第14話 平等に
次の日の放課後。私は昨日はえ座に襲われていた生徒を空き教室に呼び出していた。杉下君という男子生徒で私達と同じ1年生らしい。
私は昨日、まー君とタムセンに「襲われていた生徒から話を聞きたい。」とお願いした。だって襲われるには理由があると思ったから。
すると、まー君もその案に賛成してくれた。彼は「倒せない以上、目的から被害を予測して先回りすべき。」と言っていた。
それと、私は先にまー君に「いるだけでいいから喋らないで。」とお願いした。昔のまー君ならまだしも、今のまー君が被害者に話を聞くと尋問みたいになりそうな予感がした。
「小野は中学の同級生でよぉ。いつも1人でいるから遊んでやってたんだ。松井も他のメンバーも小野のこと気に入っててあんなに遊んでやったのによぉ。」
小野君こそがはえ座の堕ち星となった人。そして松井君は杉下君達のグループのリーダーみたいな存在らしい。小学校の頃の私達もまー君がリーダーみたいな感じでよく遊んでいた。
しかし、杉下君が言った遊びの内容は私達とは正反対だった。これがいじめってやつなんだと思う。あんなこと、遊びだなんて言わない。凄く気分が悪い。
でも何故襲われているのか、次はどこが襲われそうなのか。これを知らないといけない。
私は自分の感情を抑えながら私は杉下君に質問する。
「つまり…あの怪物の正体の小野君は杉下君達が虐めてた相手ってこと?」
「虐めてたわけじゃない!遊んでやってたんだ!なのにあいつ、あんな力を手に入れて調子に乗りやがって…!」
激しく叩く音が鳴り、杉下君の机が揺れる。窓辺で黙って聞いていたはずのまー君が彼の机に両手を付いていた。
私の予感は残念ながら的中してしまった。
「おい。何が「遊んでやってた」だ?それは「お前達が」だろ。相手が怪物になってまでも、お前達を襲うのはそれが嫌だったからじゃないのか!?お前達が相手の感情を無視して、自分たちの快楽を優先した結果がこの状況じゃないのか!?」
彼の質問する声は明らかに怒っていた。というか既に杉下君の胸ぐらをつかんでる。今にも杉下君を殴ってしまいそうな勢い。私は急いで止めに入る。
「ちょ、ちょっとまー君!落ち着いて!」
私はまー君を後ろから羽交い締めのような形で後ろに引っ張って杉下君から離そうとする。
力が強い。でも止めないと。まー君に問題を起こして停学とかなって欲しくない。私は必死で後ろに引っ張る。
するとまー君が杉下君から手を離す。私も安心して手を離す。どうやらタムセンもまー君の肩に手を置いていて、殴る素振りがあれば止めれたみたい。
杉下君はもう一度椅子に座ったけど怯えている。まー君は正面に立ったまま。杉下君を見下ろしている。少しの間を空けてまー君が口を開いた。
「…怪物になって人を襲うことは許されることじゃない。だからといってお前がその相手にした事が許されるわけでもない。怪物になった小野は俺が倒したやる。だけどな、お前はお前で自分がした罪を償え。」
まー君はそれだけを言うと教室を出て行ってしまった。彼を追いかけたいけど、まだ肝心なことがわかってない。私は質問を続ける。
「杉下君が襲われてる理由はわかった。ねぇ、次誰が狙われるとかわからない?他のメンバーは今どうしてるの?」
杉下君はよほど怖かったのか、怯えながら私の質問に答える。
「そ、それならきっと市立病院だ。俺以外は全員あいつに怪我させられて入院してるんだ!」
「それを小野君は知ってるの?」
「昨日言っちまったんだよ!「今度こそお前で最後だ。」って言われたから、他は市立病院に入院してるだけで生きてるって!松井も入院してるって!」
こんなの絶対次病院じゃん!この話からするときっとはリーダーの松井君を恨んでるはず。早くまー君探して伝えないと。
私はタムセンに「あとお願いします!私はま、陰星と一緒に病院に行ってきます!」と言い、急いで鞄を持って教室を出た。
☆☆☆
「まー君〜機嫌直してよ〜!」
私達は今市立病院に向かって歩いてる。あのあと、まー君は下駄箱近くで待っていてくれた。私が事情を伝えると「病院行くぞ。」とだけ言って歩きだして、それからはずっと無言。もうオーラが「機嫌悪いですMAX怒ってます。」って感じで流石に空気が悪くて嫌だ。
私は思わず、考えてることをそのまま言ってしまった。
「そんなにあの人たちのことが嫌ならさ…守らなければいいじゃん。だって悪い人じゃん。それに襲われても全く反省してなかったし。」
彼は立ち止まって振り返り、私を見る。
「あのな。そういう尺度で決めていいことじゃねぇんだよ。確かに俺はああいう人間が嫌いだ。凄く腹が立つ。
だけどな、それが堕ち星に襲われてるのを見殺しにしていいって理由にはならねぇんだよ。人間の争いは人間の力だけで行われるべきだ。どのような人間であれ人間の手の及ばない力に手を出した時点で駄目なんだよ。
例え襲われてる人間がどれだけ憎くて、腹が立つ相手だろうと。例え倒さないといけない相手がどれほど俺にとって大切な人間だろうと。俺は平等に堕ち星から襲われてる人を守り、平等に堕ち星を倒すって決めたんだよ。星座に選ばれ、戦う以上俺は好き嫌いで守る守らない、倒す倒さないは決めない。
…俺は人の手に余る力を人から切り離すって決めたんだよ。」
そう言うまー君の眼から、私は決意と少しの悲しみを感じた。私はなんて言っていいのかわからなくなり、黙ってしまった。
するとまー君が私に質問を返してきた。
「で、由衣。さっきの言葉、本気で言ってるのか?」
「あ、いや。悪い人だとは思うけど、守らなければいいじゃんってのは本気じゃないよ?ただまー君があまりにも怒ってたから聞きたくなっただけで…。」
「そうか。ならいい。…あいつらがどうなるか。それこそ先生や大人が決めることだ。俺達が関与することじゃない。」
そう言い切った彼からは、もう不機嫌オーラは出てなかった。私は一安心し、病院に向けて歩き出そうとする。
しかし、彼はまた大きな声を出した。
「ところで。いつまでそうやってついてくるつもりだ?」
「え?いや私は着いて行くに決まってんじゃん!」
「お前じゃない。気づいてないのか。ここ数日、誰かがずっと付けてきているんだ。」
「え?」
「そこの電柱の後ろ!バレてないとでも思ってるのか?」
私も振り向き、まー君が指を指してる電柱を見る。確かに…誰かいる?
彼は呼びかけ続ける。
「いないフリか?今の俺は機嫌が悪いから早めに出てきた方が見のためだぞ!」
そう言いながら彼は左手を握ってる。え、術を飛ばす気!?機嫌直ったんじゃなかったの!?
流石にそれはまずいと思って、止めに入るよりも先に電柱の後から見知った顔の女子生徒が両手を上げて出てくる。
「正義のヒーローが善良な市民を攻撃するぞと脅すのは駄目だと思うんだけど…。」
出てきたのは遠足で同じ班だった、華山 千陽ちゃんだった。
「なんで!?」
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