第054話 罪悪感

 私、華山 智陽は病院のベッドで横になっていた。

 あれから私は念の為に待機していた救急車で病院に運ばれ、念の為検査を受けさせられた。

 検査結果は栄養失調だった。

 そして今日は病院で一夜を過ごすことになった。


 助かったのはいいけど、陰星には何も言われなかった。

 私は自分の身勝手な理由で陰星達を利用して、危険な目に合わせた。

 最初から利用するために近づいた。それは間違いないはずなのに。


 私は今になって罪悪感で押しつぶされそうだった。


 私が罪の意識と戦っていると、誰かが廊下を走る音が聞こえてきた。

 そして私の病室の扉が勢いよく開いた。


「智陽ちゃん!?大丈夫!?」

「由衣…流石に病院の廊下は走るなよ…」

「そうよ。高校生になってまでこんなことで怒られたくない。」

「で、でも〜!!」


 白上と平原、そして砂山が入ってきた。

 どうやら私が監禁されていたと聞いて、心配して走ってきたらしい。

 白上らしいけど、その優しさが今の私は辛かった。

 私は体を起こしながら、罪悪感から逃げるために話題を私自身から逸らす。


「…みんなこそスタンガンで気絶させられたって聞いたけど、大丈夫だったの。」

「あれ痛かった!」

「俺も痛かった…」

「私も。というかスタンガンって普通気絶しないはずなんだけど。」

「あのスタンガンは改造されてたからな」

「まー君!どこ行ってたの!というか私達が目覚めたときにはいなかったし!」


 陰星が病室の出入り口にいた。

 白上が文句を言っている。陰星は反論をしない。

 私は何故か代わりに事情を説明していた。


「陰星君が…私を助けてくれたの。」

「え、そうなの!?」

「というか、何があったか説明してほしいんだけど?」

「…ここ数日、澱みと戦闘しているときずっと誰かに見張られている感じだった。

 相手は素人だとはわかっていたが、狙いがわからないからわざと罠にかかった」

「…じゃあつまり、私達は真聡が気づいていたのに気絶させられたの?」

「…素人だから問題ないと思った。それに殺傷武器を持っていたら抵抗するつもりだった。

 まさかスタンガンが改造されていて問答無用で気絶させられるとは思わなかったが」

「でも先に言っといてよ!」


 砂山と白上に陰星に怒っている。

 でも私もこれは怒って良いと思う。私が言えたことじゃないけど。

 そしてまた陰星は反論しない。すると平原が間に入った。


「まぁ、そこは予想外だったんだろ?俺たちは怪我してないから許してやろうぜ、な?」


 その言葉で砂山と白上は口を閉じた。

 不服そうなオーラはあるけど。

 平原は言葉を続ける。


「で、その後何があったんだよ。」

「…俺はあの路地から出る前にギアを喚び出し、プレートを生成しておいた。するとやつらはギアとプレートを盗んでいった。

 俺は奴らが去った後に起き上がり、丸岡刑事に連絡を入れて奴らを追いかけた」

「え、まー君は気絶しなかったの?」

「していない。防御の術を張って身体を守り、気絶したフリをしていた。」

「じゃあ私達もそうしたら良かったでしょ。何で先に言っといてくれなかったの?」

「…お前らそういう演技できないだろ」

「あぁ〜…」


 陰星と砂山が白上を見る。白上は「何で私を見るの!?」と反論する

 …言いたいことはわかる。無理そう。

 反論する白上を平原がなだめながら、陰星に話の続きを促す。


「どうやって追いかけたんだ?」

「ギアには追跡できる術をかけている。それで追いかけた。」

「そんなこと出来るんだ…」

「追跡して潜伏してるマンションの部屋を特定し、警察に報せた。そして周辺を包囲してもらい、突入して制圧した」

「そこに智陽ちゃんがいた…ってことなんだね」

「あぁ」

「怪我がなくて良かった…」


 白上が私の横に来て私の手を握る。


 やめて。私は、心配して貰う価値なんてない。

 私は罪悪感から白上の顔が見れずに俯く。

 そこに、低い声で鋭い指摘が飛んできた。


「華山。お前、何を考えている」


 私はその言葉でハッとして顔を上げる。

 陰星は私の正面に移動していた。

 彼の目はまっすぐ私をみていた。


「私は…」


 今になって頭の中が恐怖と罪悪感がぐちゃぐちゃになってる。

 どうしたいのかわからない。

 ただ1つ、言えることは。


 この罪の意識から逃げ出したかった。


「私は…許されないことをした。自分の目的のために陰星に近づき、利用しようとしていた。そして…あなた達を不必要な危険にさらした。

 だから、どんな処罰を受ける覚悟もできている」

「智陽ちゃん!?処罰って…」

「そうか。だったら、協力を今日で終わりとする。」

「まー君!?」

「…わかった。」

「…忘れろとは言わない。だが、もうこういうことに関わるのはやめたほうが良いぞ」


 そう言い残して、陰星は病室から出ていた。

 それを追いかけるように残された白上達3人も病室から出ていった。


 私は、独りになった。

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