Constellation Knight 〜私達の星春〜

第155話 勝手にしろ

「……何でだよ。どうしてそこまで、俺のことを追いかけるんだよ。

　……いっそのこと、俺のことを嫌いになれよ」

　静かな駐車場に、俺の悲痛な叫びが響いた。

　少し間を開けてから、由衣（ゆい）が口を開いた。

「……なるわけないじゃん。

　だって今の私がいるのは、幼稚園の頃（あのとき）にまー君が私を受け入れてくれたからだよ？

　だから、今度は私がまー君を受け入れる番。

　中学生の間に何があったの？あの天秤座の堕ち星と女の子は誰なの？

　…まー君は、何を怖がってるの？」

　魔師社会に、由衣達は巻き込まない。

　だからこれ以上は何も話さない。

　そう決めていた。

　しかし、その意思に反するように俺の口は動く。

「……あの2人は、俺の中学時代の友人だ。

　そして俺は、あの天秤座の堕ち星と成った友人を、殺したんだ。

　そのはずなのに、天秤座は現れた。

　俺が怖いのは、お前らが傷つくことだ。どうしても俺は、お前らが稀平（きっぺい）のように堕ち星に成ってしまうのではと考えてしまうんだ。

　……俺はもう、大事な人を失いたくないんだよ」

　俺は両手で口を、目を、顔を覆う。

　これ以上、余計なことを話さないように。

　これ以上、戦いの邪魔になることを認識しないように。

　両手首が掴まれた。

　そして、俺の両手は顔から離された。

　目の前には、由衣がいた。

「…ありがと。

　でもね、私も同じ気持ちなの」

「だったら、もう俺に関わらないでくれよ。」

「そうじゃなくて、私も大事な友達を失いたくないの。

　……もう、大事な友達といきなりさよならになるのは嫌なの」

　由衣の言葉が心に刺さる。

　でも俺は、あの時の決意を無駄にしたくなかった。

　これ以上の会話は不要なのはわかってる。

　ここから逃げて、天秤座との戦いに戻ればいい。

　しかし、俺の口からは言葉が溢れ出る。

「だから、俺に関わるなよ。お願いだから俺のことを嫌いになって、忘れてくれよ

　その方が、俺だって楽になれる。1人で戦えるんだよ。」

「1人で誰かのために戦うの？

　…まー君、小学校の頃ははずっと、周りの人が笑顔で入れるようにしてたよね

　今はそんな小さな話じゃないことぐらい分かってる。

　でも、まー君が誰かのために戦うならさ。まー君は誰が守るの？」

「俺のことなんて、どうでもいい」

「だったら、……私達に、守らせてよ。

　私はまー君に比べたら全然弱くて、頼りにならないかもしれないけど。みんなで力を合わせれば、少しぐらいは力になれない？」

　周りで俺と由衣のやり取りを聞いていた、5人の友人たちが近づいてくる。

　次に口を開いたのは日和（ひより）だった。

「そろそろ意地張るの辞めたら？

　こうなった由衣は止めても聞かないの、真聡（まさと）だってわかってるでしょ」

「『1人では届かないものでも、仲間がいれば手が届くこともある』って、前に真聡自分で言ってただろ？

　それに由衣だけじゃなくて、俺達も真聡に助けてもらったんだ。

　俺達だってお前を助けたい。だからよ、もう少しちゃんと頼ってくれよ。なぁ？」

　続いて口を開いた志郎（しろう）が、隣にいる鈴保（すずほ）に同意を求める。

　鈴保は「何で私に振るのよ」と文句を口にした。

「でもまぁ。私も、あんたの言葉で目が覚めたのは事実だし。

　だから、真聡が折れそうなときは意地でもその腕を引っ張ってあげるから」

「私との約束、忘れてないよね。果たすまでは独りになんてさせないから」

　智陽（ちはる）が少し怖いことを言っている。

　だが「智陽の父親を探すのを手伝う」と言ったのは俺だ。

　俺は同じ親がいない智陽に、少し仲間のような気持ちを抱いていた。

「まぁ、そういう訳だ。もう諦めて全部話した方が良いと思うぞ。

　それにみんな、真聡が思っているよりは弱くないぞ」

　……佑希（ゆうき）め。

　由衣に何か吹き込んだな。

「だからさ。もう1人で背負うのやめて。独りになろうとしないで」

　由衣がまっすぐ俺の目を見ている。

　純粋な目。

　眩しい。

　そのとき、懐かしい会話を思い出した。

『なんでひとりでいるの？』

『だって……どうおはなししていいかわからないの』

『う～ん…あ！パパがいってた！ともだちをこまらせないぐらいのわがままはいいって！

　だから、ぼくはきみにもわらってほしい！ともだちになりたい！

　だから、なまえおしえて？』

『…ゆい』

『ゆい！いいなまえ！よろしく！

　じゃあいこ！みんなであそぼうよ！』

　そうだ。

　こいつ（由衣）に最初に手を伸ばしたのは俺だ。

　そして今は、閉じこもる俺に由衣が手を伸ばしている。

　幼稚園の（あの）ときの、逆のような状況だ。

　それに気づいた俺の口から、少し笑いが零れる。

　まだ手首を握っている由衣が不思議そうに「…まー君？」と呼びかけてくる。

　というか流石にずっと両手首を掴まれて疲れてきた。

　俺は「離せ」と由衣の手を振り払う。

　振り放された由衣が「やっぱり……ダメなの？」と聞いてくる。

　……俺だって、覚悟を決めた。

　もうこんなやり取りを続けるのはごめんだ。

　それに、強制的に喋らされたしな。

「……勝手にしろ。

　ただし、全員無茶はするな。大怪我でも許さないからな」

　俺の言葉が駐車場に響く。

　返ってきたのは、笑い声。

　その次に日和の言葉。

「…どの口が言ってるの？」

「いや間違いない。一番無茶してるのは真聡（あんた）でしょ」

「まぁまぁ。俺達は無茶しない、真聡が突っ走るなら止める、だろ？」

「うん！

　……まー君。これからも、よろしくね？」

　由衣が俺の顔を見てそう言った。

　少し恥ずかしくなった俺は「あぁ」とだけ答える。

　……いや。

　それよりも確認したいことがある。

「お前ら…俺になんか飲ませたな？」

　俺がそう聞くと、仲間たちは露骨に視線を逸らした。

　この反応……やっぱりそうか。

　一番飲ませた可能性が高いのは……。

「智陽」

「何も知らない」

　ピシャリと否定されてしまった。

　だったら……。

「由衣」

「わ、私！？知らないよ！何も！」

「嘘つくな」

「な…何でバレたの…？」

　由衣のその反応に仲間たちは「やっぱり駄目だった」という空気になった。

　昔から嘘つくのが下手なのも変わってない。

　飲まされたのは恐らく、嘘が付けなくなる魔法薬「真実吐き薬」

　入手できるのは清子（きよこ）ぐらいだろう。

　……こいつらに渡した理由がわからないが。

　そのとき、どこからか爆音が響いた。

　全員、ほぼ同時に地下駐車場出口の方向を見る。

　一番最初に口を開いたのは由衣。

「そうじゃん！戻らないと！」

　その言葉で、俺はさっきの天秤座と仲間たちの戦いを思い出す。

　ほぼ最後の一瞬しか見ていないが、俺が合流してた時はほぼ防戦一方。

　敗色濃厚な雰囲気だった。

　俺の魔術もあまり効かない。

　そして、一般人からいきなり神秘保持者になった由衣達。

　そんな6人で戦ったところで、勝てるビジョンが見えない。

　俺は不安を素直に口にする。

「…お前ら、一緒に戦うとは言ったが大丈夫なのか？」

「その心配なら、これがあればなんとかならない？」

　智陽が足元に置いていた2つの黒い見慣れたケースを持ち上げながらそう言った。

　……というかこいつ、いつの間に合流していたんだ？

　そんな疑問は置いておいて、もっと大事な疑問を投げる。

「…何勝手に持ってきてるんだ」

「真聡が置いていくからでしょ。

　それにこっちは…」

　そう言いながら智陽はもう片方の黒いケースを開けた。

　その中身は…。

「リードギア……7つも…！？」

「そう。今あるギアの分だけって焔さんが言ってた。

　全員が2つ以上の星座の力が使えるなら、何とかなるんじゃない？」

　確かに、全員分のリードギアがあると戦略がかなり広がる。

　俺の口から「なる……かもな」という言葉が零れた。