第016話 戦う理由
俺達は今、市立病院の裏口を目指して走っている。
表から入ろうとしたが、既にはえ座と澱みが駆けつけた警察と睨み合いをしていた。
はえ座は警察相手に進めない……というより敷地内に入れないのだろう。
病院や学校といった大きな施設には協会が予め、魔力を持たない人間には触れることも見ることもできない隠匿結界が張ってある。
おそらく今は敷地を覆うように張られている2種類の
外縁結界は澱みを弾く結界で、普通の澱みなら触れただけで消滅する。
しかし、そこまで耐久性が高くないのが欠点だ。
そもそも堕ち星相手は想定されてないはず。
そのため、いつまでもつかわからない。
そしてはえ座達が結界を壊そうとしている現状、正面から入るのは危険すぎる。
だから俺達は裏口から敷地内に入って正面に行くことにした。
「ねぇ!結局私はどうしたらいい!?」
「お前は安全な場所に隠れてろ!」
しかし、原因がわからないため何を言えばいいかわからなかった。
それに、俺にとってそれはある意味都合が良かった。
加えて、ギアはまだ1つしかない。
そのため俺は由衣にそう言うしかなかった。
正面にたどり着くと、警察が車を盾に澱み達に向き合っている。
一方、澱み達はまだ外縁結界の外側にいた。
しかし、外縁結界にヒビが入り始めているのが見える。
結界の限界は近い。早く対処をしなければ。
俺はギアを呼び出し、星鎧を生成しようとする。
しかし、丸岡刑事がやってきて俺を止める。
「坊主!何故こんな危ないところに来た!」
「危ないから来たんですよ。警察の装備では話にならないので止めないでください」
「だがなぁ坊主」
丸岡刑事と話をしている場合じゃない。
今はさっさと堕ち星を倒さないといけない。
状況的には無理矢理にでも星鎧を生成するべきだ。
しかし、この状況では周りの人を巻き込む。
どうするべきか悩んでいたそのとき。
何かが剥がれ落ちるような、砕けるような音がする。
外縁結界が砕け始めた音だ。
俺は丸岡刑事を避けて、病院の正面玄関前に走る。
そして、玄関前にある両方の結界の基礎が打ち込まれている場所を見つけてそこに立膝をつく。
左手を地面につけて、外縁結界に干渉する。
魔力よりも星力は強い。
今ならまだ、俺の星力を流し込めば外縁結界は持ちこたえれるはずだ。
俺は急いで言葉を紡ぎ始める。
「神秘が去り、秘匿される時代でありながらも、数多の人々を守りし隠匿結界よ」
またしても全身が燃えるように痛む。
隠匿結界は魔術師の中でも限られた者しか扱うことが許されていないものだ。
それに魔術にも向き不向きがある。
俺のような魔術を使い始めて3年も経ってないCランクの魔術師が干渉していいものではない。
しかし、今はやるしかなかった。
俺が戦わないと、誰が戦うんだ。
俺は痛みに負けず、言葉の続きを紡ぐ。
「今、我が身に与えられし神秘の力である星の力を分け与える。その力で今一度、人々を澱みから守る結界となり給え!」
市立病院外周が病院を覆うようにうっすらと輝き始める。
流石に一般人にも「何かが起きてる」のが見えるようで、一層病院が騒がしくなる。
こんなことをせず早く堕ち星を倒せばいいのだが、警察が正面玄関外に待機している。ここにいられると確実に巻き込む。
それに正面玄関付近には野次馬もいるためそちらにも気を配らないといけない。
そのため俺は戦闘よりも結界の再活性という、かなり無茶な手段を取るしかなかった。
全身の痛みと力が吸われていく感覚。
痛みは数日前の調整中魔術を使ったときよりはマシだが、これはこれでキツイ。
そして、今俺がここから離れると星力の供給が止まるので外縁結界が崩壊し、澱み達がなだれ込んでくる。
そうなればここは地獄になると言っても過言じゃない。
痛みを堪え、結界を維持しながらここからどうすればいいかを考える。
そんな俺に丸岡刑事が話しかけてきた。
「おい坊主」
「…なんですか。神経凄く使ってるんで、話しかけないで欲しいんですけど」
「何故そこまでする。坊主ほど年頃なら好きなことをして、青春を謳歌する年頃だろう。なぜそこまでして怪物と戦う」
丸岡刑事の声は真剣だった。
戦う理由。
あまり過去の話はしたくはない。
しかし、こんなときにプライドや後悔がどうとかなんて言ってられない。
それにここで話すことで警察の協力が得られるなら話す価値は十分にある。
俺は痛みを堪えながら答える。
「…俺は、人が怪物になるのを見ました。人が大きな力に溺れ、その結果たくさんの人が傷つくのを。
あんな力、人が手にして良い力じゃない。そして、俺にも同じ力が与えられてます。この力は同じ力同士じゃないと戦えない。
だったら、俺がこの力を使って、人から切り離すしかないんですよ」
しばしの沈黙の後、丸岡刑事が口を開いた。
「坊主の考え、よくわかった。俺達は何をしたらいい?」
「…すべての人を病院の建物内に避難させてください。」
「よしわかった。お前ら!建物内まで引くぞ!」
その一声で警察官たちは野次馬に来た人たちを誘導しながら建物内まで入っていく。
これなら戦いやすい。
建物内に入ってくれれば、あとはもう1つの隠匿結界である内部結界が守ってくれるはずだ。
内部結界は守りに特化した結界。
ある程度なら堕ち星や星座騎士の攻撃が建物に当たっても傷1つつかないはずだ。
本気の攻撃が当たると知らないが。
そして「坊主。命は捨てるなよ」と言い残して、丸岡刑事も去っていった。
由衣はどうやら丸岡刑事に連れられ建物内に入ったらしい。
何か叫んでいたのが聞こえたが、今の俺にそれを聞いてる余裕はなかった。
もう外に人はいない。
いるのは外縁結界を維持している俺だけだ。
これなら、存分に戦える。
外縁結界は流石に限界のようで、俺が維持していても崩壊が再び始まっている。
俺はもう一度言葉を紡ぐ。
「神秘が去り、秘匿される時代でありながらも、数多の人々を守りし隠匿結界よ。崩れ、役目を終えるのならば。今その最後の輝きを見せよ!」
外縁結界が弾け飛ぶ。
澱み達も吹き飛ぶ。
外縁結界が崩れる前に、最後に残っていた魔力を弾け飛ばさせた。
つまりは自爆みたいなものだ。
俺は立ち上がり、プレートを生成して差し込む。
そして、左手を9時の位置から時計回りに一周させる。
最後に左手を伸ばし、戻して目の前にもってくる。
そうだ。俺は戦うために目を瞑ることにした。
普通を捨て、命をかけて戦うことを選んだ。
親の形見だと言われた、このギアを使って戦うことを。
「星鎧、生装」
ギアの中心から山羊座が飛び出し、光が俺の身体を包み込む。
光の中で鎧が生成され、俺はそれを身に纏う。
Constellation Knight 星座騎士。
これが俺の選んだ道だ。
俺はこの力を使って人から大きすぎる神秘の力を切り離すために戦う。
光が晴れる。
はえ座は正面にいる。
「はえ座。今日こそ決着をつけるぞ」
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