第053話 監禁生活
「簡単だったなぁ!?」
「でも1つずつしか手に入ってないぞ?」
「いーんだよ!1つでも手に入ればこれを餌におびき寄せて残りを奪えばいいんだからな!」
ガラの悪い男達の品のない笑い声がマンションの1室に響く。
この3人の男たちにこの部屋に連れてこられて何日経っただろう。
わからない。頭がぼーっとする。
ご飯はたまにコンビニのおにぎりやパンを中心に与えられる。
でも1日に1回か2回、そして毎回満腹になるほどは与えられてない。
やっぱりこれは栄養失調になってるんだと思う。
でも与えられるだけ、あとトイレにもしっかり行かせてくれるだけこの男達は良心的なのかもしれない。
その他のときは両手を後ろに縛られているけど。そして、さらにその拘束はテーブルの足に繋がれていて身動きが取れない
私、華山 智陽はこのガラの悪い男たちに誘拐され、監禁されていた。
理由はわからない。
だけど、陰星達を誘き出せと言われた。
そこから考えると、恐らく陰星達の星座の力を狙っているんだと思う。
私は「無理」と言った。
しかし男達は「良いからやれ」と言ったので、私は澱みが現れた場所を連絡する度に男達に伝えていた。
そして今日、ついに奪えたらしい。
奪えるようなものじゃないと思うんだけど…
私は色々考えるが、陰星達からしっかりと星座の力について教えてもらっていないのと、思考がまとまらないので考えるのをやめた。
でも、私はやる事をやった。報酬を貰わないと。
私は勇気を出して、男達の話し声に負けない大きさで声をかける。
男達が振り向く。
注意が引けたので、私は要求を伝える。
「奪えたなら、父のことを教えて。それと解放して」
「はぁ?父親?何の話だ?」
「だって…その2つを奪ってきたら父のことを教えてくれるって約束をしたはず」
「知らねぇよ!俺達は「この2つを4つ持ってくれば金がやる」って言われただけだからな!」
「こいつは無理だって言ったけど簡単だったよな!」
「あぁ!このスタンガン当てるだけで終わったもんな!銃まで貰ったけどいらなかったな!」
男達はまた品のない笑い声をあげる。
こんな人間、現実にもいるんだ…創作物の中だけじゃないんだ……私は…騙されていたんだ…
気付けば私の頬には涙が伝っていた。
悔しいのもあるけど、精神的にももう限界だった。
そんな私に男達が近づいてくる。
「お?泣いちゃった?可哀想にねぇ」
「助けも来ないしな!親に見捨てられたか?」
「良く見りゃそこそこ可愛い顔してるなぁ?」
「いっそのことヤッちまうか?」
「おいおい、まだ残り3つ奪うときに呼び出してもらうために働いてもらわないと困るだろ」
「別にここまで来たらもう変わらんだろ!すでに1つ奪ってるんだからよ」
やめて。来ないで。嫌だ。嫌だ。嫌だ!!!!
「んじゃまぁ…ヤるか!」
男達の手が私に迫る。
その瞬間、玄関の方で凄い音がした。
男達は全員玄関の方を見る。
誰かの足音が聞こえてくる。
「随分と楽しそうだな?」
「お、お前!さっきの!」
現れたのは陰星 真聡だった。
何故?どうしてここがわかったの?
考えようとするけどやっぱり頭がぼーっとする。
入ってきた彼は一瞬私の方を見た。
そして再び男達に視線を戻す。
男達は動揺しながらも陰星に圧をかける。
「お前!あのスタンガンで気絶しただろ!何でここがわかった!」
「気絶なんてしてねぇよ。気絶したフリだ。そんなのも見分けつかないのか」
「あ?でもお前のこれは俺たちが持ってる!お前は何もできないガキだ!大人しく残り3つを渡せば命だけは助けてやるぞ?」
そう言いながら、男の1人が陰星がギアとプレートと呼んでいるものを手で持ち、見せびらかす。
それを見た陰星はため息をついた。
「お前ら、この状況でまだ自分たちが優位だと思ってるのか。」
「何だと?」
陰星が左手をお腹の上で右から左へとなぞる。
するとギアが男の手元から消え去り、陰星のお腹に巻かれる。
そして陰星が左手を肩の高さほどで掲げると、プレートも消え、彼の手の中に戻った。
「つまりお前達は無駄な事をしてたってことだよ。」
「このガキ……!!!」
男の1人がスタンガンを持って陰星に突撃する。
陰星は男を避け、スタンガンを持った腕を掴む。その手を背中側に回して拘束する。
男は肩の可動域以上に腕を曲げられて悲鳴を上げている。
そのとき。
「ふざけんなよ!!!!」
もう1人の男がそう叫ぶと同時に、渇いた破裂音が室内に響いた。
拳銃から銃弾が発射された。
その銃弾は真っ直ぐに陰星の後頭部を目掛けて飛んでいく。
しかし、その銃弾は陰星の伸ばした左手の前で勢いを失い、地面に落ちた。
拳銃を持った男は「何だよ…何だよお前!」と叫びながら残弾全てを陰星向かって撃つ。
でも残念ながら全ての銃弾が陰星の左手の前で落下する。
「大人しくしてろよ」
そう言うと陰星は右手で押さえている男を突き飛ばし両手をそれぞれの男に向けて伸ばす。
「縛れ。」
その言葉と同時に2人の男の足元から蔦が伸び、男達を縛り上げた。
それを見た残された男は私に近づいてくる。
そして私の両腕の拘束とテーブルの足に繋いでいた縄を切り落とした。
「ほら立て!」
「やめて!」
私は無理やり立たされ連れて行かれる。
そしてスタンガンを首に当てられる。
…これ、さっき気絶させたとか言ってたスタンガンだよね?
「おいガキ!こいつがどうなってもいいのか!」
「あ?」
陰星が私の方を見る。
男は笑いながら陰星を脅す。
「何もできねぇよなぁ!?正義のヒーローはみんなを助けねぇといかねぇもんなぁ!?ほら、両手を上げて跪け!」
「私は…いいから…」
反射的に口から強がった言葉が出た。
嘘。助けて欲しい。
でも陰星がここで捕まると、きっと他の3人も捕まる。
いや平原ならなんとか出来…やっぱり無理そう。
平原は人が良すぎる。
しかし、それ以前に私は陰星に助けて貰うような人じゃない。
だって私は、彼を利用しようとしていたから。
この状況を見た陰星の口からはまたため息が漏れた。
「お前、本当におめでたいやつのようだな?」
「何だと?」
「この状況でまだ自分が優位だと思ってるのか?これ、さっきも言ったよな?」
「じゃあ、お前はこの女がどうなってもいいのか!?」
「そんなこと一言も言ってねぇだろ。喧嘩売るなら相手をよく見ろって言ってんだよ」
次の瞬間、男はあちこちから伸びてきた蔦で全身を縛られる。
私の首元に当てられているスタンガンは伸びてきた蔦の1本によって男の手から落とされ、地面を転がる。
私は急いで男から離れ、壁際に逃げる。
「引き倒せ」
陰星のその言葉でさらに男の背中側から蔦が伸びてくる。
その蔦により、男は仰向けに倒れた。
「おい!!正義のヒーローがこんな事をして良いのかよ!?」
「俺は盗まれたものを取り返しに来ただけだ。そうしたらお前達が俺に襲いかかってきたから俺は正当防衛しただけだ。それに俺は正義のヒーローではない」
そう言い切ると陰星はスマホを取り出し、どこかへ電話をかけ始めた。
「陰星です。制圧完了しました。人質は無事です。突入お願いします」
「ガキ!お前何をした!」
「警察を呼んだだけだ。逃げようとしても無駄だぞ。まず俺が逃さねぇし、逃げたとしても既に包囲されているからな」
陰星が言い切ると同時に沢山の足音が聞こえてきた。
その足音はこの部屋に入ってきた。
「警察だ!全員大人しくしろ!」
こうして、私は監禁生活から解放された。
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