第019話 正義のヒーローみたい

 由衣ゆいのパンチがはえ座に決まる。

 その一撃で生じた凄まじい衝撃波が辺りを襲う。


 俺ははえ座を縛っていた草木魔術を解く。

 そして土魔術で壁を作り、自分の身と後ろの警察官の人たちを庇う。



 衝撃波が収まり、土壁が崩れ消えていく。

 状況を確認する。

 星鎧は消えているが、由衣は立っている。

 どうやら無事のようだ。



 しかし、はえ座の姿はそこにはなかった。



 代わりに地面に倒れている青年がいた。

 傍らにはプレートのようなものが落ちている。



 俺は痛む身体を押して駆け寄る。

 俺に気づいた由衣は嬉しそうに手を振っている。


「まー君!やったよ!」

「…どうなった?」

「私のあのパンチが決まったあと、小野君は元の姿に戻ってあれが飛び出したの」


 彼女が指さしてるのはプレートのようなもの。

 真ん中にははえ座が描かれている。


 …いやこれ、プレートじゃねぇか。


 つまり、堕ち星は澱みの力と星座の力を取り込むことで墜ち星の姿となっている…ということか?

 というか、それ以上に大事な疑問がある。


「由衣、そもそもどうやって人の姿に戻せた」

「え?まー君できないの?」

「出来ないから俺は苦労してるんだ。どうやった?」

「う〜ん…私夢中で戦ってたから…」

「……じゃあ最後、どういう気持ちで攻撃した」

「えっと………辛いことが悪い夢だったといつか思えたらいいなって…」


 悪い夢…牡羊座……羊………眠り?


「…牡羊座の固有能力か?」

「え?」


 思わず口から考えていたことが出てしまった。

 しかし、可能性としては十分にありえる。


 星鎧が生成できるようになった今、牡羊座の固有能力が使えるようになっていてもおかしくはない。

 もしそうなら、これからの戦い方も変わってくる。楽になる。



 …少し不本意ではあるが、それはまぁ仕方ない。


 考え込んでいると、小さな女の子の話し声が聞こえる。

 俺はその声で我に返る。


「お姉ちゃん!ありがとう!」

「ん?」


 どうやらさっき、由衣が助けようとしていた女の子のようだ。

 由衣はしゃがんで女の子と目の高さを合わせる。


「お姉ちゃん、正義のヒーローみたいでかっこよかった!だから怖くなかったの!

 だから、ありがとうって言いに来たの!」

「そっか〜!ありがと!怪我はしてない?」

「うん!あ、ママが呼んでる!」

「気をつけてね!」

「うん!バイバ〜イ!」


 女の子は走って母親の元へ行く。

 由衣しばらく手を振りながら、見送ったあと立ち上がる。



 正義のヒーロー…か。


 こちらを向いた由衣は満面の笑みでとても嬉しそうだ。



 しかし、次の瞬間。由衣はバランスを崩す。

 俺は手を回してなんとかして身体を支える。


「おい。大丈夫か」

「あはは……やっぱりギアを使うと身体が痛くて…今回は前より大丈夫だったし、我慢できてたんだけど…ちょっと目が回っちゃって…」

「そう言うのは先に言え」

「だって…まー君も無理してるでしょ?だから言いづらいなって…」


 …確かに俺も無理はしている。

 何も言い返せない。


 由衣は「もう大丈夫!」と言い、俺から離れて自分の足で立つ。

 俺は自分の無理をごまかすように別の話題を由衣にふる。


「というかお前。なんであそこにいた。建物内にいただろ」

「え、怒ってる!?」

「違う。行動理由を聞いているんだ」

「えっと……最初は中にいてガラス越しに見てたんだけど…途中で澱みが出たでしょ?そのときに車の方に行く澱みがいるなって思ってたら、中にあの子とお母さんが見えて…」

「「気がついたら体が動いてた」か」


 声がハモる。

 由衣は「そう!そうなの!不思議だよね〜!」と笑ってる。


 いや、笑い事じゃないが。

 今回は何とかなったからいいが、もし俺が援護に回れなかったらどうなってたか…。


 やはり由衣は目が離せない。早くあれが完成して届いてくれればいいんだが…。


「まぁ、お前のおかげであの親子は助かったんだ。よくやった」

「え?」

「よくやったと言ってるんだ。それに、お前じゃなければ小野は人間に戻れなかったかもしれない。星鎧も生成できたんだ。今回は本当によくやった…って泣いてる!?」


 由衣を見ると思いっきり泣いていた。

 そして次の瞬間、思いっきり俺に抱きついてくる。


「私…まー君の役に立てて良かった…!!私ずっと、星鎧が生成できないからさ。やっぱり、私じゃ駄目なのかなって…。でもやっと今日ちゃんと戦えて、まー君も褒めてくれて…嬉しくて…」

「わかった。わかったから、泣くな…。そして離れてくれ…」


 そう言うと由衣は「あっ…ごめん」と俺から離れる。

 まったく。


 それにしても、由衣も由衣で悩んでいたとは。

 気を遣っていたつもりだったがもう少し気にしたほうが良さそうだと内心反省する。


「まー君。ありがとね」

「…いや、今日の俺は何もしてない。礼を言わないといけないのは俺の方だ。…ありがとな」


 由衣は少し笑ってる。

 俺は照れくさくなり、警察と話す必要がある事を思い出して歩き出す。

 その背中を由衣が押す。



 こうして、はえ座との戦いは終わった。

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