第076話 ひとりぼっち
「で、どっちから話す?」
「えっと………」
数分後、私達が注文した飲み物が運ばれてきたのでちーちゃんが本題に入ろうとする。
ちなみに満琉ちゃんはコーヒー、ちーちゃんはカフェオレ、私はカフェモカを頼みました。
私はどっちかと言うとメニューにあったチーズケーキがとても気になったのは誰にも言えません。
話を戻すと、できるなら満琉ちゃん達の話を先に聞きたい。
でもこの前の屋上や今日の昼休みとかで怪しい印象を持たれてると思う、だから私達の話をから先にした方がいい気がする。でも先に満琉ちゃんの話を聞きたい。
と、ぐるぐる考えていると満琉ちゃんが口を開いた。
「…私から先に話すよ」
「え……いいの?」
「うん。先に攻撃に巻き込んだのはこっちだから。それにマイナスイメージから始まるのって大変だし、聖也も敵を増やしたいわけじゃないはずだから」
「じゃあ…お願いします…」
でも満琉ちゃんから言葉が返ってこない。
少ししてからようやく満琉ちゃんは口を開いた。
「……何から話したら良い?」
…確かにそうだよね。話す人は聞く人が何を知りたいって思ってるかわからないもんね。
そういえば最初にまー君に教えてもらったときも私が聞いたっけ。
少し前のことを思い出しながら私は質問をする。
「まず…満琉ちゃんも戦えるの?それとも射守君だけ?」
「聖也だけだよ。私は戦えないけどついて回ってるだけ」
「やっぱりそうなんだ」
この前の屋上のときからそんな気はしてた。もし満琉ちゃんも戦えるならあそこでわかりそうだもん。
でも聞いてみないとわからないから一応聞いてみた。
次に私は左手の甲に使ってる認識阻害の術を解除して、満琉ちゃんに見せながら「射守君の左手にもこんなのある…?」と聞いてみる。
「うん、あった。完全に同じってわけじゃないけど」
「それって…こんなの?」
そう言いながらちーちゃんはスマホを満琉ちゃんに見せる。
それを見た満琉ちゃんは「そうそう。それだった」と返事した。
私もスマホを覗いてみる。
画面には星座占いで見たマークが映っていた。そしてその下には『射手座』と書いてあった。
「…何でわかったの?」
「矢を放つ星座って少ないから。それに今いるメンバーは全員黄道十二宮だから、射守君も黄道十二宮かなって。その中だと射手座しか当てはまらないから」
ちーちゃんの推理に私は「凄い…」としか言えなかった。
それと同時にやっぱりちーちゃんについて来てもらって正解だったと思った。
…いや、ちーちゃんの凄さに感動してる場合じゃないよね?
私は気を取り直して次の質問をする。
「満琉ちゃんは射守君がいつからその力を持ってるか知ってる?」
「いやぁ…実は詳しいことは知らないんだよね…聞いても教えてくれないし。でも聖也が「俺の役目」とか「一族の使命」とか言ってるから私は生まれたときからかなぁ〜って思ってる」
「一族の…使命?」
「…矢持さんはいつ知ったの?」
「確か…小学4年生ぐらいのことかな?」
頭の中が混乱してきた私は情報を整理する。
まず、私よりも先に選ばれてたのはまー君。あとたぶんゆー君も。
その2人は……あれ?いつ選ばれたか私聞いてない?
でも、転校する前は普通だった。
だから少なくともまー君は中学生より後でゆー君は小学4年生よりは……それなら……
「射守君が1番最初!?」
「由衣、声が大きい」
「あっ…ごめん…」
「…それは今考えても仕方ないでしょ。…私からも聞いて良い?」
「どうぞ」
「矢持さんと射守君はどういう関係なの?」
「あ、それ聞いちゃう?」
「私も気になってた!」
本当に気になっていたのでまた大声を出してしまった。もちろんちーちゃんにツッコまれた。私は少し反省する。
…でも本当に気になってたんだもん。だって戦えないのに怪物と戦う人について回ってるんだよ?
…言葉にすると何か身に覚えがある気がする。
「実は私、昔怪物に襲われてね。そのとき助けてくれたのが聖也だったの。それがさっき言った小学4年生の頃。あの時はまだ力を使いこなせてないのに必死で助けてくれてさ。それがきっかけ」
「…その怪物って泥のようなやつ?それとももっとしっかりしたやつ?」
「泥のようなやつ。あの時は今ほど多くなくて1体とか2体ぐらいだったけどね」
「そんな前からいたんだ…」
私が初めて澱みや堕ち星を見たのはまー君に助けてもらった入学式の日。あの後、スマホで調べたけど何もでなかったのは覚えてる。
でもそんな前から居るなら…何で私は知らなかったんだろ……ずっとこの街で暮らしてるのに…
そう考えているとちーちゃんがまた質問していた。
「…話戻すね。でもその襲われたのと今ついて回ってる関係ない気がするけど」
「まぁ、それはきっかけだから。
その頃の聖也はさ、いや今もだけどクラスから浮いてたんだよね。ずっと1人で本読んでるし、行事ごとにも消極的。最初は気にしてなかったんだけど、助けてもらってからはなんか気になってさ。
だって自分の命かけて戦ってるのにひとりぼっちっておかしくない?って思ったんだよね。だからそれからは私から積極的に話しかけるようにしたんだ。まぁ、あの頃も今も鬱陶しがられてるけどね。
で、今は弓道部のマネージャーをやってるってわけ。弓道はやってみたけど…私には無理だった」
「…なんかドラマみたい」
「そう?襲われた方としては怖かったし嫌だったけどね…」
そう言われて私はへび座に襲われたときのことを思い出した。
今は牡羊座に選ばれて戦えるから怖くない。でも確かにあの時は本当に死ぬかと思った。
…あのとき牡羊座が私を助けてくれなかったらと考えると少しゾッとした。
「…ごめんね」
「まぁ、終わったことだから」
「ありがと。……冷たくされて嫌じゃないの?」
「う〜ん……あれでもだいぶマシになったんだよね。最初の頃なんて無視させれてたし…」
「えぇ…」
「どっちかと言うと、聖也のお父さんの私への印象の方が嫌かな…」
「…どう思われてるの?」
「息子について回る悪い虫って言われたことがある」
「…嫌な父親」
「…まぁ…その代わりにお母さんには優しくしてもらってるから」
「そっか……」
何かちーちゃんが怖かったけど気にしないことにする。
でも今の話を聞いて射守君も射守君でとても大変で、苦しみながら戦っている。そんな気がした。
あと何かまー君と射守君、私と満琉ちゃんは似てる気がする。
しかし、その考えは同時に感じた空腹感に押し流されてしまった。
私が色々考えていると満琉ちゃんが口を開いた。
「…こんなところ…かな?」
「たぶん。由衣は?」
「えっと……私達の話をする前に1つ……良いですか?」
「どうしたの?」
「……チーズケーキ、頼んでも良いですか」
私のその言葉を聞いた満琉ちゃんは少し固まった後、笑いだした。
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