第077話 お嬢様

 お会計をしてもらってので私は「ごちそうさまでした」と言い、お店の外に出る。

 すると最初にお会計をしてもらって先に外に出ていたちーちゃんが話しかけてきた。


「それにしても由衣……もうちょっと空気読めないの?」

「だってぇ…お腹すいたんだもん……それに最初から気になってたし…」


 私がそう言うとちーちゃんはやれやれと言わんばかりにため息をついた。

 そして「昼ちゃんと食べてたでしょ」と返してきた。


「食べたけどさぁ…頭使ったら甘いものがぁ…」

「カフェモカも甘かったでしょ…それに途中から質問したり話してたの私だけど」


 それは…ごもっともです。

 どうやら私は難しい話ができないらしいです。本当にちーちゃんさまさまです。

 自分でもそれはわかってるから笑ってごまかしながら謝罪とお礼を言うしかできません…

 そんなやり取りをしてると満琉ちゃんがお店から出てきた。


「ごめんね待たせて〜」

「全然大丈夫だよ〜!」

「みんな家どっち?」

「「こっち」!」


 そう言いながら私とちーちゃんは揃って南側を指を差す。

 すると満琉ちゃんが「じゃあ途中までは一緒だね。行こっか」と言って歩き出す。

 それを追いかける形で私とちーちゃんも歩き出す。

 次に口を開いたのは私。


「でも本当に美味しかったし、お洒落でいいお店だった〜!教えてくれてありがと!」

「いやいや!話すって名目で付き合わせて悪いな〜って思ってたから喜んでもらえて本当に良かった」

「…射守君とは来ないの?」

「いやぁ…聖也は学校にいる以外の時間はずっと弓道か星座騎士としての特訓をしてるから……それに洋風よりも和風の人だから。家的にも」

「…つまり洋菓子よりも和菓子派で満琉ちゃんとは好みが違う…ってこと?」

「そういうこと。だから私もたまにしか来ないんだ。あと私の家からはちょっと遠いし」

「そっかぁ…」


 友達と好みが違うのは当たり前のこと。でも、好きなものを共有できる友達が少ないのは悲しいよね…

 そうだ!


「ねぇ!もし良かったらさ、また一緒に来ようよ!」

「いいけど…いいの?」

「もちろん!私もまたチーズケーキ食べたいと思ったし!それに私達、仲間で友達でしょ?」


 私がそう言うと満琉ちゃんはクスッと笑ったあと「ありがと」と言った。

 満琉ちゃんの言葉は続く。


「そうだ、私のこともあだ名で呼んでよ」

「いいの!?あ、私のことも呼び捨てでいいよ!んで……えっとねぇ……じゃあ……みっちゃん!」


 私がそう言うとまたみっちゃんはクスッと笑いながら「いいね、ありがと」と返事をした。

 会話はまだまだ続きます。


「あと今日はありがとね。色々教えてくれて」

「いやいや!私達こそみっちゃん達の事情を教えてくれて助かったよ!ね、ちーちゃん!」

「何で急に私にパスするの…」

「あれ?駄目だった?」

「別に。まぁ真聡や志郎には私達から話してみるから」

「協力できると良いよね。せっかく同じ力を持って、澱みや堕ち星と戦ってるんだから」

「ね。まぁ、1番の問題は聖也だけどね…」


 みっちゃんのその一言で空気が一気に重くなる。

 …みっちゃんも大変だね…本当に。

 でも私達だと聖也君に話すら聞いてもらえないからね…

 そんな事を考えていると、みっちゃんがまた口を開いた。


「でも助かったよ。色々名前を教えてもらって。特に澱みと堕ち星。聖也は全然見た目も強さも違うのに同じ怪物呼びしてたからさ〜…もうややっこしくってさぁ」

「確かにそれは…ややこしいよね……あ、私最初は澱みのこと泥人形って呼んでたよ」

「まんまじゃん」

「良いじゃん別に〜!!」


 私がそう反論すると、ちーちゃんとみっちゃんが笑う。

 こっちは真剣なのに〜!

 なんて話をしてるとみっちゃんが交差点で足を止めた。


「じゃあ私、こっちだから」

「…そっちって…邸宅街だよね?」

「…えっ!?みっちゃんってお嬢様なの!?」

「いやいや違う違う。それに聖也の家の方がお屋敷だから…」

「そういう問題じゃないでしょ…」


 星雲市には邸宅街があるのは知ってたけど、まさかみっちゃんがお嬢様だったなんて…本人は否定してるけど。

 そんな事はぜんぜん考えてなかったので凄くびっくりした。


 でもよく考えたら私達の学校って私立だから、家が豪華な人が多くても不思議じゃないよね…

 それにうちの学年には本物の社長令嬢がいるらしいし。

 私はその子と喋ったことはないけど。

 …そう考えると私が星芒高校に入学できたのが本当に不思議に思えてきた。


「え、由衣の家ってどうなの?」

「…どうって?」

「白上家は普通だよ」

「何でちーちゃんが答えるの!?普通って何が!?」

「いや、私は星鎖祭りの帰りに由衣の家の前通ってるからわかる」

「あそっか」

「そっか、こっちだと星鎖神社近いもんね」

「みっちゃんも今年来てたの?」

「うん。聖也とね」

「星鎖祭りには行くんだ…」


 星鎖祭り…楽しかったなぁ。やっぱり私は友達と一緒に何かするのが大好き。

 その頃はまだみっちゃんのこと知らなかったからなぁ……

 でも射守君のあの感じ……どこかで覚えが……


「あ!!」

「何」

「みっちゃん……星鎖祭りでベビーカステラ買うときに揉めた?」

「揉めたってほどじゃないけど……聖也がいつも通りで……え、何で知ってるの?」

「多分、ベビーカステラの出店で喋ってたの…私達です……」

「あ、そうだったの!?……そっかぁ……不思議な縁だね」

「ね〜」


 やっぱりあの口が悪い美形の人は聖也君だったんだ…

 謎の衝撃を受けていたらみっちゃんが「で智陽ちゃんの家は?」とさっきの話に戻った。


 いやその質問は駄目。いくら友達とはいえちーちゃんはその事を触れて欲しくないと思う。

 実際今、ちーちゃんは口ごもってる。

 私は慌てて誤魔化そうとするけど、いい言葉が思いつかない。

 するとちーちゃんが私を止めた。


「ありがと、由衣。でも大丈夫。…私はお母さんは小さい頃に亡くなって、お父さんも今は行方不明。だからお父さんと暮らしてたマンションで今は1人」

「…………ごめん。聞かれたくなかったよね」

「大丈夫。ちょっと言いづらかっただけ。でも、矢持さんなら話しても良いかなって」

「…そっか。話してくれてありがと。あと私のこと呼び捨てでいいよ?みっちゃんでもいいし」

「じゃあ、私も呼び捨てでいいから。……流石にあだ名は遠慮しとく」

「何で〜!?」

「ね。私も気に入ったのに」

「私はそんなキャラじゃないから」


 とちーちゃんは少し鬱陶しそうに返す。

 でも良かった。嫌なことを聞かれるのって辛いから。でもちーちゃんはやっぱり強いからそんなに心配いらなかったかも。

 安心したのとちーちゃんの返事で私は笑い出す。

 するとみっちゃんもつられる。

 最後にはちーちゃんも少しだけ笑った。


「じゃあ今度こそ帰るね」

「うん!また学校でね〜!」


 手を振って歩き出すみっちゃんを見送る。



 次の瞬間。

 いつもの、いやそれ以上のゾワってする感じがした。

 私は嫌な予感がして急いでみっちゃんの背中を追いかける。


 そして何故か立ち止まってるみっちゃんを追い越して、前に出る。

 私の嫌な予感は的中していた。


「何だ。1人かと思ったら牡羊座が一緒にいたんだ」


 そこにはへび座の堕ち星がいた。

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