第039話 たまにでいいから
週明けの昼休み。天気は今日も雨だ。
そのため屋上が使えないので、俺は仕方なく教室で過ごしていた。
自分の席に座って騒がしい教室を眺めながら、昼食用のエネルギーバーを齧る。
そこによろよろとした足取りで
そして前の席を借りてこちらを向いて座った。
しかし、明らかに様子がおかしい。
まず、最近はほぼ毎朝迎えに来るくせに今日の朝は来なかった。
そして今は弁当にも手を付けず、心此処にあらずの状態で座ってる。
いつものハイテンションは見る影もない。
流石の俺も気になって声をかける。
「何かあったのか」
「え?な、何も…ないよ?」
「嘘をつくな。どう見ても様子がおかしいぞお前」
そう指摘すると由衣は「うっ…」と声を漏らしながら目をそらさす。
「何だ、俺に言えない悩みか」
「いやぁ…そうじゃ…ないんだけど…」
「じゃあ言え」
由衣は悩んでいるのか目が泳いでいる。
しばらくして、ようやく口を開いた。
「実は…ひーちゃんと喧嘩…というか怒らせちゃって。謝りたいんだけど…私わかんなくて…」
「原因は」
「ほら、プラネタリウム行ったじゃん?」
「行ったな」
「そのとき…実はひーちゃんも誘ってたんだけど、部活があるからって断られちゃったんだよね…」
「何で誘ったんだよ」と思わず突っ込みそうになったが、その言葉をなんとか飲み込む。
俺は由衣がちゃんと考えてあの4人だったのかと思っていた。
しかし話によると、どうやら結果としてたまたまあの4人になっただけのようだ。
日和も星座騎士について知ってるから呼んでもいいとでも考えたんだろうか。
…やっぱりこいつは良くも悪くも楽しいこと1番主義だな。
しかし、今はそこに突っ込んでも話は進まない。
それに日和だって由衣と付き合いが長いので、そんなことで怒るとも思えない。
俺はさらに話を聞く。
「それで…あの後「今度はひーちゃんも一緒に行こうね!」ってメッセージを送ったら…「別に無理に私に合わせなくていい。もう誘わなくて良いから」って返事が来て……私、怒らせちゃったかなぁ………」
由衣はまたため息をつく。
テンションも調子も下がりまくってるのがよくわかる。
ここまで下がってるのは久々…再会してからは初めて見た。
だが、流石にこれを放置するのはマズいだろう。
それにもし今澱みや堕ち星が現れて「友人関係の悩みが原因でいつものように戦えません」なんて話にならない。
…仕方ない。橋渡しするか。
「…俺が
「いいの?」
「そう言ってるだろ。何だ、行かない方が良いか?」
「ううん。ありがと。でも…本当に良いの?まー君、嫌じゃない?それにこれは私とひーちゃんの問題だし…」
「面倒ではあるが嫌ではない。お前の調子が悪い方が困る」
「そっか……そうだよね!明るいのが私だよね!まー君も暗い私よりも明るい私の方が好きだよね!」
由衣は話を聞いてもらいスッキリしたのか、はたまた俺が話を聞いてくるから安心したのか。
理由はわからないが元気になり「いただきま〜す!」と言い弁当を食べ始める。
普段のお前は賑やか過ぎるからもう少し静かにしてくれる方が助かるんだが。
だが今それを言うのは酷だと思い、またもや言葉を飲み込む。
そこからの由衣は、いつものように賑やかだった。
☆☆☆
「お待たせ」
「いや、別に。それより部活前に呼び出して悪かったな」
「すぐに始まらないし、少しぐらい遅れても大丈夫だから。それより
放課後、俺は日和を渡り廊下に呼び出していた。
理由はもちろん仲直りの橋渡しだ。
「…俺は丁寧なことはできないから単刀直入に聞くぞ。由衣と喧嘩したらしいな」
日和が顔を背ける。
そしてため息をついたの後、口を開いた。
「…由衣に仲直りを手伝ってって頼まれたの?」
「いや、俺が聞き出した。あまりにもテンションが低かったからな」
「…私を責めに来たの」
「何でそうなる。事情を聞きに来たんだ」
もう一度日和はため息をつく。
その後、何故こうなったのかを話し始めた。
「喧嘩…というか私が一方的にキツく言っちゃったというか…。由衣の性格はわかってはいるんだけどね…。何かキツく言っちゃった」
「…なるほどな。だが、友達の友達と一緒に出かけるのは俺も気まずいと思う。そこに関しては文句を言う権利があると思うぞ」
「やっぱりそうよね?…それに、いつまでもあの頃の関係に拘る必要もないと思うの。私達ももう高校生だし、それにお互い色々と忙しい訳だし」
恐らく、この色々とは自分の部活などのもあるだろうが、俺達の星座騎士の戦いのことが言いたいんだろう。
俺と由衣は星座に選ばれ、戦う力が与えられた。
しかし、日和は選ばれていない。ただの高校生だ。
命の危険がある戦いに巻き込まれたくないと思っても仕方がないだろう。
それに、いつまでも小学生の頃の関係に拘る必要もないのも事実だ。
俺はひとまず日和の考えを肯定する。
だが、俺は由衣と仲直りの手伝いとしてきた。
そのため日和と由衣の妥協点を見つける必要がある。
俺は推測にはなるが由衣が思ってるであろうことを言葉にする。
「…由衣は俺達5人でいた、あの時間が楽しくて好きだったんだろう。きっと今でもあの頃のメンバー出会えたらって思うんだろう。だから日和もたまにで良いから、あいつと遊びに行ってやってくれ。これからもあいつと友達でいてやってくれ」
日和からすぐに言葉が返ってこない。
渡り廊下には放課後の生徒たちの話し声が響く。
しばらくして、ようやく日和は口を開いた。
「…わかった。というか、真聡がそれを言う?」
「どういう意味だ。」
「自覚がないならいいよ。…でも、あまり他の人がいるときには誘わないでね」
「あぁ。誘うなら2人きりか、居るとしても俺までと言っておく」
「ありがとう。それと…ごめんね。巻き込んで」
「別に。…そもそもこれは俺が戻ってきたから起きた問題だろう」
またもや沈黙。
だが、これは事実だろう。
俺がこの街に戻ってこなければ、俺が2人と再会しなければ起きなかったかったはずだ。
しかし日和は「でも、由衣は真聡にまた会えて嬉しそうだったよ」と言った。
今度は俺が言葉に困る。
そして俺は逃げるように話をまとめる。
「じゃあ、伝えておく」
「うん。私からも謝る」
「じゃあまたな」
「うん。またね」
別れを告げた俺達は反対方向へ歩き出した。
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