第156話 居心地が良かった
私、
それなのに私は、相伝魔法どころか魔術すら満足に使えなかった。
使えるのは魔力操作や最低限の基礎魔術のみ。
魔師としてのランクはCどころかDに分類されるはずだった。
それなのに私は今、神秘と戦っている。
戦場である広場に、地面が盛り上がって岩のような柱が無数に生える。
私はそれを駆け上がって岩の柱の上に立つ。
そして特注魔道具のダガーナイフを怪物の姿になった
しかし、あっけなく弾かれた。
まぁ当然そう。
学生魔師の魔術が神秘に通じるわけがない。
だから私の役目はおとり。
ダガーを投げて心斎の気を引く。
ただそれだけ。
私は自分にめがけて岩が飛んでくる前に岩の柱から飛び降りる。
そのとき、心斎に炎が直撃した。
神秘保持者、
続いて重い音が響いた。
再び、神秘同士がぶつかり合う。
私はやっぱり、届かない。
置いていかれる。
勝手に私との距離を詰めて、私を置いて行った。
本当に身勝手な馬鹿男子ども。
だったら最初から関わって来るなっての。
魔師の目的は家系や相伝魔法、相伝魔術の発展が主。
自分に利と成らない限り、他人との関わりは極力行わない。
そう言う風潮が強く、学院でもそんなやつばっかりだった。
……でもその理屈で考えると、ここ数年の私の行動はおかしい。
特に意味はないのに、あの2人といる時間が多かった。
そして、去年。
陰星が心斎を殺してしまったあの日以降。
私はずっと、陰星が気になっていた。
別に気にしてもいいことはないのに。
以前とは違い、誰とも会話せずただひたすらに魔術や神秘の特訓だけする陰星。
私も話しかけても突き放された。
でも、そんな風に変わってしまった陰星を見ていられなかった。
そんなある日、突然「召喚魔法を教えてくれ」と頼まれた。
相伝魔法を家系以外に伝えるなんて非常識。
でも、私は教えた。
自分に「使用する魔道具に召喚魔法をあらかじめ組み込み、戦闘中に投げては喚び戻す」という今の戦い方を思いつかせてくれたお礼と言い聞かせて。
そして、中等部卒業後の春休み。
陰星は突然姿を消した。
私は許せなかった。
手を伸ばしてきて、私の居場所になるって言っておいて。
居場所を壊し、全てを無かったことにしたかのように消えた陰星が。
だから私は「絶対に陰星を一発ぶん殴る」と心に決めて高等部の授業を受けていた。
そんなある日、学院地下で魔力の異常が検知された。
だけど、地下にある地脈の活動ということらしい。
でも私は、違うと思った。
地下にいた何かが動いた。
だから魔力の観測数値にブレが出た。
心斎は生きている。
そう考えた私は、陰星の親代わりとして何度か学院に来ていた焔さんと何とか連絡を取った。
そして私の考えと「もし、心斎が怪物として現れたら私も連れて行って」と頼んだ。
そして昨日、いきなり現れた焔さんに連れられてこの街まで飛んできた。
事前に準備していた真実吐き薬を持って。
陰星に会ったら何を考えてるか、真実吐き薬を飲ませて喋らせようと思った。
そしてやっぱり、久々に再開した陰星を見て本当に許せない気持ちになった。
それは私を置いて行ったからだけじゃない。
あんなにいい友人達がいるのに、相変わらず「自分が全ての不幸を背負えばいい」みたいな雰囲気で塞ぎこんでたから。
……あんなに仲いい友人がいるなんて、言ってなかったじゃん。
でも私は、真実吐き薬を陰星の友人に渡した。
そして今、私は神秘相手におとりをやっている。
……ほんと、何やってるんだろ。
そこに、重い音が連続して響いた。
気が付いてたら足元を見ていた目線を戦場に戻す。
焔さんが連続して飛んでくる岩を大剣で受けている。
…心斎に押されている。
あまり調子が良くないとは言っていた。
だから援護に入るって言ったのに、何してるんだろ私。
そのとき、心斎目掛けて矢が飛んできた。
心斎はそれを弾きながら後退する。
神秘で作られた矢。
だけどこれを撃っている人間も学院無所属の未登録神秘保持者。
当てにはならない。
一方、焔さんも剣を支えにして疲労が目に見える。
……焔さんにも頼れない。
でも、
…私が、戦わないと。
私は、もう1つの特注魔道具の洋剣を喚び出す。
そして心斎に向けて距離を詰めて、斬りかかる。
しかし、予想通りに手で止められた。
私は剣から手を放して後ろに下がる。
牽制としてダガーを喚び戻して、投げつける。
それも呆気なく弾き飛ばされた。
やっぱり、魔術では神秘と戦えない。
着地して、心斎の様子を窺いながら改めてそう思った。
すると私の剣をを投げ捨てた心斎が話しかけてきた。
「ずっと後ろに居たのに何で前に出てきたの?」
「あんたの足止めするって約束したから」
「妖崎に利はないだろ。それ」
「そうね。私に利はない」
「だったら僕の邪魔をしないでくれよ。
それに、妖崎だって踏み躙られる側の気持ちがわかるだろ」
私は相伝魔法も魔術も満足に使えない。
学院でも居場所はなかった。
……昔の私なら、きっと心斎の行動は見て見ぬふりをしていた。
でも、今は……。
「わかる。
でも、何にもない私でも。誰かを守れるならっ!」
私は言い切ると同時に距離を詰める。
どうやら私は、
あの3人でいた時間は、私にとって居心地が良かったらしい。
でも私は
私は陰星に、全てを背負わせてしまった。
だから今度は、今回こそは。
私だって。
戦う。
私は剣を呼び戻し、心斎に突き立てる。
しかし、やっぱり剣は止められた。
「真聡も妖崎も、何でわかってくれないんだよ!」
お腹に重い痛みを感じた直後、私の身体は後方に吹き飛んだ。
次に来るのは地面とぶつかるときの衝撃。
耐衝撃魔術を発動してその時に備える。
しかし私の身体は突然、空中で止まった。
「大丈夫か、清子」
その声で後ろを向くと、陰星がいた。
風魔術で受け止めてくれたらしい。
私は下ろされながら「……もう大丈夫なの」と問いかける。
「…あぁ。あとは俺が、いや俺達がやる」
陰星はそう言いながら私の前に立った。
5人の友人と共に。
結局、こうなった。
でも今は不思議と、腹は立たなかった。
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