第15話 尾行

 「まさか噂の正義のヒーローの正体が愛想が悪い同級生だったとわね。」

 「…俺は正義のヒーローなんかじゃない。ただ与えられた力で、やるべきことをやってるだけだ。」

 「ふ〜ん。」


 私達は今、市立病院近くの公園のベンチに座っています。

 智陽ちゃんが私達をつけていたってことも気になったけど、先に市立病院にはえ座がいないかを確認するべきという話になった。

 今のところ病院はいつも通りだったので、近くの公園で智陽ちゃんから話を聞こうとしてます。

 それにしても…いつからつけられてたんだろ?まー君はいつから気づいてたんだろ…?


 「で、ここ数日俺を尾行していた理由はなんだ。」

 「う〜ん…興味本位?」

 「興味本位で人を尾行するな。で、目的は。」

 「私も怪物退治、協力させてよ。」

 「え?」

 「…残念ながらそれは俺達じゃないぞ。」


 まー君…。知らないフリするんだ…。

 でも智陽ちゃんも負けじと言葉を返す。


 「へ〜。遠足の帰りに白上さんがあなたと話した直後に始まった戦闘。そして、あなたと白上さんは帰りはバスに乗ってない。それ以降は学校ではほとんど一緒行動している。入学直後に泣かし泣かされた人たちが。これだけ並べてもまだ否定できる?」


 まー君は言葉を返さない。流石にこれだけ並べられたら否定しにくいみたい。

 というかどんだけ噂は広がってるの…?流石に恥ずかしいんだけど…。


 「協力してどうするつもりだ。お前、戦えるわけじゃないだろ。」

 「戦うなんて一言も言ってないけど?」

 「じゃあ、何ができる。」

 「私が怪物騒ぎの情報を集めてあげる。ネットの情報をね。」

 「怪物騒ぎの噂は消されるぞ。」

 「私なら消される前に見つけることができるけど。次は市立病院が狙われてるんでしょ?まさか、ずっと見張っとくつもり?」


 まー君はまた黙ってしまう。ちなみに私は何にも考えてなかった。でも今のまー君なら1人でずっと見張ってそう…。流石にそれは色々と駄目じゃない?

 というかネットの怪物騒ぎの噂は消されるって言った!?どういうこと?でも、多分今聞いたら怒られそうな気がしたので私はその疑問を頭の隅に追いやる。今はまずは智陽ちゃんのことだよね。

 私は自分の考えを口にする。


 「私は…智陽ちゃんに手伝ってもらってもいいと思うな…?だって智陽ちゃんは戦うわけじゃないんだしさ。それにずっと見張ってるのは、あまり現実的じゃないと思うし…。」


 再び訪れる沈黙。誰も喋らない。流石の私でも凄く気まずいんですけど!私は沈黙に耐えられず2人の顔を交互に見る。

 するとまー君が口を開いた。


 「もし俺が断ったらどうする?」

 「ネットで全部バラす。」

 「全て消されるってさっき言ったよな?」

 「それはわかってる。だから、こっちも発信し続ける。そしたらいつかは致命的な一撃になるんじゃない?」


 まー君はまた黙ってしまう。私にはよくわからないけど怖い話をしてない…?

 彼が再び口を開いたのは少し時間が経ってからだった。


 「わかった。その代わり2つ条件がある。」

 「どうぞ。」

 「1つ目。協力してもらうからには情報をばら撒くのはなしだ。ネットにも周りにもな。」

 「それはもちろん。2つ目は?」

 「2つ目は俺達のことは全部は話さないぞ。理由は信用ができない。」

 「同級生なのにそれは酷くない!?一緒に遠足に行った仲だよ!?これは文句言っていいよ智陽ちゃん!」

 「いや、いいよ。それで。」

 「いいの!?」


 やっぱり智陽ちゃんはよくわからない。私と全然違うタイプってのもあると思うけど、自分のことほとんど話さないから何考えてるか全然わからない。

 でも悪い子じゃないと思うんだけどな…。


 「最低限の情報だけ共有する。最低限だが、他言無用だぞ。」

 「もちろん。」


 色々考えている私を置いて、まー君は智陽ちゃんに澱みと墜ち星、そしてはえ座の墜ち星について話し始めた。


☆☆☆


 連休が終わってしまった。学校は楽しいし行きたくないってわけじゃないんだけど、夏休みまで休日がないって聞かされると少しなんともいえない気持ちになる。

 連休後半は麻優ちゃんと遊びに行ったり、幼馴染3人でお茶会したりした。麻優ちゃんは遠足のときも思ってたけど、やっぱり私服がオシャレで可愛かった。

 3人でのお茶会はまたあのコーヒーチェーン店に行った。せっかくまー君と再開できたして、3人で来たいって思ってたからとっても嬉しかった。

 最初まー君は飲まないって言ってたけど、2人で選んだカスタムを飲んでもらったら、凄く美味しそうに飲んでた。言葉にはしなかったけど目がキラキラしてた。もちろん3人で写真も撮った。どっちもとっても楽しかった。

 あ、もちろんまー君に特訓もしてもらった。でも星鎧はまだ生成できない。まー君はそのことには何も言ってくれない。やっぱり、私じゃ駄目なのかな。自分はあんまり落ち込んだり悩んだりしないと思ってる。でも流石に焦りや後ろ向きな気持ちが私の中に生まれていた。


 「今日からテスト1週間前だからな〜。しっかり勉強するんだぞ〜。」


 タムセンがみんなに呼びかけて、ホームルームが終わる。教室から少しずつみんなが帰っていく。そう、今週からテスト週間。タムセンにも「テストはしっかり点を取ってくれよ。」と言われているので頑張らないと…とは思うんだけど、勉強は苦手なんだよね…。

 ホームルームも終わったので、とりあえず私はまー君に話しかけに行く。


 「まー君。今日はどうする?」

 「いやお前、勉強しろ。」

 「え〜…」

 「え〜。じゃないタムセンにも言われただろ。ほら帰るぞ。」


 そう言って、まー君は席から立ち上がる。

 「今日は帰って提出物をやろう…」と諦めたとき、私達に智陽ちゃん小声で話しかけてきた。


 「ちょっといい?」

 「どうした。」

 「市立病院に警察が集まってるみたい。怪物が出たって話も上がってる。すぐに消されたけど。」

 「ついに来たか…。助かった。行くぞ由衣。」


 そう言ってまー君は急いで教室から出ていく。私も「智陽ちゃんありがと〜!」とお礼を言いながら急いで後を追いかけた。

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