第075話 話さない?
昼休み。
皆が思いも思いの時間を過ごしている、高校の自由時間。
そんな時間に私は黒板に書かれた4限の授業の内容を消している。
今日の日直は私だからね。これは仕事だから仕方ない。あとちょっと消すの楽しいし。
消し終わったので私は黒板消しを置く。そして「さて、みんなとお昼食〜べよ」と思いながら振り向く。
…誰もいない。
まー君もゆー君もちーちゃんもいない。完全に置いていかれた…。
ときどき私の扱いが酷いと思うんだ。
少し拗ねながらとりあえず鞄からお弁当を出す。
いっそのこと1人で食べようかな。
そう考えていると、麻優ちゃんが話かけてきてくれた。
「もしかして…置いていかれた?」
「…多分。しかも何も言わずにだよ?酷いと思わない?」
「まぁ…ねぇ。でも無言でも由衣ちゃんが来ると思ってるってことだよ。それだけの強い信頼ってことだよ、きっと」
強い信頼…
確かにまー君もちーちゃんも最初の頃よりは距離が近くなった。ゆー君は昔とそんなに変わらないし。
でもやっぱり何も言われず置いていかれるのは寂しい。
なので私は麻優ちゃんに意見を求める。
「それって…どうなの?良いことなの?」
「良いことだと思うよ?いいじゃん。言葉がなくても通じ合える友達って」
それは…そうかも知れないけど…
でもまー君はまだ何か隠してる。それも大事なことを。
私にはそれが何かはわからない。
言葉がなくても通じ合えるって…なんだろう。
そう考えている私は麻優ちゃんの顔がどこか寂しそうだったのに気づかなかった。
「…って話てるとのんびりお弁当を食べる時間が無くなっちゃう!」
「由衣はまだ食べてないもんね。私も途中だし…どうする?私のとこ来る?」
麻優ちゃんはクラスの友達と食べてる。
私も休み時間は話したり、たまに一緒に遊びに行くから気まずいわけじゃないけど…
でも今日は置いていかれたことに文句を言いたいからまー君達を追いかけたいと思った。
私は「ありがと。でも私やっぱり屋上でみんなと食べてくる!」と言って教室を後にする。
気持ち早歩きで屋上を目指す。
ここを曲がって階段を上れば屋上。
そう思いながら曲がろうとしたとき、いきなり目の前に人が現れた。
私は驚いて数歩後ろに下がる。
ぶつかりはしなかったけど危なかった…
私は軽く頭を下げて謝る。
「ごめんなさい!私急いでて…ごめんなさい!」
「いやいや、私もちゃんと見ないで曲がったからお互い様だよ」
そう言われて頭を上げる。
相手の顔をようやくちゃんと見る。
どこかで見覚えが…
「…あ!矢持 満琉ちゃん!?」
「…何で私の名前を?どこかで会ったことがあったっけ?」
名前を叫んでから思ったけど、あの屋上のとき私は最後まで星鎧してた。もちろん名前も言ってない。
つまり私は満琉ちゃんのことはわかるけど、満琉ちゃんは私のことわからないよね。
どうしよう…何て言ったら私のことわかってもらえるかな…
私は悩みながらもとりあえず言葉を口にする。
「え…えっと……砂山 鈴保ちゃんは知ってるよね…?」
「鈴保ちゃんの知り合い?…鈴保ちゃんがあなたに私の話をしたの?」
知り合いってだけでそこまで仲良くはないんだ…
これは逆に怪しい人になってしまったかもしれない。
私は悩みながらも強硬手段に出る。
誰が聞いてるかわからない場所であんまりこういう話はしない方が良いとはわかってるけど……仕方ないよね。
だって、もし満琉ちゃんと仲良くなれたら聖也君も仲間になってくれるかもしれないもん。
「えっと…その…前に怪物と戦ったときに鎧人間と…」
「…何で知ってるの」
「私その鎧人間で…ほら!聖也君と喧嘩になりそうな鎧人間を止めてたのが私で…」
「…あの紺色と赤色の鎧があなたなの?」
「そう!私、白上 由衣っていいます!」
「鈴保ちゃん以外にも高校生いたんだ…」
「…あの鎧人間全員高校生でこの学校にいます」
「…え」
何とか私の怪しい人感は無くなったみたい。それに話にも驚いてもらってる。
あとは約束をするだけ!
「えっと…もし良かったら…もっとちゃんと話さない?」
☆☆☆
流石に昼休みはお互い時間がないから放課後ってことになって連絡先だけ交換して解散した。
ちなみにまー君達に無言で先に言ったことの文句を言ったら「言ったのにお前が返事をしなかった」って言われた。
消すので夢中で聞こえてなかった…ってこと!?
それはさておき、私達は改めて放課後に集まった。
そして「場所どうする?」と満琉ちゃんに聞くと「行きたいところがあるからそこにしよう」と言われた。
と言うわけで私達は今、満琉ちゃんを先頭に住宅街を歩いている。
ちなみにちーちゃんも一緒です。私が呼びました。
「とりあえず着いてきたけど何で私まで…」
「だって1人はちょっと…ちゃんと説明できるか怪しくて…」
「いや誘ったのは由衣なんでしょ」
「そうなんだけど…」
「というか私じゃなくても良かったでしょ」
「だってしろ君とすずちゃんはそれぞれ用事があるでしょ。ゆー君もなんか無理らしいし、まー君を呼ぶのも…ちょっと…」
「だから私…か」
「それに女子会みたいで良くない?」
私がそう言うとちーちゃんにため息をつかれた気がする。
…呆れられてる?
そんな話をしていると満琉ちゃんが振り返り「着いたよ」と教えてくれた。
案内されたところは住宅街にあるおしゃれそうなカフェ。
ところで…ここ私の家からそう遠くないんだけど…こんなお店あったんだ。全く知らなかった。
そんな事を考えながら満琉ちゃんに続いてお店の中に入る。まず感じたのはコーヒーのいい香り。
そして店内は知る人ぞ知るって感じの凄くお洒落な雰囲気。
ただ…私1人だと入りづらいって思ったかも。
満琉ちゃんがお店の人と話してる。
マスターって言った方が良いのかな?年齢は40代…?以上の男性。
話してる感じ、満琉ちゃんは常連さんなのかな…?
そして私達は1番奥の席に案内された。
とりあえず私達は鞄を置いて席につく。
私は満琉ちゃんの向かいでちーちゃんの隣に座った。
すると最初に私が思っていたことをちーちゃんが先に聞いてくれた。
「ここは良く来るの?」
「うん。たまにだけどね。お父さんも私もここのコーヒーが好きでさ〜。あと…常連さんぐらいしか来ないから秘密の話するにはちょうどいいかなって」
確かに夕方にしてはお店の中にお客さんが少ない。
私は満琉ちゃんがここを選んだ理由に納得する。
でも私…何も入れないコーヒーは苦手なんだよね…
そう思いながら満琉ちゃんが渡してくれたメニュー表にちーちゃんと2人で目を通し始めた。
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