5節 蠍
第040話 喧嘩
「失礼しました…」
私はそう言いながら教室の扉を閉める。
廊下には蝉の声が響いている。窓の外を見ると、夏の刺すような日差しが照りつけている。
それを横目に私は廊下を歩く。
もう7月中旬。
期末テストも終わって、授業も昼までになった。
楽しい夏休みがもうすぐそこまで来ていた。
いつもならテンションが上がるはずのこの時期に、テンションが下がっているのには理由があった。
私、
一応言うと、テストの点が壊滅的に悪いってわけではない。
でも「今後のことを考えると出席した方が良い」と担任のタムセンに言われてしまった。
だから私のテンションは下がりまくっている。
ちなみに、あのプラネタリウムでの戦闘から特に大きな事件はなかった。
だから私達はそれから研究所跡地での特訓、平原空手道場での稽古、あと期末テストの勉強もしてた。
…ちゃんと勉強、してたんだけどなぁ。
ため息が一つ漏れる。
そのため息と同時にちょうど通りがかった教室のドアが開く。
中からは
「お、由衣じゃん。お疲れ~」
「お疲れ〜」
「…やっぱり由衣も補習強制出席か?」
「じゃあ、志郎君も?」
「あぁ…」
今度は2人揃ってため息を付く。
せっかくの夏休みなのに課題に加えて、補習もあるなんて頭が痛くなってくる。
とりあえず、私達は帰るために下駄箱に向けてゆっくりと歩き出す。
階段を降り、廊下を歩いて下駄箱近くまで来たとき。
誰かが喧嘩する声が聞こえた。
声がする方を見ると、部室棟の方で体操服姿の男子生徒と制服姿の金髪の女子生徒が喧嘩をしていた。
そして、その喧嘩を止めようとする体操服姿のもう一人の女子生徒もいる。
「あれ…砂山か?」
「砂山って…体育祭のときの?」
制服姿で金髪の女子生徒を私達は知っていた。
名前は
私は体育祭のときに一度会ったことがあった。直接話してはいないけど…
「…とりあえず止めたほうが良くない!?」
「だよな」
私達は砂山ちゃんの方向へ走ろうとする。
しかし、私の肩に置かれた手によって引き止められる。
振り返るとそこにいたのは私の幼馴染だった。
「あ、まー君!」
「あ、じゃねぇだろ。どこ行く気だ。というかいつまで待たせる気だ」
まー君が不機嫌そうな顔で私の肩を掴んでる。その後ろには
確かに私がお願いして待ってもらってたのに、他のことをしようとしてる私が悪いことはわかってる。
でも喧嘩してるのを見て見ぬふりなんて私には出来ない。
とりあえず状況を説明しないと。
「だって喧嘩してるんだよ!?止めないと!」
「誰がだ。それに他人の喧嘩なんて首を突っ込むものじゃない」
「いやまぁ、俺の同じクラスのやつなんだけどな…?」
「まー君も会ったことはあるって!ほら体育祭のときの!」
「覚えてない。…志郎、そいつとは仲がいいのか?」
「いやそう言われるとそこまで話したこともないけどな…」
「なら首を突っ込む必要はないだろ。俺は帰るぞ」
そう言い残してまー君は靴を履き替えて行ってしまった。
智陽ちゃんも「帰っていい?」と聞いてくる。
何でみんなそんなに冷たいの!?
そう思いながら砂山ちゃんの方を見ると誰もいなかった。
つまり喧嘩は終わった…ってこと?
終わってるなら…もう学校にいる必要はない。
私はもやもやしながら下駄箱に向かう。
「ま、まぁ、俺達が行く前に解決?したみたいだし。これはこれで…な?」
「何かスッキリしない〜!」
志郎君がフォローしてくれてるけど、もやもやした気持ちは消えない。
靴を履き替えてると今度は悲鳴が聞こえた。
3人で悲鳴だと確認した私達は聞こえた方へ走る。
辿り着くと砂山ちゃんが巨大な蠍の怪物に襲われているのが目に飛び込んできた。
一応言うと、蠍人間ではなく本当に巨大な蠍。
その巨大な蠍の尻尾が既に砂山ちゃん目掛けて振り下ろされている。
この距離だと間に合わない。
そう思ったとき、さっき喧嘩の止めようとしていた女の子が砂山ちゃんを突き飛ばした。
そして女の子も体勢を崩して転ぶ。
だけど誰も蠍の尻尾は当たってないみたい。
私は一安心する。
しかし、安心できたのも一瞬で今度はその女の子を目掛けて尻尾が振り下ろされる。
今度こそ駄目だ。
そう思ったとき、今度は蠍の尻尾があちこちから生えてきた蔓によって縛られた。
蠍は尻尾の蔓を振り解こうとジタバタしてる。
「お前ら何見てる!さっさと星鎧生成しろ!」
振り返るとまー君が戻ってきていた。制服姿のままで蔓を操っている。
私達はその言葉で我に返って慌ててギアを呼び出す。
そしていつもの手順で星鎧を生成する。
私達は蠍座に向かって…いや、どうやって戦えばいいのこれ!?堕ち星って人型以外にもあるの!?
砂山ちゃんはいつの間にかいない。
とりあえず、女の子を助けて巨大蠍から距離を取らないと。
校舎の陰まで避難させて、巨大蠍を確認する。
既にまー君は星鎧を生成して戦っている。
私達も急いで戦おうと走り出す。
しかし、私達の周りに澱みが地面から湧き出してきた。
そしてどこかで聞いた声が響く。
「反応があるから来てみたら、まさかもう君たちがいたとはね。まぁ、だからといって諦めるわけじゃないけど」
からす座の堕ち星が空から現れた。
そしてそのまま、まー君と戦い始める。
私達も澱みと戦い始めた。
☆☆☆
澱みはそこまで多くなかったので、そこまで苦労せずに倒しきった。志郎君も一緒だったし。
私達は続いて、まー君を援護しようとする。
しかし、巨大蠍はもうそこにはいなかった。
とりあえず、一旦からす座との距離を取ったまー君に合流する。
「こっち終わったよ!」
「…お前ら、からす座を任せて良いか?」
「さっきのデカい蠍追うのか?」
「あぁ。あれはあれで放置できない」
「うん。こっちは任せて!」
私達はまー君を送り出す。
そして、からす座と向き合う。
「あ〜あ。山羊座君行っちゃった。蠍も行っちゃったし…君たちじゃちょ〜っとつまらないんだよなぁ…」
「何がつまらないだ。俺達をナメるなよ!」
そう言って志郎君は武器を生成してからす座に殴りかかる。
武器は格闘技のグローブみたいなやつ。まー君には「ガントレットだろ」と突っ込まれたけど。
ちなみに手の甲から爪も伸びるらしい。
志郎君が攻撃をするも、からす座は上手く攻撃を逸らしている。
私も黙って見てるだけには行かないので杖を呼び出す。
そして志郎君に当たらないように羊型のエネルギーの塊を生成して、からす座に突撃させる。
しかし、私の羊も避けられる。
そしてからす座はそのまま飛び上がり、部室棟の屋根の上に着地する。
「そうだったね。牡羊座ちゃんは少し面倒なんだった。それにこれ以上戦っても意味ないから、今日はこれで帰るとするよ。じゃあね」
そう言い残してからす座は飛び去っていった。
私達はとりあえずギアからプレートを抜き、元の姿に戻る。
からす座はどっかに行っちゃったから…
「…あ、まー君追いかけなきゃ!」
「そうだ!あいつ巨大蠍を追いかけて行ったもんな!…何処に行ったんだ?」
えっと…電話したらいいのかな?でも電話しても戦ってたら出れないよね…
困っていると智陽ちゃんがどこからか戻ってきた。
「
「おう!」「うん!」
私達3人は走って学校を後にした。
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