第078話 仕返し
満琉の背中を由衣と2人で見送る。
そしてさらに南へ向けて歩き出そうとしたとき、由衣がいきなり走り出した。
由衣はたまに驚くような行動を取る。あれやめて欲しい。
でもこれがそうじゃないことくらいわかる。
何故なら、走り出した由衣の顔は真剣な顔だったから。
私も慌てて追いかける。
由衣が満琉の前にまわったとき、私も満琉の隣に追いつく。
…陰キャには突然走るのキツイんだけど。
「何だ。1人かと思ったら牡羊座が一緒にいたんだ」
「へび座の堕ち星…何でここに」
「君に用はないんだよね。用があるのは君」
そう言いながらへび座が満琉に向けて左手を伸ばす。
私は嫌な予感がして満琉を思いっきり私の方に引っ張る。
次の瞬間、さっきまで満琉が立っていたところに蛇が伸びてくる。
どうやら左手が蛇になって伸びてきたらしい。
一方、私は力いっぱい引っ張ったのは良いけど、満琉を支えきれずに私が下になる形で倒れる。
…無事だから許して欲しい。
見た感じどうやら左手の蛇は自由に伸ばせないらしい。
へび座は舌打ちをしながら標的を捉えそこねた左手を戻した。
「ちーちゃん!みっちゃん!大丈夫!?」
「何…とか…」
「智陽のおかけで大丈夫。ありがと」
「うん」
「2人は逃げて。へび座、あなたの相手は私がする!」
そう言いながら由衣は紺色のギアを喚び出した。
とりあえず私達は逃げよう。そして落ち着いたら真聡に連絡しよう。
そう思って私は満琉の手を掴んで走り出した。
☆☆☆
息を切らしながらも走る。
でも流石に鞄を背負いながら全力で走り続けるのはインドアの私にはしんどすぎる。
私は電柱に体重を預け、前を走る満琉に声をかける。
「ちょ…ちょっとストップ。無理。休憩…」
「智陽大丈夫?…でもここまで来たら平気かな」
そう言いながら満琉は戻ってきてくれた。
最初はとりあえず逃げてたけど、途中からは時代錯誤遺物研究所跡地を目指して走ってた。
理由は真聡がそこなら結界があるって言ってたし、多分今日もいると思ったから。
でも最初に闇雲に逃げたときに反対側に逃げてしまった。だからたどり着くまでに私の体力が持たなかった。
……最初にいた場所からでも怪しいけど。
何度か深呼吸をして息を整える。
ようやく頭と口が回りそう。
「とりあえずそれぞれ連絡入れよう」
「そうだね。…あと念の為少しずつ移動しよ」
「うん」
そのやり取りの後、私達は住宅街と山の境目の道を歩きだす。
恐らくこの道を歩いていけば研究所跡地のはず。
そう思いながらメッセージアプリで星座騎士のグループを探して文字を打ち始める。
満琉は電話をかけてる。でも射守は出ないらしい。
そのときだった。
何かが這いずるような音が聞こえた。
次の瞬間、右側の住宅街の路地から巨大な蛇が現れた。
その蛇は人の言葉で話し始める。
「やっと追いついた」
「まさか…へび座!?由衣が足止めしたでしょ!?」
「牡羊座なら澱みの相手をしてもらってるよ。それに僕だって強くなってるんだよ」
「満琉!逃げるよ!」
私はそう叫んで私は空いてる手で満琉の手を掴み走り出す。
でも今はここに星座騎士はいない。
それに私達のような普通の人間の足で堕ち星から逃れるとは思っていない。
でもここで死にたくはなかった。
だから走った。
しかし、やはり逃げ切れるわけもなく、へび座が私達に迫る。
前だけ向いて必死で走ってるけど、音とか気配でわかる。
やっぱり無理だ。堕ち星を前に普通の人間は無力だ。
そう思った瞬間、後ろでさっきまでとは違う音がした。
振り返るとへび座に何本か矢が刺さっていた。
「聖也!?いるの!?」
「何だ…射手座いるのか…せっかく仕返しのチャンスだと思ったのに!」
そう言いながらへび座は山の斜面に向けて口から紫色の煙を吐き出す。
その煙を浴びた木や草は枯れていく。
あれ絶対毒だよね。
山の斜面からは矢が飛んできている。
どうやら満琉の言う通り射守がいるみたい。
いや、それより聞かないといけないことがある。
私は満琉の手を引き、へび座から目を離さず後ろに下がりながら問う。
「仕返しって何」
「…前に聖也がへび座の堕ち星と戦ったことがあるの。そのときに「僕の計画をよくも邪魔したな!」って言ってたからその仕返しだと思う」
「…ふざけてる」
私はへび座と実際に相対するのは初めてだけど、本当にふざけてると思った。
真聡からは「現状1番強い堕ち星で普通の人間を堕ち星にしてる可能性が高い」と聞いてる。実際由衣も襲われたらしいし。
そんな奴が自分の計画を邪魔されたから人を襲うなんておかしい。それに絶対ろくな計画じゃないだろうし。
とりあえず、狙われている満琉を逃さないと。
そう思ったとき。
「埒が明かないな。だったら…!」
そう言いながらへび座はこちらを向く。
距離は離れてるけど凄く嫌な予感がする。
へび座は息を吸い込んでいる。また毒の息が来る。
私はとっさに満琉の前に出る。
私は戦う力なんてない。
それでも、星座騎士の仲間だ。目の前の誰かを見殺しになんてできない。
そんな覚悟を持って。
へび座の口から紫の霧が吐き出させる。
次の瞬間、斜面から人影が飛び出してきて私の前に着地した。
そして腰の入れ物から何かを取り出して、目の前に掲げる。
すると毒の霧は私達を避けて周りへと流れていった。
どうやら助かったみたい。
……射守がついでとはいえ私を助けてくれるなんてね。
「やっぱりその女、そんなに大切なんだ」
「違う。人の世を乱すお前達を倒す。それが俺の使命なだけだ」
そう言いながら射守が矢を放ちながら、山側の林に戻っていく。
今度はへび座も後を追って林の中へ入っていく。
ヒーロー気質なのか冷淡なのかどっちなの。
でもとりあえず今は助かる。
へび座が林の中に入った今ならさっきと違って私達は逃げやすい。
私はもう1度満琉の手を掴み、走り出そうとする。
しかし、満琉は動かない。
「満琉!行くよ!」
「でも…聖也が!」
「それがあいつの役目なんでしょ!今は逃げないと!」
「そうなんだけど!でもこの距離は聖也には!」
私はその言葉でハッとする。
射守は射手座。恐らく得意分野は遠距離戦。
ゲームの知識だけど弓やスナイパーは高所からの奇襲や遠距離の戦いほど強い。
一方、今は中距離…いや近距離に近い。つまり苦手な距離で戦っている。
そして1番問題なのは射守は星座の力は使っているけれど、生身で戦っている。
つまりそれは、近づかれたら終わることを意味している。
私がその事に気がついた瞬間、痛々しい音が響く。
ほぼ同時に射守が林から吹き飛んできて道路を転がる。
それを見た満琉は射守の元へ走り出す。
私も仕方なく後を追う。
射守の隣についた満琉は傷だらけの射守の体を起こしながら呼びかける。
「聖也!しっかり!」
「…何でまだいる。早く何処かへ行け!」
「行けるわけないでしょ!聖也にはこの距離は無理だって!」
2人がそんな言い合いをしているとへび座が木々の間から姿を現した。
鎌首をもたげ、私達3人を見下ろしている。
「そうそう。君は僕の前に出てきた時点で負け。さて、あのとき僕の計画を邪魔してくれた恨み。晴らさせてもらうよ!」
そう言い終えるとへび座は息を吸う。
多分毒の霧…息で私達を一纏めに殺すつもりだ。
無意味だとわかってる。
それでも私はまた2人の前に出た。
こんな性格だけど射手座に選ばれた射守がここで死ぬのは真聡達にとってきっと大きな痛手になる。
だったら私が盾となって助かる可能性を少しでも上げたほうがいい。
そう思った。
そして毒の息が私達に向けて吐き出され
るよりも早く、何者かがへび座を側面に蹴りを叩き込んだ。
よくあるヒーローキック。
へび座は吹き飛び、地面を転がりながら人型に戻る。
そして私達の前に着地したのは紺と黒の鎧の星座騎士。
山羊座の陰星 真聡だった。
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