第18話 決意
私は数10分前に正面玄関に向かって走った道を、今度は裏口に向かって走っている。もちろん、さっきの親子を連れて逃げている。澱みにやられたところが少し痛むけど、今はそんなこと気にしてられない。早く逃げないと。またまー君の足手まといになってしまう。
そのとき、聞こえる音とうめき声。振り返るとまー君が吹き飛ばされ、地面を転がっていた。はえ座はこっち向かって歩いてきている。
この状態はきっと私のせいだ。私が一人で戦えないから。私がまだ星鎧を生成できないから。
まー君は結局1人で戦わないといけない。私はやっぱり、まー君と一緒にいない方がいいのかもしれない。
泣いてる声が聞こえる。私は我に返って、その声が聞こえる方を見る。一緒に逃げていた子が泣いてた。その子は幼稚園ぐらいの女の子。
今の私には何ができるだろう。
星鎧が生成できず、戦えない私に。
考える。
でも、そんな私の身体は結論が出るよりも先に動いていた。
「大丈夫。お姉ちゃんがなんとかするから。」
私は女の子の頭をなでながらそう言うと、また後ろを向き歩き出す。
「ギア、また借りるね。」
倒れているまー君からギアを借りて、まー君の前に立つ。
私は弱い。まー君と比べたらとっても弱い。比べることを悪いなって思うぐらい。でも、そんな私でも、やっぱり役に立ちたい。まー君はきっといろんなことを1人で背負ってる。それを少しでもいいから一緒に背負ってあげたい。
それにあんな小さな子を怖がらせてまで、自分がやりたいことをしようとするのは許せない。私は関係ない人の笑顔を奪うはえ座が許せなかった。
「お前モ…邪魔するのカ…!」
「邪魔する。小野君が受けた苦しみも辛さも。全部酷いと思う。あんなことをする人たちは許せない。でも今、小野君がやってることは、あいつらと変わらない!何だったら、今のあなたがやってることの方が酷いよ!だって、関係ない人を巻き込んでるもん!私はそんな、自分のわがままで誰かの笑顔を奪うのが許せない!」
ギアをお腹に当てて装着する。次に左手の星座紋章に集中して牡羊座のプレートを生成して、ギアに差し込む。そして、左手を真上に掲げて時計回りに一周して、両手を握って左手を少し前で肩の高さで構える。
そう、失敗したときなんて考えない。私なら、できる。
「星鎧、生装!」
そう唱えるのと一緒にギアの上側のボタンを押す。するとギア中心部から牡羊座が飛び出し、私は光りに包まれていく。その光の中で鎧が生成され、私の身体は紺色のアンダースーツと紺色と赤色の鎧に包まれていく。
そして、光は晴れる。
「ここからは、私が相手をするよ。」
星鎧は生成できた。ここからは、私が戦う番。怖がってる場合じゃない。今までにまー君に教えてもらったことを思い出す。
それに身体も前回ほど痛みくない。むしろ今回は身体中が力で溢れて、最高に調子がいい気がする。これならいける。
はえ座が突撃してくる。私はそれを真正面から受け止める。まったく痛くない。余裕で受け止めれる。
私は押し返して、そのままはえ座を殴る。はえ座は後ろに下がる。私はそのまま近づいて連続で殴る。受け止められてるけど、確実に手応えはある。
そして、力を込めて思いっきり殴る。その一撃ではえ座はさらに後ろに下がる。
病院の正面まで戻ってきた。私はもう一度距離を詰めて連続パンチをしようとする。しかし、はえ座は飛び上がってしまった。
どうしよう。澱みとの戦い方は教えてもらっていたから、さっきまではそれで何とかなってた。でも、空を飛ぶ相手との戦い方なんてまだ教えてもらっていない。
考えてる私を気にせず、はえ座は上から攻撃してくる。私はそれを転がって避ける。どうしたらいいんだろう。考えるけどやっぱりわからない。でも転がってるだけじゃどうにもならない。
悩んでるその時、正面玄関に銃声が鳴り響いた。
「こっちだ化け物!」
「末松!あまり刺激するな!」
丸岡刑事や末松刑事。病院に駆けつけていた警察官のみなさんが正面玄関から出てきて、拳銃ではえ座を狙ってる。
でもそんなことしたら狙われると思うんだけど…。
「虫けらガ…!」
やっぱり。はえ座は警察官のみなさんを狙って私から離れていく。私は追いかけるけど間に合わない。私は思わず「ダメー!」と叫ぶけど、そんなことをしても何も変わらない。初めての戦いがこんなの嫌だ。
そのとき地面から蔦が伸び、はえ座の体を縛る。
「はえ座の力を使ってるくせに他人を虫けらなんて言ってんじゃねぇよ。」
「まー君!?」
「こっちは気にするな!お前ははえ座に集中しろ!」
その蔦は、やっぱりまー君が操っていた。それって星鎧が無くてもできるんだ…。それにいつの間に正面玄関まで行ってたんだろう?
でも今考えることじゃないよね。集中しろって言われたし。私は気合を入れ直す。
はえ座は蔦によって地面に叩きつけられる。蔦が消え、はえ座は自由になる。距離を開けようとするところを私は近付いて殴る。はえ座が下がり、また距離が開く。パンチあるのみだ。私は近づこうとするとはえ座が私に語りかけてきた。
「なゼ…どいつもこいつも邪魔をすル…。俺のときハ、誰も助けてくれなかったのニ…!俺はやっト…あいつらニ…やり返せるのニ…!」
彼の言葉の悲痛さに私は足が止まる。躊躇ってる場合じゃないのはわかってる。私は決意したんだ。でも、彼が受けた苦しみを否定していい訳でもないとも思った。
そんな私にはえ座が向かってくる。私は受け止めけど、今回は少し押されている。そこに、まー君の声が響いた。
「躊躇うな!澱みに染まって堕ち星になった時点で、そいつはまともじゃない!」
そうだよね。こんな姿に成ってるのは普通じゃない。今は考えるときじゃない。私は力を振り絞り、はえ座を押し返す。はえ座は体制を立て直し、また上昇していく。しかし、それをまー君が許さない。
「もう飛ばせねぇよ!由衣!」
「任せて!」
はえ座は蔦で縛られている。私ははえ座に向かって走る。今出せる全力で。残ってる星力を全部、右手に込めて。私は腕を引く。辛いことが悪い夢だったと思えるように。小野君もまた、笑顔になれる日が来ることを願って。
その思いを込めた私の拳ははえ座に命中する。
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