第17話 甘い自分

 「さぁ、はえ座。今日こそ決着をつけようか。」


 俺は右手に杖に生成して、はえ座の様子を見る。はえ座はいつものように突撃してくる。

 俺は杖先で地面をつき、はえ座が突っ込んでくるであろう直線の両脇から蔦を伸ばす。これではえ座を掴めたらいいんだが。

 隠匿結界に星力を分けたので、流石に万全と呼べる状態ではない。できれば早く決着をつけたい。

 しかし、そう簡単にはいかない。はえ座は蔦を避け突っ込んでくる。俺は横に転がり、避けながら杖から追尾魔弾を撃つ。はえ座はそのまま魔弾を振り切ろうと飛び去る。今回の魔弾は前回よりも追尾性能を上げておいた。澱みの反応を確実に追い続ける。

 やはり今日は簡単に振り切れないようだ。痺れを切らしたのかこちらに突っ込んでくる。どうやら魔弾を撃った俺にぶつけて処理をするつもりのようだ。俺は杖を構え、言葉を紡ぐ。


 「火よ。人に害をなす堕ち星となりし、はえの座を焼き清めよ!」


 向かってくるはえ座を杖先から出る炎が飲み込む。そして魔弾も命中する。はえ座は横に離脱し距離を取る。そして、また突っ込んでくる。


 「そろそろそれも飽きたよなぁ!?」


 俺は杖を手放し、それを正面から受け止める。そしてそのまま投げ飛ばす。はえ座は地面を転がる。俺は疑問を投げかける。


 「お前、小野っていうんだろ?話は聞いたぜ。そんな姿になってまで自分を虐めたやつらに復讐したいのか?」


 地面から立ち上がりながらはえ座は答える。


 「誰も助けてくれなイ…。なら自分の手デ!あいつらニ!やり返ス!」


 はえ座は右手で殴ってくる。俺はそれを避けて右手で殴り返す。


 「誰も助けてくれないなら自分でやる。その考えは嫌いじゃないぜ。俺も似たような経験があるからな。だけどな人の命を奪うこと、そして人以上の力で人に復讐するのはどうかと思うぜ!」

 「うるさイ!やっぱりお前は邪魔ダ!邪魔するやつハ…全部敵ダ!」


 その一言で澱みが地面から湧き出してくる。やはり墜ち星は澱みを操れると見て間違いなさそうだ。それにしてもかなりの量だ。病院などの人の感情が多く集まる場所では澱みの量が多くなりやすいというのは本当のようだ。だが、今は周りに人はいない。対応を間違えなければ問題ない。

 詠唱魔術で一掃したい量だが、落ち着いて詠唱している隙はなさそうだ。俺ははえ座の攻撃に対処しながら、殴りや蹴りで徐々に澱みを消していく。


 澱みは魔力を帯びたもので攻撃することで消滅させることができる。つまり、星力で生成される星鎧を纏っている星座騎士の攻撃では、特に何かしなくてもダメージを与えることは可能である。しかし、一撃で倒すことはできない事があるので、俺は基本的に何かしらの魔術を発動させて倒すようにしている。


 先程湧き出た澱みが残り少しほどになったとき、聞き慣れた声が聞こえた。

 俺はその声の方向を見る。そこには裏口の方向にある駐車場からでてきたと思われる車が止まっていた。数体の澱みがその車に襲いかかっており、車内には親子が乗っているのが見える。そして、その車を守るように由衣が生身で澱みと戦っていた。

 何故あいつが外にいる。その他、色々な疑問が頭に浮かぶが、今はそれを考えている場合ではない。

 由衣は今は上手く攻撃を躱して、反撃している。しかし、やはり生身で澱みと戦うのは危険だ。早く助けに行かなければ。


 「よそ見ヲ…するナ!!」


 その声で視線をはえ座に戻すと、はえ座は殴りかかってきていた。俺はその手を掴み、みぞおち辺りを殴りかえしながら、言葉を紡ぐ。


 「火よ、弾けろ!」


 簡易詠唱ではあるが詠唱無しよりは出力が上がる。はえ座は吹き飛ぶ。俺は由衣へ駆け寄る。

 次の瞬間、澱みの攻撃を避けるのに失敗した由衣が地面を転がる。俺は杖を呼び出し、言葉を紡いで地面を杖先で叩く。


 「土よ、澱みを吹き飛ばせ!」


 その瞬間、澱みの足元が迫り上がり澱みは宙を舞う。そして地面に落下し、消滅する。

 俺は地面に転がってる由衣に駆け寄る。


 「由衣!」

 「ごめん…まー君。ちょっと失敗しちゃった。」


 かすり傷はあるが、大きな怪我はなさそうだ。俺は少し安心する。


 「とりあえず、車内の親子と一緒に建物内に避難しろ。」

 「…わかった。」

 「余裕そうだナ!」


 避難をさせる前に突っ込んでくるはえ座。俺は何とか受け止める。しかし、やはり由衣達が気になる。俺はなんとかはえ座と押し合いながら様子を見る。

 由衣は親子を裏口の方から建物内に避難させようとしている。これなら安心だ。しかし、この確認が命取りだった。


 「よそ見をするなト…言ってるだロ…!!」


 はえ座の蹴りが俺の鳩尾に綺麗に入る。俺は吹き飛ばされる。星鎧は消滅し、地面を転がる。

 やってしまった。


 何が全部捨てただ。何が平等だ。大切な友達が傷つくことに恐れて、また判断を誤った。

 天秤座を回収しそこねたあのときとから、俺は何も変われていない。


 平等なら由衣を助けず、さっさとはえ座を倒すべきだった。結局俺は、あの頃と同じで甘い自分のままだ。

 このままだと今回の方が大惨事になる。なんとかしてあいつを倒さねば。俺は立ち上がろうとするが、星力を使いすぎたのか立ち上がれない。そのとき何者かが後から歩いてきて俺に声をかける。


 「ギア、また借りるね。」


 そしてその人物は俺を庇うように、はえ座の前に立ちはだかる。


 白上 由衣が、そこにいた。

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