成したもので、やり投げのやつとは別だから良いの」
「そういうものなのか…」
すずちゃんが一緒に戦うって言ってから数日経った。
すずちゃんはというともう武器の生成まで出来るようになっていた。
ちなみに槍です。シンプル。
しろ君のときも思ったけど、みんな選ばれてから星鎧も武器も生成できるようになるの早くない?
しろ君も選ばれてすぐ星鎧生成できてたし、武器も勝二さんの一件が終わってから結構すぐにできてた。
1人で少し拗ねてるとまー君がどこからか戻ってきた。
「お前ら、何呑気に雑談してるんだ」
「いや、もう澱みいないし」
「ここ数日は異常なんだ。もう少し…って言っても無駄か。」
「無駄って何?」
「何でもない。とりあえず移動するぞ」
そう言いながらまー君はギアからプレートを抜き取って、元の姿に戻った。
そしてどこかへ歩いていく。
私達も元の姿に戻って、少し不満そうなすずちゃんを先頭にまー君についていく。
まー君はビルの間の路地で止まった。
日陰だからひなたより涼しい。暑いけど。
とりあえず私達は一息つく。
「で、無駄って何?」
「…もう少し気を張ってくれと言ってるんだ。お前達だって、少しは感じてるだろ。この違和感を」
「「違和感?」」
私としろ君は首を傾げる。
それを見たまー君はため息をつきながら「ほらな」と言う。
するとすずちゃんも「あぁ…」とだけ言葉を発した。
「ねぇどういう意味?というか何の話?」
「そうだぞ。言ってくれないとわかんねぇぞ」
「あ、ちなみに私もその違和感はわかってないから。説明して」
「お前らなぁ…」
まー君はまたため息をついた。
…凄く呆れられてない!?
だけどまー君はきちんと説明を始めてくれた。
「ここしばらく…具体的には鈴保が蠍座に選ばれた日から、澱みが出てくる量がおかしいと思わないか?」
「言われてみれば…」
「確かにそうだな」
「いや、あんな怪物が出ること自体おかしいでしょ」
「「確かに!」」
言われてみれば澱みや堕ち星のような怪物が出ること自体おかしいよね!?
というか私も最初はとても驚いた。
そう、夜ちょっと眠れないぐらいには。
でもどうやらそういうことじゃないらしい。
「違う。それはそうなんだが…今はそういう根本的な話はしてない。
澱みが人型になって人を襲うだけでもおかしいが、最近は特に量が多い。だから気を張ってくれと言ってるんだ」
「あ、そういうこと?」
「なるほどな…俺も気をつけるわ」
「それに行ってもいないこともあるしね」
ここ数日、ほぼ毎日澱みが出たと聞いて探しに行く。だけど何回かは結局見つからないこともあった。
あれは…何なんだろうね?
澱みが出たら連絡してくれる智陽ちゃんが嘘つくとも思えないし……あれ?
「そう言えば…智陽ちゃんは?」
「メッセージが来ただけで見てない」
「俺達3人は学校から来たから今日はあってないな」
「というか最近誰か会った?」
私以外の3人は首をふって否定する。
つまりここ数日、誰も智陽ちゃんを見てない…ってこと!?
「ねぇ…会いに行かない?」
「何でだ」
「だってほら、一応仲間なんだしさ。心配じゃない?だから今から会いに行こうよ!」
「私はパス。部活からの戦闘だから今からは無理。流石に疲れた」
「俺も…パスかなぁ…。今日は空手の日だし…」
「そんなぁ〜……でも…仕方ないよね………まー君は?」
「俺もパスだ。超常事件捜査班にこの戦闘についての情報を共有しなければならない」
「えぇ〜!?」
「そもそも、誰も華山の家を知らないだろう。そして「今から会いに行く」と言っても家を教えてくれるやつだと思うか?」
まー君のその指摘に私は固まる。
確かにその通りの指摘だ。
智陽ちゃんが「いや、来なくていい。というか来ないで。私は元気だから」と言ってるのが頭の中で簡単に想像できる。
「…そのうちどこかで会うだろ。それに、そこまで心配が必要なやつでもないだろ。華山は」
そう言い残してまー君は歩き出した。
そう…だよね。智陽ちゃんは1人の方が好きなタイプだから会わないだけ。
夏休み中に会わなくても、夏休みが終わったら学校で会えるよね!
そう思って私は既に歩きだしていた3人の後を追う。
前の3人が先に路地から出る。
次の瞬間、3人がいきなり倒れた。
「え!?何!?どうしたの!?」
私は驚きと心配で3人に向けて走り出す。
そのとき私は首の後ろに激痛を感じた。
同時に私の視界は真っ暗になった。
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