第079話 必要ない

真聡はへび座から目を離さずに私の無事を聞いてくる。

 メッセージ送れてなかったけど来てくれた。送ってないから無理だと思ってたから、私は今凄く驚いている。

 でもひとまずは助かった。


「大丈夫、ありがとう」

「そうか。じゃあその2人を連れて跡地まで行け」

「そのつもり。あとお願い」

「…あぁ」


 会話が終わると同時にへび座が立ち上がって真聡に文句を言う。


「山羊座まで来たよ。君もいつも邪魔ばかり」

「お前達を邪魔するのが俺の役目だからな」

「ほんっと邪魔。…でも君にはこぎつね座が倒されてるんだよね。ならここで君も潰すか」

「やれるもんならやってみろ」


 そう言って真聡とへび座の戦闘を始まる。

 一方、私は傷だらけの射守を満琉と2人で両側から肩を貸そうとする。

 しかし。


「離せ」

「駄目。これ以上は怪我じゃ済まないよ。陰星君が来たんだしここは逃げよ」

「化け物を倒すのが俺の使命だ。その戦いで命を落とすなら惜しくなどない…!」


 そう言いながら射守は私達を振り解いて、立膝の状態で左手に弓を生成する。

 右手はさっきとは別の腰につけた入れ物からプレートを取り出した。

 そしてそのプレートを持った右手で弓を引き、矢を放つ。


 放たれた矢は1本だけ。

 しかし、飛んでいく間に次々に分裂していく。

 最終的にはまるでガトリング砲のような弾幕に成っていた。


 その弾幕はへび座と真聡に向けて飛んでいく。

 このままだとまた真聡まで巻き込まれる。

 そう思った私は咄嗟に真聡の名前を叫ぶ。 


 私の声を聞いた真聡はへび座の動きを阻害しながらもその場から離脱する。

 そして私達の前に着地した。

 一方、避けれずに分裂した矢を受けたへび座は怒りの声をあげる。

 

「両方、本っ当に僕の邪魔をするよね!!いいよ、ここで喰い殺してやる!」


 そう言いながらへび座に周りから黒い靄が集まり始める。

 そしてへび座はまた巨大な蛇の姿に…………



 なるよりも先に、羊の群れがへび座に向けて突撃する。

 へび座はうめき声をあげながら変身を中断した。


「牡羊座か…早かったね」

「私だって、あのときよりは強くなってるから」


 そう言いながら別の路地から紺色と赤色の星座騎士、白上 由衣が現れた。

 由衣は真聡の隣、私達の前に移動してきてへび座と向かい合う。


「どいつもこいつも………本っ当に………!!!!」


 凄い圧。怒りが伝わってくる。

 油断したら押しつぶされてしまいそう。

 それと同時に再び黒い靄がへび座に集まっていく。

 しかし、突然黒い靄と怒りは収まった。


「…………やっぱりやめた。ここで焦って君達を潰しにいって、もし計画が失敗した方が腹が立つ。

 もう僕の計画は最終段階なんだ。だから今日はこれで勘弁してあげるよ。じゃあね」


 そう言ってへび座は黒い靄をこちらに流してくる。

 それを真聡が風を起こして吹き飛ばす。

 でも、既にへび座の姿はなかった。


 射守が3つ目の腰の入れ物からプレートを取り出して、右の掌の上に乗せる。

 ……いくつプレートを持ってるの?

 射守はしばらくそれを見つめたあと首を振った。

 そして口を開く。


「何故逃がした……何故ここで倒さなかった…!!」


 そう言いながら立ち上がり、元の姿に戻った真聡と由衣に向かっていく。


 しかし、怪我のせいかすぐに膝をついた。

 その体勢の射守に真聡は反論する。


「へび座の堕ち星は強い。俺1人ではお前達を庇いながら倒すのは無理だ。全員生きてるだけで良しとしろ」

「…やはり1人では何もできない弱者か」

「…何故そこまで強さにこだわる」

「人の世に仇なす怪物共を1匹残らず倒す。そのために俺は強くあらねばならない」

「…でも私達は同じ力に選ばれて、同じ目的で戦ってるんだよ?だったら協力しようよ!」

「…必要ない。俺は生まれたときからそう定められている。お前達のような後から選ばれた半端者とは違う」


 そう吐き捨て、射守はおぼつかない足で立ち去る。


「…ごめんなさい。助けてもらったのに」

「……気にするな。これが俺の役目だ」

「…ありがとうございます。私もこれで失礼します」


 そう言って満琉は頭を下げる。

 頭を上げた後「じゃあ2人共、また学校でね」と言って駆け足で射守の背中を追いかけていった。

 …真聡と射守って違うようで似てる気がする。

 そんな事を考えていると、真聡が口を開いた。


「で、由衣は何をしていた」

「澱みを出されて、それに手間取っている間にへび座に逃げられました……でも澱みはちゃんと全部倒してきたよ!」

「…そうか。……まぁ、よくやった。……それと、智陽は無茶をするな。お前は生身なんだから」


 私はその言葉で自分の行動を思い返す。

 確かにあれは無茶なことをした。結局、射守や真聡に助けられたし。

 ……あれは以前の私なら絶対しない行動だった。

 そう考えると私は真聡や由衣に影響を受けて変わり始めてるのかも。

 返事をしながら私はさっき持った疑問を真聡にぶつける。


「そういえば私、ちゃんと連絡できなかったと思うけど、何でここがわかったの?」

「連絡が来なくても近くで戦闘をしていたら気づく」


 本当に気づくか少し疑問に思った。

 でも私には特別な力はない。星座に選ばれた人しか分からないこともあると思って気にしないことにした。


「で、お前ら。矢持 満琉と何をしてた」

「あ、えっとぉ………それは………」


 この後、さっきまでの会話を全て話すことになったのは言うまでもない。


☆☆☆


「と言う訳らしいぞ」


 翌日の昼休み。

 私達星座騎士の6人は屋上に集まっていた。

 …集まっていたというか真聡に集められたの間違いだけど。


 私は最初、屋上で話していいのか心配していた。

 でも真聡が何かしていたから多分大丈夫なんだと思う。

 そしてお昼を食べながら私と由衣が昨日、満琉から聞いてきた話を共有をした。


「射守が6人目…か…」

「やっぱあいつ仲間なのか…」


 鈴保と志郎はとても嫌そうな雰囲気。

 まぁ、前回の屋上のときからそんな感じだったし。この反応は予想通り。

 一方で佑希は「また黄道十二宮か…でも味方が増えるのは良いことじゃないか?」と言ってる。

 そう都合よく行くかな。だって射守の態度あれだよ?


「それにしても生身で武器を生成できるなんてな。…本当に生まれたときから射手座の力を使うように生きてきたんだろうな」

「…多分な。こういう力は鍛えた年月が長ければ長いほど馴染んで強くなる。……恐らく射守 聖也は並ならぬ努力をしてきたんだろうな。それこそ俺達以上に」


 佑希と真聡が少し難しい話をしてる。

 この2人…というか真聡の発言はたまにおかしなところがある。

 具体的に言うと聞いてる情報だけだと噛み合わないことがある気がする。

 そんなことを考えていると私に話が振られた。


「で、智陽。射守は他にもプレートを持ってなかったか?」

「持ってた。それもたぶん3種類。攻撃を防ぐ力と矢を増やした力、それと……多分堕ち星の居場所がわかる力かな」

「3つか…」


 そう呟いて真聡はスマホを見る。

 多分星座の一覧を見てるんだと思う。

 それにつられて私を含めて全員自分のスマホを見る。


 次に口を開いたのは由衣。「はい!」と勢いよく手を挙げる。

 …授業じゃないんだけど。


「盾座、オリオン座、レチクル座じゃない?」

「俺も1つ目は盾座だと思うが、オリオン座は違うと思う。それにレチクル座は科学館のときにからす座の堕ち星に回収されていると考えている」

「え〜……」


 真聡からの意見に由衣は口を尖らしながらスマホとの睨み合いに戻っていった。


「…オリオン座じゃねぇの?」

「オリオン座は有名だからな。能力が矢を増やすだけと言われると俺は違うと思う」

「ケンタウルス座は?射手座も確かケンタウルスでしょ?それかインディアン座。…先住民って弓矢とか使わない?」


 志郎、佑希、鈴保が順番に自分の意見を言う。

 志郎はさておき佑希と鈴保は星座についてしっかりと勉強しているのがわかる。

 でも私も発言する隙間があって安心した。


「2つ目は矢座じゃない?」

「それは俺も思ってた」


 私の意見に佑希も肯定した。

 …鈴保が口を挟まなかったら私の発言チャンスは本当になかったのかもしれない。


「俺も2つ目は矢座だと考えている。問題は3つ目だ。該当しそうな星座は全て俺達か堕ち星が持ってるはずだ。……3つ目は何座だ?」


 その発言を最後に真聡は口を閉じた。

 全員、再び自分のスマホと睨み合う。


 該当しそうな星座。

 恐らく天文に関係する、六分儀、八分儀、望遠鏡、レチクルのことだと思う。


 確かにこの4つは科学館のときに確認してる。

 …堕ち星が持っていたのが本当にレチクルどうかはわからないけど。

 この沈黙を破ったのはまたしても由衣だった。

 また元気よく「はいっ!」と手を挙げる。

 だから授業じゃないんだってば。


「羅針盤座じゃない?行き先を示す……って」

「羅針盤座か……なるほどな、よく思いついたな」


 真聡が驚きながらも由衣をストレートに褒めた。

 …珍しい。

 由衣は「えへへ〜」と照れながらも返事をする。


「でも私が思いついたんじゃなくて……望結先輩に聞きました。なので褒めるのは望結先輩に……」


 なるほどね……天文部で星座オタクの見鏡先輩なら私達とは違う視点とオタク知識があるから答えが出せるかもと思ったんだ。

 人との繋がりを大事にする由衣らしい解決方法。

 私が少し感心してると「誰?」と鈴保が呟いた。


 鈴保と佑希はあの時いなかったから知らなくて当たり前。

 そんな2人に志郎が簡単に見鏡先輩について説明を始めた。

 そんな3人をおいて由衣は真聡に質問する。


「でも羅針盤って方位磁針でしょ?……違うんじゃないの?」

「確かに方位磁針だ。だから羅針盤座そのものには堕ち星を探す能力はないかもな。

 だが、こういう力は後から違う力が与えられたりする。方位磁針は行き先を示す。それが転じて行き先、つまり澱みや堕ち星の場所を示すようになった……ありえない話ではない。

 そもそも俺や由衣、それに佑希は本来の伝承から少し違う力を得てるだろ」

「確かに。牡羊座に眠りの話はないし、双子座にもカードの話なんてない。山羊座は…」

「どちらかと言うと変身術だ。7属を扱う力なんてない」

「確かに言われてみれば…」


 由衣は関心している。

 でも私は真聡の発言に出た7属という言葉が気になった。

 …いつも使ってる火や水のことかな。確かに全部数えると7つに分類できる…か。 

 発言に引っかかっている私を置いて真聡の発言は続く。


「それに射守 聖也が幼い頃から星座の力に触れていたのなら、新たな意味を与えている可能性だってある。

 俺は以上を踏まえて射守 聖也が持っている星座の力を射手座、盾座、矢座、羅針盤座の4つと仮定したいと思う。反論があるやつはいるか」


 その問いに見鏡先輩の話から戻ってきた3人を含めた私達全員は首を振る。

 まぁ、この中では真聡が1番強くて、星座の知識もあるし、歴も長いんだから余程のことがないと誰も反対しないでしょ。


 真聡が話を締めようとすると、チャイムが鳴った。

 志郎が「これって…予鈴か?」と全員に尋ねる。

 それに由衣が返事をする。


「うん。予鈴だよ」

「教室に戻るぞ。あと由衣、見鏡先輩にお礼を言っておいてくれ」

「もちろん!」


 全員が自分の荷物を持って校舎内に戻ろうとする。

 そのとき、鈴保が少し焦った声で志郎に話しかけた。


「…次の授業、私達体育だよね?」

「……あっ、やっべ!!急がねぇと!」

「最悪!これ着替える時間ある!?」


 そう言いながら2人は走って去っていった。

 体操服持ってきてたのに忘れてたんだ…

 まぁ、誰も指摘しなかったからね。頭使って考えごとしたら忘れるか。

 そして残ったのは同じクラスの4人。


「俺達は普通に座学だから遅れないように戻るか」

「だね〜」


 佑希を先頭に由衣が続いて校舎内に戻っていく。

 こうして私達の昼休みを使った会議は終わった。



 しかし、私達はへび座の意味深な発言について考えるのをすっかり忘れていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る