第051話 素直じゃない
誰かの話し声が聞こえる。頭がぼーっとする。
何があったんだけ。
私は靄がかかったような思考で頑張って思い出す。
今日は…部活に行った。
そうか。私、熱中症で倒れたんだっけ。
やっぱり復帰したてはもう少し気をつけたほうが良かったかな。
…いや違う。全身が痛い。熱中症だったらこんな風な痛みはないはず。
これは熱中症による痛みじゃないことぐらいわかる。
頑張ってもう少し思い出してみよう。
部活に行って…帰りに…澱みに襲われて…逃げて…颯馬が…
「梨奈!?颯馬!?」
「すずちゃん!?どうしたの!?」
「私ならここにいるよ?」
叫びながら飛び起きると病院のベッドの上だった。
声がした方を見ると、手当された梨奈と白上がいた。
そっか。私、戦いが終わってから倒れたんだっけ。
「鈴保〜…?大丈夫…?」
「…うん。大丈夫。梨奈は?」
「私は大丈夫。というか鈴保の方が怪我酷いよ?」
「あぁ…通りで…」
通りで全身痛いはずだ。
というか迷ってる間に結構殴られたり蹴られたりした。梨奈よりも殴られたと思う。
「…颯馬は?」
「隣の部屋。陰星君と平原君も向こうにいる」
「あ、噂したら!ほら!」
白上が指を差した方を見ると、病室の扉が空いて陰星と平原が入ってきた。
「気がついたか!良かった良かった!」
「小坂 颯馬も目を覚ました」
「…早いね?」
「堕ち星になってからそこまで経ってなかったからかもな。既に普通に会話できるまで回復してる」
「砂山も心配なら帰る前に顔見て帰れば?」
「別に心配は…いや、でも文句は言わないと………え、私今日帰れるの?」
「帰れるぞ。お前が倒れたのはいきなり星鎧を生成して戦ったからだからな。怪我で倒れた訳じゃない」
そう言われてみて手や足を動かしてみると、確かに痛いけど折れたとかそういう感じはなかった。
「あんなにやられたのに…」
「星座に選ばれた影響だろう。少々の攻撃なら大怪我にはならない。」
…人と殴り合いなんてしたことないから普通がわからないんだけど。
でも、どこも折れてなくて安心した。梨奈も大丈夫らしいし。あと颯馬も。
「…ありがと鈴保、私のためにあの姿になって戦ったんでしょ?」
「…うん」
「でも……危ないことはしないで…欲しい…かな…」
梨奈が星座騎士について言ってないこと怒らないことに驚いた。
私ならそこをツッコみたくなるけど。
やっぱり、梨奈は優しい。
でもきっとこの優しさが悪い方に働いて、私は勘違いしてしまったのかもしれない。
だけど、梨奈のその気持ちには応えられない。
私はうつむきながら「…ごめん、それは出来ない」答える。
「私、逃げるのはもう嫌。だから与えられた力と向き合う。まだよくわかってないけど、私も戦う。」
「鈴保…」
私が顔を上げると、梨奈が心配そうな顔をしていた。
私は梨奈の肩に手をおいて言葉を続ける。
「大丈夫。私よりも強い3人が一緒だし。それに部活もちゃんと行くから」
「…無茶はしないでね」
「…うん、そっちは約束する」
梨奈が肩においてある私の手を握る。
私が笑うと梨奈も笑った。
そこに恐る恐る梨奈の隣にいる白上が話に入ってきた。
「えっと…じゃあすずちゃんもこれから一緒に戦ってくれるの!?」
「だからそう言ってるでしょ。というか、すずちゃんって呼ぶのやめてくれる?」
「え〜!?可愛いから良いじゃん!」
「私も可愛くていいと思うよ?すずちゃん?」
「梨奈まで…やめてってば…」
梨奈と白上は笑ってる。
…梨奈はさておき白上は諦めたほうが良さそう。
私の口からため息がこぼれる。
「じゃあ、これからもよろしくな!すず!」
「あ、平原は駄目。やめて」
「なんか俺だけ当たり強くないか!?」
また反射的にキツく言ってしまった。
平原は凄くショックを受けた顔をしてる。
…別に平原だけに強く当たってるつもりはないんだけど。
私は渋々妥協点を口にする。
「…普通に呼ぶなら下で呼んでもいい」
「おう!よろしくな鈴保!」
「…よろしく志郎」
なんか疲れた気がする。
これからこのテンションの高い2人と一緒と思うと、少し先が思いやられた。
「でもいいよな〜あだ名って。ちょっと羨ましいわ」
「じゃあ私がつけてあげる!う〜〜んとね…しろ君は?」
「いやそのまんまじゃん。」
また反射的にツッコんでしまった。
でもツッコんでから思ったけど、私のすずもそのまんまだった。
「いいな!気に入った!」
「じゃあ、しろ君で!」
志郎はどうやら気に入ったらしい。
それでいいんだ…
そこから梨奈が加わって雑談が始まった。流石に疲れたので私は聞き流す。
ぼーっとしてると陰星がベッドの隣に来ていた。
「…砂山」
「何?」
「別に無理に戦わなくていいんだぞ」
「…さっきも言ったでしょ。戦うのは嫌だけど、逃げるのはもっと嫌なの」
「…そうか。無理はするなよ」
「わかってる。…これからよろしく、真聡」
「…あぁ」
それ以上、真聡からの言葉はなかった。
☆☆☆
あれから少し経って、私はようやく動けるようになったので帰ることにした。
だけど帰るなら颯馬に文句を言ってからにしようと思い、私は颯馬の病室の扉をノックして呼びかける。
数秒後「どうぞ」という声が返ってきたので、私と梨奈は扉を開けて中に入る。
そして、ベッドの脇に椅子を置いて座る。
「颯馬、身体はどう?大丈夫?」
「だいぶマシだ。…それより2人の方が」
「私は大丈夫。でも鈴保の方が…」
2人が私の方を見る。
私は「別に。もう歩けるから。大丈夫」と返す。
それよりも颯馬が私を嫌う理由が知りたかった。
私は単刀直入に聞く。
「ねぇ、何で私をそこまで嫌うの?」
「それは私も気になってた。鈴保も部活に戻ってきたんだし、また仲良くしようよ?」
「それは…」
颯馬は顔を背け、窓の外を見ている。
私は待っていても話が進まない気がしたので、口を開く。
「ねぇ、黙っていたって何もわからないんだけど」
「それ鈴保が言う…?」
「…とにかく。私達の関係はこれ以上悪くなることなんてないんだから。ほら言って」
自分で言っといてあれだけど、変な急かし方。
でも事実なのは間違いないと思う。梨奈が横で少し引いてるけど。
そして颯馬がやっと口を開いた。
「俺とお前らは部活で知り合っただろ」
「そうだね」
「だから鈴保が怪我をしてから、会わない方が良いと思った。学校にも来なくなったし」
「…待って?どういうこと?意味がわからないんだけど」
「…怪我をして、あの大会に出れなくなった。俺と会えばそのことを思い出すと思ったんだよ。それに、どう声をかけたら良いかわからなかった」
「え…じゃあ「陸上から逃げたやつ」って…」
「…嫌な記憶からは逃げたいだろ。逃げたやつを引き戻すなんて酷すぎるだろ」
私は呆然とする。
つまり、颯馬は私のことを嫌っていたんじゃなくて、気を遣って「陸上から逃げたやつ」って言ったってこと?
頭の中が混乱していると、隣で梨奈がため息をついた。
「そう思ってるなら何で相談してくれなかったの?」
「相談したら梨奈は確実に鈴保に話しに行くだろ。俺は鈴保をそっとしておいたほうが良いと思ってたんだよ」
それを聞いて私は思わず「何それ…口下手すぎない?」っとツッコんでしまった。
すると梨奈が呆れながら「鈴保が言わないで」と返してきた。
「あぁもう!2人とも素直じゃないんだから!結局は元に戻りたいけど、どうしたら良いかわからないってだけじゃん!すっごい遠回り!
2人とも!これからはちゃんと悩みがあるなら私に相談すること!いい?」
私と颯馬は渋々その言葉にそれぞれ返事をする。
そして私達3人は笑い出す。
あぁ。私はやっぱり、また2人とこうやって笑いたかったんだ。
もっと早く、2人と話しておけば良かった。
そんな後悔が頭を過ったが、今こうして笑えてるからそれでいいと思った。
だけど颯馬の「裏切った」という言葉の言う意味は聞けなかった。
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