第154話 嫌いになれよ
意識が泥から浮かび上がるような感覚で意識が戻った。
目を開けると、見慣れた天井が正面に見える。
結局あの後、疲れからか制服のままで寝てしまった。
時間を確認するためにスマホを見る。
時間は午前10時過ぎ。
どうやら合計12時間以上は寝ていたようだ。
寝ていた時間はもったいないが、お陰で今からでも多少なら戦えそうな身体と魔力量まで回復している。
……というか、昨日
そして今は10時過ぎ。
嫌な予感がした俺はベッドを囲っているカーテンを開ける。
しかし、部屋は俺の予想とは異なる光景だった。
「おはよ。よく眠れた?」
その光景を見た瞬間、俺は最悪の予感が頭をよぎった。
「何でお前だけなんだ。他の連中はどうした」
「……戦ってるよ。既に」
智陽の口から最悪の予想通りの言葉が出てきた。
「何で部屋に居たのに起こさなかった」と問いただしたいが時間が惜しい。
俺は普段来ている上着を掴んで部屋から飛び出そうとする。
しかし、扉の前に智陽が立ちふさがった。
「どけよ」
「顔洗って」
「は?」
「どうせ昨日から何も口にしてないでしょ。だから顔と口洗って、テーブルに置いてるスポーツ飲料を少しでも飲んでから行って」
智陽が何でそんなことを言うのか理解できなかった。
だが、従わないと部屋から出してくれそうにない。
力ずくで出てばいいが……魔力の無駄だ。
それに、智陽も傷つけたくはない。
仕方なく、俺は洗面所まで戻って顔と口を洗う。
そしてテーブル上に置いてあるスポーツ飲料を手に取る。
蓋が緩い気がしたが、気にせず流し込む。
空っぽの胃にがいきなり来た液体に驚いているのを感じる。
だが、そこを気にしてる暇はない。
「場所はどこだ」
「昨日と同じ場所」
場所を聞いた俺は、礼も言わずに部屋を飛び出した。
☆☆☆
市役所近くは既に規制線が張られていた。
俺が通り抜けようとした規制地点には偶然末松刑事がいた。
そのため、止まらずに規制を突破できた。
苦情が聞こえた気がするが、今の俺に構っている余裕はなかった。
戦いの場では話の通り、5人の星座騎士が1体の堕ち星が戦っている。
しかし、押されている。
1秒でも早く堕ち星と仲間達を引き離したい俺は言葉を紡ぐ。
「我が身、何人たりとも見ること、知ること、感じること能わず。
そして我が動き、人の目で追うこと能わず。その速さ、風の如く」
認識阻害魔術と身体能力強化魔術を使用して、仲間たちの隙間を縫って天秤座の懐に飛び込む。
だが俺は生身だ。
直接攻撃をするとこっちの手足の方が傷つく。
そのため、格闘攻撃はできない。
俺は右手を天秤座に顔に向けて言葉を紡ぐ。
「火よ。堕ちた星の座と成りし天秤の座を焼き尽くせ」
炎が天秤座に直撃して、天秤座は後ろに下がった。
認識阻害を使用していたため、不意を突けたようだ。
後は俺が天秤座を1人で抑え込めばいい。
今日こそは失敗しない。
仲間たちが俺の名前を呼んでいるのを聞き流しながら、気合いを入れなおす。
そのとき、上に膨大な星力を感じた。
見上げると、大量の矢が俺と天秤座を目掛けて落下してきている。
射手座の
今の俺は生身のため、当たるわけにはいかない。
「タイミングが悪い」と心の中で文句を言いながら、後ろに下がる。
そしてギアを喚び出す。
そのとき、今度は俺の横を1枚のカードが通り抜けた。
次の瞬間、強烈な光が辺りを照らす。
佑希のフラッシュのカードだ。
何を考えているんだ佑希は。
そんな愚痴を心の中に吐きながら、光が収まるのを待つ。
光が収まった時、俺の身体は宙に浮いていた。
「ちょっと我慢してくれよ!」
声からすると、どうやら俺は志郎に抱えられているらしい。
そして俺は戦場から運び出された。
☆☆☆
「いい加減に下ろせ!」
俺は暴れ続けて、ようやく脱出できた。
とりあえず転がり、距離を取って状況を確認する。
場所は移動した風景から市役所の地下駐車場だろう。
そして俺を運んでいたのは予想通り、
なるほどな。
星鎧を纏った状態だから俺を小脇に抱えれたのか。
そして、志郎の奥には2人の星座騎士。
俺の後ろにも2人。
…ということはつまり。
今、天秤座と戦っている星座騎士はいない。
「何で全員で撤退した!天秤座の堕ち星はどうするんだ!」
「焔さんと射守、あとあの女子が相手してる」
俺の後ろで紺と深紅の鎧を消滅させた
「堕ち星は星鎧を纏わないと戦えないのわかってるだろ!何を考えている!」
「それは」
「ひーちゃんありがと。でも、自分で話すから」
一番奥から、星鎧を消滅させた
由衣の隣にいる日和、俺の後ろにいる佑希も星鎧を消滅させている。
歩いてきた由衣は、俺の正面で立ち止まって「まずは…ごめんなさい」と頭を下げた。
すぐに由衣は頭を上げた。
しかし、由衣の言葉は続く。
「昨日『大っ嫌い』って言ってしまって、ごめんなさい。
まー君が好きなのは、
…でも、違うんだよね?私達のことを大切に思ってくれてるから、『会いたいなんて、思わなきゃ良かった』って言ったんだよね」
その言葉を聞いた俺の口から「誰だよ余計なことを言ったやつ…」という口が零れる。
普段なら口にしないはずの愚痴が。
しかし、由衣はその愚痴を気にせず話し続ける。
「…まー君はさ、覚えてる?4月に保健室でさ『まー君が話したくなるまで待ってるから』って言ったの。
でもごめん。もう待てない。私は、大事な友達が苦しんでいるのをほっておけない」
「……何でだよ。どうしてそこまで、俺のことを追いかけるんだよ。
……いっそのこと、俺のことを嫌いになれよ」
静かな駐車場に、俺の悲痛な叫びが響いた。
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