8節 魚
第080話 不快感
「…台風さ、直撃すると思う?」
「…さぁな」
9月も半分が終わったある日。
由衣の言う通り日本に台風が近づいているらしい。
昨日はまだ晴れていたのだが今日の天気はあいにくの雨。
そんな雨の中を俺は今日も迎えに来た由衣と2人で学校へ向かってる。
あれから射守 聖也とは会っていない。
澱み退治は何度かしたが現れなかった。
一方、由衣は矢持 満琉と定期的に連絡しているらしい。
それに対して俺は「本当にこいつは誰とでも仲良くなるよな」と何回思ったかわからない事を思った。
いや、それよりも大事なことがある。
頭が痛い。
というか何か妙な不快感を覚えている。
それもここ数日外に出るとだ。そして今日は特に酷い。悪寒というやつか?
そんな事を考えながら空いてる手で頭に手を当てていると由衣に気づかれた。
「…さっきからどうしたの?……頭痛いの?」
思いっきりバレている。
しかし、肯定すると過度に心配されるのは目に見えているので俺は「違う。何でもない」と返す。
「…ほんとに?違うなら良いけど……無理しちゃ駄目だよ?」
「…あぁ」
「いや、多分本当に頭痛いんでしょ。返事のキレがない」
「わ!ちーちゃん!!おはよ!……いつの間に?」
「おはよ。由衣が頭痛いのか聞いたときから後ろにいたよ」
誰か後ろにいるとは思っていたが、それが智陽だとは思わなかった。
そして見抜かれてる。…頭痛が増しそうだ。
「気づかなかった……え、本当に痛いの?」
「…………あぁ」
「きっと偏頭痛でしょ。今日雨だし。あと寝不足だと悪化するらしいし。ちゃんと寝てる?」
智陽から指摘が飛んでくる。
寝てるか寝てないか。答えるなら「前よりは寝ている」となる。
こぎつね座の幻覚を受けてから半月ほど経った。そしてようやく夢を見る回数も減ってきた。最近は寝れている。
なので俺は先程の答えの通り返事をする。
「…もしかしてリードギアの実験してるからじゃない?あれまだ実験中なんでしょ?」
「……何か不具合あったのかな」
智陽がその言葉を最後に口を閉じた。
これはもしかしたら責任を感じているのだろうか。
…不必要な責任を感じさせるぐらいなら、全部話した方が良い。
「…頭痛も不快感も外に出るとだ。家や跡地に居るときには感じない」
「…じゃあ、リードギアじゃない?」
「多分な」
「良かった……」
「じゃあ……何で?」
「知らん。わかったら苦労しない」
「そう……だよね……もし我慢できないなら言ってね?保健室付いて行くし、帰るなら家まで送るから」
「いらん」
「こういうときぐらい素直に頼ってよ〜」
由衣が頬を膨らませているが俺は気にしない。
自分の限界ぐらいわかってるつもりだ。
というか由衣の手を煩わせたくない。
そうこう話していると、通用門が見える所まで来た。
しかし、いつもと様子が違う。
「…警察来てない?」
通用門前にパトカーが止まっている。こんな朝から何事だ?
堕ち星や澱みの気配は…しない。というか感じられない。不快感によって何も感じれない。
俺は由衣の言葉を肯定しながらダメ元で智陽に話を振る。
「流石に何も知らない。雨の中歩きながらスマホは触れない」
残念ながら知らなかった。というか知っていたら最初に会ったときに言いそうだ。
となると…事情を知ってる人を探したいが…
「あ、ゆー君!おはよ〜!!」
「ん。あぁ由衣、おはよう」
「佑希は何か知ってる?」
「残念ながら俺も今来たところ。何も知らない」
幼馴染の児島 佑希がどこからか合流してきた。
…こいつ今どこから出てきた?
いや、そんなどうでもいいことは今はいい。
現状の方が問題だ。
「とりあえず、校内には入れそうだから教室へ行こう。途中で何かわかるもしれないし」
「それもそうだね」
由衣と佑希がそう言いながら通用門の方へ向かって歩いていく。
そして智陽もついて行く。
俺も置いて行かれるわけにはいかないので追いかける。
下駄箱まで行き、屋根の下で傘をたたみ校舎内に入る。
すると聞き慣れた声が聞こえてきた。
「よぉ〜す、4人共〜」
「あ、しろ君!おはよ!」
平原 志郎が合流してきた。
俺は即座にこの事態について質問する。
「志郎はこの状況について知ってるか」
「いやぁ…俺も知らねぇ。……鈴保なら朝練で早く来てるから何か知ってるかもな」
「今どこにいる」
「あぁ〜…今日雨だからな…校舎内の何処かだと思うんだが…わかんね!」
「……先に鞄置きに行かない?」
「それもそうだよね」
智陽の提案に由衣を始め全員が肯定し、5人で教室へ向かう。
途中で志郎と別れ、俺達4人は自分の教室へ入る。
「おはよ〜今日は4人一緒なんて珍しいね」
「麻優ちゃんおはよ〜!そうなの、今日はゆー君とちーちゃんは学校に着く前に会ったんだ〜」
同じクラスの長沢 麻優が話しかけてきた。
確かに俺と由衣はほぼ毎朝一緒だが、佑希と智陽とは別に来ることが多い。
そのため4人で教室に入るのは珍しいかもしれない。
「ところで、1限目は自習らしいよ?」
「そうなの?」
「うん。ほら」
長沢は黒板を指差す。
黒板には『今日の1限目は自習です』と書かれている。
…やはり何か起きてるな。
しかし、この感じだと長沢も何も知らなさそうだ。
どうするか…。
そう考えながら鞄を自分の席に置くと何やら廊下が騒がしい。
そう思った次の瞬間。
「真ぁぁぁ聡ぉぉぉ!!!鈴保教室にいたわ!!!」
「うるさい。普通に呼んで。周りの注意引くし。それと廊下は走るな」
志郎が鈴保を連れてきたらしい。が、ツッコまれている。
…普通に来てくれ。
とりあえず俺達4人は廊下に出て、志郎と鈴保と合流する。
「で、警察が来てる理由?」
「そうそう。何か知ってる?」
「顧問がなんか言ってた。生物部の生徒と顧問が昨日、学外活動に行ってから帰ってきてないんだって」
生物部か……確か…
「ひーちゃん!!!」
俺が口にするよりも先に由衣は走り出した。
恐らく日和の教室だろう。
俺達も後を追う。流石に走らないが。
由衣は先にクラスに入っていった。
俺達が教室の前についたときには、由衣が戻ってきた。
「ひーちゃん……今日誰も見てないって……」
「つまり…」
「あぁ。たぶんそういうことだな」
幼馴染の水崎 日和が行方不明になった。
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